福島県二本松市、郡山市での取材記録

以下は、2012年2月17日時点における、福島県二本松市郡山市での取材記録です。


この取材は、NHK教育テレビの「ニッポンのジレンマ」という番組内で報告するためのもので、撮影スタッフと共に行った取材でした。既に番組(ニッポンのジレンマ2 講義編)は放送され、その際に放送されたのは取材模様のごく一部であったため、せっかくなのでひとつの情報発信として、あるいは番組をご覧頂いた方のサブノートとして、取材メモや写真などをいくつかクリップしていきたいと思います。既にFacebookでは、これまでの取材時に撮影した写真の一部などはクリップしているのだけれど、エントリー化したほうが見やすいと思うので。


2月17日は、社会学者の開沼博氏と共に、NPO法人フローレンス代表の駒崎弘樹氏の視察に同行。NPO法人フローレンスが運営する、放射線被曝を気にせず遊ぶための施設「インドアパーク」。第二、第三のパークを作るために候補地を視察する駒崎氏に張り付きつつ、取材。



福島県二本松市の公園(安達ケ原公園)に設置されていたリアルタイム線量測定システム。同様のものが、数千台が学校や公園に設置されてる。


関連記事:「線量リアルタイム測定システム」10分ごとの結果公開
http://www.minyu-net.com/news/news/0222/news5.html


この時の数値は0.326μs/h。この広い公園は、以前に表面の土と入れ替えたものの、この日は利用者の姿はなし。管理している方の話によれば、震災後、外で遊び利用者は目に見えて減っているとのこと。


この公園には、屋内遊戯場があり、そこでは数組の親子が遊んでいた。それぞれのお母さんに少しお時間をいただき、お話を聞く。

二本松市内の屋内公園にて。おばあちゃんと一緒に子どもと3人で遊びに来ていた、2歳6ヶ月の女の子を持つお母さんとのお話
「この公園に来るのは初めて。子どもを持つお母さんに聞いて、初めて来たんです」
――屋内で遊べると聞いて?
「そうですね」
――外では遊べない?
「震災後、まったく外には出してないですね。近くに、保育園に併設している屋内施設はあるんですけど、今(2012年2月)はインフルエンザが流行ってるので、そこでも遊ばせられなくて。(普段は)家でほとんど遊んでたんです。みんなどこに行ってるのかわからないですけど、外で遊ぶ人はそんなには見ないですね」
――こういう屋内の施設があると分かったら、もっと来たいと思いますか。
「テレビで、福島市や、赤十字などが施設を持ってると聞いたんですけど、混んでいるとなかなか行きたくなくて」
――子どもを遊ばせられないからと、二本松から出ちゃう方もいる?
「友人では、山形のアパートを借りて行ったり来たりしている人もいるし、郡山の方だと、新潟の方に借りている人もいますね。いろいろですね、家庭環境によって。うちも本当は避難したいけれど、主人の仕事の関係とか、年をとっているおじいちゃんおばあちゃんもいるので、置いてはいけないし。避難したいけど、できないっていうのもあるし」
――お母さんはマスクをしていますけど、それは、対策?
「あ、これはインフルエンザです(笑)。どこかからもらったり、娘にうつしたりすると心配で」
――周りでは、マスクはどうですか?
「園のセンターなんかに行くと、お母さん方はけっこうつけてますね。でも、子どもは、はずしちゃうんで。うちの子はまだ、マスクを渡しても外して遊んじゃうので、マスクはできないですね」
――保育園以外のお出かけは?
「食料品を買いにスーパーに行く時に連れて行って、その時にスーパー内を少し歩かせるとか。そのくらいです」
――2歳6ヶ月くらいですと、砂遊びとかもしたい年頃ですよね。
「そうなんです。でも、(この子は)まったく砂遊びをしたことがなくて。(……)できれば、(保育園併設の施設とかに)行かせるようにはしています。うちの子、まだあまりお話が、ゆっくりめで。他の小さい子と一緒に一緒じゃないからかなとも思って」
――僕の子も同じくらいで、やっぱり言葉の遅れとかは気になったりしますけど、他のお母さんと話すと「うちもそんなもんよ!」とか言ってくれるんですね。そういう安心のためにも、ママ同士のつながりも必要ですよね。
(……育児話……)
「保育園や幼稚園に預けていないお母さんは、外では自由に遊ばせてはいないですね。放射能がどういう影響があるのかわからないので、好んでは遊ばせないですね。屋内施設ができたらいいなとは思いますが、できるのがみんな、福島とか郡山なんで、毎日行くわけにはいかないんですよね」

■4歳の男の子と一緒に屋内公園に来ていたお母さんのお話(Aさん)
――他の屋内施設にもよく行かれるんですか?
「この間は、本宮の「えぽか」に行ったりしました。でも、この子の下にもちっちゃい子がいるので、だいたいは家で遊んでます」
――普通の公園では遊ばない?
「遊ばないですね。今は寒いからというのもありますが、やっぱり心配なので」
――線量が。
「そうですね。今日は、友だちと一緒に来たんです。こういう施設があるって聞いたんで」
(…)

■1歳半の女の子と一緒に屋内公園来ていたお母さんのお話(Bさん)
――いつもはお家で?
「そうですね、いまは」
――外の公園では遊びます?
「外では、遊ばないですね。実家が二本松なんですけど、今は郡山に住んでいるので、新しくできた「PEP」に行ったり、「ニコニコこども館」に行ったりしてますね」(※いずれも屋内施設)
――他のお母さん方と相談したりしますか。
「そうですね、他のお母さん方も、やっぱり「(外では)遊ばせられないね」って話してますね。「ニコニコこども館」も、子供の人数が多いので、いまだとインフルエンザが心配で遊びに連れて行ってあげられなくて。前は保育園に行ってたんですけど、園でも外で遊ばせられないので、中で遊ばせてましたね」
――いま心配していることは?
「やっぱり、今後の(子どもの)健康状態は一番心配ですね。県で18歳未満の医療費とか無料化っていうことで検討されていると思うんですけど、そうなってもらえると、病院に行く回数が増えても、少しは安心していけるかなって。子どもだけじゃなくって、大人の方は大丈夫なのかなって心配も少しあります。食べ物とか、水とかも、すごい気を使ってますね。大変ですね」
――子どもは、やっぱり外に出たがりませんか?
「しますね。雪とかが好きなので、触りたがるのを、「ちょっと待って」って止めたり。「大丈夫だ」って言われてますけどね、本当に大丈夫かはわからないからね、って思っちゃって」

■上述、AさんとBさん、合流してのお話
――周りで避難されている方は?
A「結構いますね。年賀状で、「住所変わりました」って書いてる人が結構いるなって」
B「震災の日からすぐ、もういないって方が多かったですね。やっぱり、そうやって行ける場所があっていいなって思いますね。実家も福島県、とかだと、どうしても行く場所がないし、仕事もないし、生活できない。だから避難できない」
A「避難しても、どういう生活できるのか、不安だしね。そんなだったら、家の中にいるしかないのかなって」
B「転々とされている方も多いですよね。避難しても、定まらなくて、あちこち、「いまはここにいる」みたいな感じで。そうすると、お金大変だろうなーって、すごい思いますけれどね。保証されるわけじゃないしね、自費だから。でも、あまり神経質になると、ストレスで病気になると思うから」
A「もう、こういう生活をしていくしかないんだって、思って。子どもにあまり不安かけないようにするしかないのかなって」
B「地震になったときとかの、あの(テレビとかの)音とかにも(子どもが)敏感で。あの音がなると、すごい速さで抱きついてくる。「怖いー!」みたいに。大きい音に敏感ですね。地震の時もすごい泣いてたから。食べ物と、あれだよね、外で遊べないと、体力つかないんじゃないかなって」
A「運動は全然、前ほどはできない」
B「日光にあたらないしね」
A「家の中にいるから」
B「県外とかにも行くようにしているんですけど、そうすると同じくらいの子どもたちは、何も心配しないで遊んでていいなぁって思うんですよね」
A「うん、うん」
B「(屋外の)公園に行っても誰もいないしね。ここも、土を削ったと思うんですけど、いないですよね」
B「(除染が進んでも)どのくらいなのかなって。子どもってすぐ手を口にいれるし、転びやすいし、転んでる度に手を洗ってもられないし」
A「砂遊びなんか、できないよね」
――どんな遊びをさせてあげたい?
B「かけっこ。歩けるようになってから外に出てないので。(出かける時は)ほとんど抱っこなんですよね。やっぱ、時間かかっちゃうので。外の滑り台とかも、一回も遊ばせたことが無いので。地震の時はまだ小さかったし。だから、可哀想ですよね。お花とか咲いてるのとか、昆虫とか、自然のふれあいがなくなっちゃうんだろうな。テレビで見る花、テレビで見るちょうちょ、みたいな。短時間ならいいんだろうけど、どのくらいならいいのかわからなくて」
A「ねえ。どのくらいからかわからないから」


子どもへの影響を気にして、なかなか外で遊ばせられないこと。避難したいという気持ちもあるが、お金以外にも、仕事、家族関係など、できない事情があること。安全という情報も信じられず、ストレスになることなどを伺う。


別の、3児のパパさんにお話を伺った時は、「一度線量の低い県外に出れば、それまで体内に蓄積された放射性物質が体内から出ていく、というウワサを聞いたことがあるよ」とポツリ。「ウワサだと分かっていても、万が一って思って、でかけてみる。それが親なんだよね」とのこと。「県外にでかけること自体は、いいことですからね」と返すも、モヤモヤが残る。



これは駒崎氏が運営する、「ふくしまインドアパーク」の模様。「月500円で遊ばせ放題」で、サービス開始三週間で利用者は1000人を超えた。


インドアパークのfacebookページ
http://www.facebook.com/fukushima.indoorpark


以前、シノドスで取材をさせてもらったときの記事
http://synodos.livedoor.biz/archives/1867082.html




子どもたちに遊具の人気投票をしてもらい、不人気のものは別の遊具へと入れ替える。どんなに組み立てに苦労した遊具だろうが、値が張ったものであろうが、子どもたちに使われなければ意味がないとのこと。




受付のところには、「放射線測定器こちらです」。屋内だけあって、線量はとても低かった。



取材中は、こうした地元紙、フリーペーパーなども、しばしば手に取って読む。



育児情報の掲載されたフリーペーパー、1ページ目には放射線測定器や測定所の案内記事。



屋内施設の案内などに力をいれている。冬というだけでなく、「震災後、子どもたちは安心して外で遊べない状況に…ここでは、屋内で安心してカラダを動かせるスポットを紹介!」の文言も。




放射線対策の掲載された母親向けのペーパーなどはたくさん見かける。中には、気になる記述のある食事案内記事なども。



以前、シノドスジャーナルに、猪飼周平氏の「原発震災に対する支援とは何か ―― 福島第一原発事故から10ヶ月後の現状の整理 猪飼周平」という記事を掲載させていただいた。そこには、

福島の人々がその地にとどまることを選択していることについて、福島の現状を理解しない人びとの中には「メディアが安全を煽っているために住民が避難の必要性を認識できないでいるのではないか」と考える人が少なからずいるようだ。もちろん福島県の地元新聞である福島民報福島民友などをみると、「風評被害とたたかおう」といった記事が多いのは事実である。だが、この見解が正しいと考える人は、たとえば福島市において日常みられる次の光景とこの見解が整合するかを考えてみる必要がある。1)福島県内でも福島県産の食品は回避されている。2)書店では放射能から身を守るためのハウツー本がベストセラーとなっている。3)街中で小学生以下の子どもをほとんどみかけない。
これらの事実は、福島県民が放射線に関するリテラシーが低いという認識は事実ではなく、一般の国民より高いレベルで、放射線に関する知識をもっているというのが事実であることを示唆している。
http://synodos.livedoor.biz/archives/1891136.html


と記されていた。実際、色んな人と話をしても、多くの人が放射線に対する知識を持っていると感じさせられる。



また、郡山市内の書店でも多くの原発放射線関連の本が並び、ランキング上位にも数冊入っていた。


この他に、翌18日には、南相馬市の病院や、除染ボランティアの方々の活動、地元ラジオ局の方などを取材。



この写真は翌18日、南相馬市で撮影。宮城、岩手でもそうだったけれど、ボランティアや自衛隊に感謝するメッセージの書かれた看板などを多く見る。福島で見かける看板としては、「除染中」という看板があった。急いで車移動していたため、看板の撮影は出来なかったけれど、「除染 看板」で画像検索すれば、たくさん出てくる。



病院内の掲示板。



除染が必要な場所を探すための計測作業。




高い数値が出来たところをマーキングし、後ほど除染。これらの取材報告は、また別の機会に。


※3月31日追記:書きました→ http://d.hatena.ne.jp/seijotcp/20120331/p1


「福島の人は」と一括りにして行う論評なども、未だにしばしば見かける。けれど、地域、時期、その人の属性など、置かれている状況など、様々な要因によって「当事者性」は大きく変わる。取材をするたびに、新しい情報が得られるのだけれど、同時に、まだまだ知らないことがたくさんあり、とてもじゃないけれど、被災地、被災者のすべてを語り尽くすことなどはできないと思い知らされる。「ここでは、この人は、こういう課題を持っていた」ということを可視化し、きめ細やかなニーズに応じていく必要がある。当たり前のことだけど、何度強調されてもいいと思う。


※ふんわりしたエントリですみません。また機会あれば、ブログでも報告します。


【関連エントリなど】
震災のあった長野県栄村を取材してきました
http://d.hatena.ne.jp/seijotcp/20110423/p1
ルポ・遺体安置所が語りかけるもの
http://nikkan-spa.jp/88516
釜石&大槌ルポ:「和」Ring-Projectの広がる和
http://nikkan-spa.jp/130543
石巻ルポ:「希望の缶詰」が開いた再生への道筋
http://nikkan-spa.jp/102695
女川ルポ:子どもたちに笑顔を! 『リアスの戦士★イーガー』プロデューサーの軌跡
http://nikkan-spa.jp/110175
柏市で再生される「信頼」のかたち ―― 「農地を測る / 農地を見せる」で何が変わるか
http://synodos.livedoor.biz/archives/1913579.html