伊藤詩織氏と大澤昇平氏との裁判、判決内容が示唆するもの

ジャーナリストの伊藤詩織氏と、最近はTwitterのプロフィールに「Ex-東大最年少准教授」「経済学者」という肩書きをつけている大澤昇平氏との裁判について、東京地裁は7月6日、大澤氏に対し、33万円の支払いと投稿の削除を命じました。判決文の内容を踏まえつつ、投げかけられている課題について考えてみます。

まずは、判決文から抜粋・要約しながら、事の経緯を追いましょう。

裁判の前提

  • 大澤昇平氏は、東京大学大学院情報学環・学際情報学府所属の特任准教授の職にあった者である。ツイッター上の被告のアカウントは、2020年7月20日時点で、約1万8000人のフォロワーを擁していた。
  • 大澤氏は、「伊藤詩織って偽名じゃねーか!」という文章に「# 性行為強要」及び「#芦暁楠」とのハッシュタグを付し、平成22年9月 8日に東京地方裁判所において伊藤詩織こと芦院楠という人物について破産手続が開始したことが記載された官報公告記事の画像を添付したツイートを投稿した。
  • 実際には、原告伊藤氏の本名は「伊藤詩織」であり、通名はなく、過去に破産手続開始決定を受けた事実もない。
  • なお、大澤氏は他にも、以下のようなツイートを行なっていた。
  • 「どういうロジックで訴えるんだ?別に伊藤詩織を名指しで誹謗中傷してるわけじゃないから、名誉棄損には当たらないでしょ」
  • 「伊藤詩織の何がダメダメかって、刑事裁判でレイプが認められなかったにもかかわらず、その後の民事裁判の結果をレイプを関連付けている点。今回もやってることの筋が通っておらず全く支持できない。」
  • 「(スラップ訴訟というリプライに対して)恐らくそうでしょう。ただ伊藤氏の場合はこれまでの行いもあって露骨に透けて見えるため、よりセコく見えちゃいますね。」
  • 「具合悪そうだから介抱したのに急に「レイプされた」とかファビョり出して社会的地位を落としにかかってくるのトラップ過ぎるし、男にとって敵でしかないわ」
  • 訴訟開始後も、大澤氏は伊藤氏に対し、否定的なツイートを繰り返していた。

大澤氏は数々のツイートを行なっていますが、今回の裁判では、大澤氏が「伊藤詩織って偽名じゃねーか!」という文言と共に、伊藤氏が破産経験者であるかのように受け取られる画像をツイートしたことを受けてのものです。よって裁判では、この一件のツイートについて、どのような認定がなされるかが問われていました。つまり争点は、次のようになります。

主な争点

(原告=伊藤氏側の主張)

本件ツイートは、原告が本名を芦暁楠、通名を「伊藤詩織」とする外国人で、平成22年9月8日に東京地方裁判所で破産手続開始決定を受けたという事実を摘示するものである。 本件ツイートは、原告が支払うべき債務を支払うことができず、破産に至ったかのような印象を与えるから、原告の社会的評価を低下させる。

(被告=大澤氏側の主張)

「伊藤詩織」という名前は、ツイッター上も多数存在する上、芦暁楠という破産手続開始決定を受けた原告と別人であることは既にネット上で拡散されており、広く認識されていたから、一般読者において、本件ツイートが原告について言及したものと最終的に認識されない以上、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として、本件ツイートが原告に関する何らかの事実を摘示したとは認められないし、本件ツイートによって原告の社会的評価は 低下しない。


伊藤氏側は、伊藤氏が破産に至った人間であるかのようなツイートは、社会的評価を下げると主張。対して大澤氏側は、このツイートは別の「伊藤詩織」氏についての投稿であり、読者もそのように受け止めると反論します。なお、裁判の中で伊藤氏側の弁護士が、「では、被告は、この『伊藤詩織』は誰だと考えてツイートしたのですか?」と尋ねるも、大澤氏側が答えられないという一幕もありました。

続いて、慰謝料について見てみましょう。

 

慰謝料について

(原告=伊藤氏側の主張)

本件ツイートは、原告の経済的信用を毀損しただけでなく、別件性被害の二次被害というべき訴外B(補足:はすみとしこ氏)による誹謗中傷行為に対して原告が別件名誉毀損訴訟を起こしたことを理由に、さらに原告を誹謗中傷するものであり、本件ツイートによる被害は原告にとって別件性被害の三次被害と評価できる。これにより原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料は100万円が相当である。(補足:これに加えて弁護士費用10万円分が加算)

(被告=大澤氏側の主張)

否認ないし争う。本件ツイートが、原告が破産手続開始決定を受けた事実を摘示すると認められるとしても、上記摘示事実は専ら原告の経済的信用を低下させるものであり、別件性被害とは無関係である。また、上記摘示事実は、本件ツイートに添付された画像により間接的に摘示されるにとどまるから、その影響力は小さい。


伊藤氏側は、大澤氏のツイートは、二次加害を訴えた裁判をさらに中傷する三次加害であり、精神的苦痛が大きいと主張。ツイートの削除を求めます。対して大澤氏側は、これはそもそも別の伊藤氏についての投稿だが、仮に原告の伊藤詩織氏について触れたと読まれたとしても、経済的信用をさげたとしても三次加害には当たらず、画像による間接的な言及なので影響は小さいと主張。ツイートの削除は否認します。

これらの争点について、裁判所はどのように判断したのでしょうか。名誉毀損にあたるかどうかは、「一般の読者の普通の読み方」を基準として考えます。つまり一般的な人が大澤氏の投稿をみて、「これは、原告である伊藤詩織氏への中傷だな」と読むかどうかがポイントになります。判決文を読んでみましょう。

 

裁判所の判断

被告は、①原告と同姓同名の人間に関する話題はツイッター上も多数存在すること、②原告が芦暁楠という人物と別人であることは本件ツイート時点で広く認識されていたことを理由に、本件ツイートが原告について何らかの事実を摘示するものとは認められないと主張する。
しかしながら、原告が「伊藤詩織」という実名を明らかにして別件性被害を訴えて社会に発信している人物であること、「#性行為強要」のハッシュタグは、性被害に関する文脈で用いられているものであること、本件ツイートに先立ち、被告が複数回原告を名指しした上で別件性被害や別件名誉毀損訴訟に言及する投稿をしていること等に照らし、一般の読者の普通の注意と読み方を基準にすれば、本件ツイートが「伊藤詩織」という人物の中でも原告を名指しするものであることは明らかである。よって、被告の上記①の主張は理由がない。
一方、本件各証拠によっても、原告が芦暁楠という人物と別人であることが、一般の読者による解釈の当然の前提であるといえるまで社会的に広く認識されていたと認めることはできない。かえって「#芦暁楠」からのハッシュタグ検索による検索結果の大半が原告に言及するツイートであることからは、実際に大半の読者が原告と芦暁楠という人物とを誤認し、あるいは、結び付けて認識していることが裏付けられる。よって、被告の上記②の主張は前提を欠き、理由がない。


大澤氏は「別の伊藤さんのことですよ」と言い逃れしようとしましたが、裁判所は「普通の読解力であなたの投稿を読めば、原告である伊藤さんのことを書いていると読むのが妥当ですよね」と判断しました。

では、大澤氏の投稿が、伊藤氏に対するものだと認められるとして、それが社会的損失を生む内容であるかどうか。裁判所は次のように判断しました。


社会的評価の低下の有無

本件ツイートは、原告が本名を芦暁楠、通名を「伊藤詩織」とする外国人であり、平成22年9月8日に東京地方裁判所で破産手続開始決定を受けたという事実を摘示するものであって、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準とすれば、原告が多額の負債を抱え、経済的に破綻して破産手続開始決定を受けるに至ったかのような印象を与えるから、原告の社会的評価を低下させると認められる。
これに対し、被告は、①原告が芦暁楠という人物と別人であることは、本件ツイート時点で広く認識されていたこと、②本件ツイートに対するリプライの中には、原告と芦暁楠が別人であることを指摘するものも含まれるから、本件ツイートの下部に表示される上記リプライも読めば、原告のことを破産手続開始決定を受けた芦暁楠であると認識する読者はいないと考えられることを理由に、本件ツイートにより原告の社会的評価は低下しないと主張する。
しかしながら、原告が芦暁楠という人物と別人であることが、一般の読者による解釈の当然の前提であるといえるまで広く社会的に認識されていたと認めることはできないから、被告の上記主張①は前提を欠く。
また、本件ツイートは、読者がこれを閲読し得る状態になった時点で原告の社会的評価を低下させるものであり、 本件ツイートが投稿された後に本件ツイートにされた他者のリプライの内容によって、本件ツイート時点で原告の社会的評価が低下した事実自体に消長を来すわけではないから、被告の上記主張②は失当である。
そして、上記の摘示事実(補足:伊藤氏が破産経験のある外国人であること)は、真実に反しており、かつ、被告から上記摘示事実が真実であると信じるについて相当の理由がある旨の主張立証はない。
よって、本件ツイートは、原告に対する違法な名誉毀損行為に当たる。


大澤氏側は、「①多くの人は原告の伊藤さんが掲載画像と別人であると知っている。そして②大澤がツイートした後、『それは別人ですよ、間違いですよ』というリプライが多く集まったので、そのリプライも合わせて読めば、大澤ツイートを元に原告を非難することはない」と主張しました。しかし裁判所は、①そのような前提はないし、②間違いを指摘するリプライが来てくれたからと言って、大澤氏が伊藤氏の社会的評価を下げたこと自体がチャラにはなりませんと判断しました。

最後に、損害賠償額については、どのような判断がなされたのでしょうか。

 

損害の発生及びその額

(ア)本件ツイートは、それ自体原告の経済的信用を毀損し、その社会的評価を低下させるものであるところ、その態様は、通名を「偽名」と誇張して記載した上、その裏付けであるかのように官報公告記事の画像を転載するなど、読者の誤認を殊更誘引する演出を加えたもので、悪質であること、(イ)被告は本件ツイートの理由を自ら説明しないが、原告を名指しで中傷する態様でなければ名誉毀損とならないという趣旨の先行ツイートを踏まえると、本件ツイートでは、あえて原告とは別人である者を対象とする表現行為の体裁を用いて、先の持論のもと名誉毀損とはならないとする方法を実践したことがうかがわれ、そうであるとすれば身勝手な動機に基づくものと言わざるを得ないこと、(ウ)この点をおいても、被告の一連の先行ツイートから、 被告は、原告の別件名誉毀損訴訟提起に反感を抱いていることを繰り返し表明した上で、本件ツイートに及んだもので、原告に対する攻撃の一環であると認められること、(エ)被告が本件ツイートを発信したアカウントは令和2年7月2 0日時点で約1万8000人のフォロワーを擁していたもので、本件ツイートの社会的な影響は小さくないこと、(オ)被告は、本件の提訴報道後、ツイッター上に「伊藤詩織とかいう活動家が突然俺を訴えると言い出し た。正直全く意味が分からない。」、「俺は断固抗戦する。」、 「【悲報】 伊藤詩織、裁判前に一方的な会見を開き世論を味方に付けようとするも、反応が真逆で大失敗してしまう。」などと投稿し、原告に対する攻撃的な姿勢を軟化させていないこと、以上の事情が認められる。
そうすると、本件に現れた諸般の事情に鑑み、本件ツイートが1回の投稿にとどまることを考慮しても、原告に与えた精神的苦痛は軽視できないもので、原告に対する慰謝料の額は30万円が相当であると認める。


ここでは、大澤氏の、裁判前後のツイートなども考慮されているのがポイントです。 裁判所は、(ア)伊藤氏を「偽名の破産経験者」と位置付ける大澤氏のツイート内容は悪質なもので、(イ)名指ししなければセーフという独自理論は身勝手であるとしつつ、(ウ)もともと大澤氏は伊藤氏を繰り返し攻撃しているから本件ツイートもそのうちの一つであり、(エ)その影響力は小さくなく、(オ)さらに訴訟後もイキったツイートを連発しているから相変わらず攻撃的だよね、と判断しました。結果、大澤氏は敗訴し、33万円の支払いと、記事の削除を求められています。

 

伊藤氏側代理人のコメント

この結果を受けて、原告代理人である山口元一弁護士は、次のようなコメントを出しています。

① 同姓同名の別人物が存在するから、多くの人がツイートの内容をデマだと認識していたから、伊藤さんの社会的評価が低下していないという主張が排斥されたこと
② 通名を「偽名」と誇張したうえに官報公告の画像を引用するなど読者の誤認をことさら誘引する手法が悪質と評価されたこと
③ 名指しで中傷しなければ名誉毀損にならないという独善的な解釈の実践が身勝手と評価されたこと
④ 当該ツイートの前後に原告に対する反感を繰り返し表明しており、本件ツイートが原告に対する攻撃としてなされたと評価されたこと
⑤ 18000人のフォロワーをもつアカウントを通じたツイートで社会的な影響が大きいと認められたこと
⑥ 提訴後も原告に対する攻撃的な姿勢を維持している態度がマイナス評価されていること
など主張のすべてが認められている点については満足している。
損害賠償額はもっと高額であるべきだったが、ネット、特にTwitter上の誹謗中傷は、個々のツイートがそれぞれ悪質という点とは別に、誹謗中傷が多くのユーザーの目に触れることによってリツイートやコピーされるなどして新たな誹謗中傷を呼び、いわば大量の誹謗中傷となって被害者に襲いかかり、大きな苦痛を与える点に問題がある。本件でも、同種のツイートをしたのは大澤氏だけではないし、多くのユーザーが大澤氏のツイートをRTしている。代理人は、判決が、ネット上の誹謗中傷を許さない社会への一助となることを願っている。

伊藤氏代理人のコメントは、原告側の主張が全て認められたことに納得しつつ、後はこうした誹謗中傷問題が繰り返されないように望むという内容でした。

一方で大澤氏やその代理人は、メディア各社の取材に対しても、特段のコメントを出していないようです。

 

伊藤詩織さんを「偽名」とツイート、元東大特任准教授・大澤昇平さんに賠償命令【UPDATE】 | ハフポスト

反論について、大澤さん側の代理人はハフポスト日本版の取材に対し、「守秘義務のため個別案件の取材には答えられない」としていた。

伊藤詩織さんの裁判、「偽名」とツイートした元東大特任准教授に33万円命じる

BuzzFeed Newsは大澤さんに取材を申し込んでいる。

伊藤詩織さんを中傷 東大元准教授に賠償などの判決 東京地裁 | NHKニュース

東京大学の大澤元特任准教授は「勝訴しました」とか「4対6でギリギリ負けるかなと思ったが、7対3で大勝した。裁判長、公平な判断をありがとうございます」などとツイートしています。

 

流言を求める背景

今回、大澤氏がツイートした内容は、大澤氏以前にも複数のユーザーが行い続けたものでした。ではそもそも、「伊藤氏は偽名であり、日本人ではなく、破産している」というデマが、なぜ拡散したのでしょう。

これら流言は、「伊藤氏は虚偽の告発をしている」というイメージを強調するため、否定的ステレオタイプとして受け取られるような情報を含んでいる、ある意味で典型的なものでした。そのような内容の(偽)情報を求める人が、相応に存在したということです。

ウェブ上には、伊藤氏を「信用できない語り手」として位置づける情報を求める人が一定数います。そうした人々にとって、「偽名流言」「破産流言」はとても都合の良いものでした。実際に性暴力など存在しなかったはずだ。異なる集団に属する人が、利害意識に基づく虚偽の訴えを起こしたのだと確信できるためです。そのように位置づけることにより、自らの世界観などを保つこともできますし、さらには、自分たちが行っているのは二次加害や被害者非難ではなく、あくまで不埒な人間を成敗しているだけなのだという正当化を与えてもくれます。

大澤氏本人が、今回のデマツイートを、どこまで信じていたかは不明です。ツイッターでの言動などを見る限り、差別投稿などによる影響で懲戒解雇を受けた後から特に、排外主義政党への支持を表明したり、「保守系のためのSNS」を作ると宣言したりするなど、特定界隈へのPRが目立つようになりました(他にもモザイク削除AIなるものを販売もしていましたが)。もしかしたら大澤氏は、伊藤氏の事件そのものにことさら関心が高いわけでなく、「伊藤詩織を批判すること」によって、内輪に向けた目配せゲームを行う程度の動機だったのかもしれません。

しかし、本人の動機はともあれ、「名前と顔を出す被害者」に対して、軽率に「からかって良いのだ」とするようなカルチャーが存続していること自体、被害者にとって有害な空間になります。また、二次被害の溢れる空間が広がれば、被害を訴えることの抑止につながってしまう可能性があります。伊藤氏が改善を訴えてきたのは、まさにこうした加害風土そのものでした。

大澤氏の投稿そのものは、他の訴訟などと比べると、影響などを小さく感じられる人もいるかもしれない。しかし、そうした攻撃の積み重ねが、他者を精神的に追い込みうるのだということは、もっと周知されてしかるべきでしょう。

 

おまけ:謎の勝訴宣言について

なお、大澤氏は自身のツイッターで、「110万円の請求が33万円になったのだから自分の勝訴だ」という独自理論を展開しています。しかしこれまでみてきた通り、伊藤氏の訴えが全面的に認められた上、違法性の認定がされ、そのうえ削除と賠償を命じられています。どうみても大澤氏の敗訴です。

もちろん、賠償費用がこの額でいいのか、という議論はあります。他の名誉毀損裁判などをみても、中傷に対して認められる賠償金額の相場は、この判決と同程度の範囲が目立ちます。そして弁護士費用が賠償金額の1割程度という慣習も、原告などにかかる実際の負担と乖離しています。この点は、賠償額をめぐる判定のあり方が変わっていくことが望ましいと考えられます。その点では、110万円満額認められてもいいのではないかと、個人的な心情としても思います。が、それと大澤氏独自の勝利宣言は、全くの無関係です。

こうした場面は以前も見たことがあります。裁判で負けた側が、「相手の請求額の何分の1しか認められなかったから、その分だけ自分の勝ちなのだ」という理屈で、周囲にアピールするのです。大澤氏の場合、支持者の離反を防ごうとしているのか、それとも本気でそのような法理解をしているのかはわかりません。ただ大澤氏は判決前から、「55万以下なら自分の勝訴」という予防線を張っていたので、おそらく自らの主張が裁判所に認められず、賠償を命じられる可能性が高いことと、その金額の相場感がどれくらいなのかを、ある程度は把握していたのではないかと思います。

またこの裁判とは別件で、政治家の杉田水脈氏が、伊藤氏を中傷する内容のツイートに対して繰り返し「いいね」を行ったことについて、伊藤氏から訴えられているのですが、大澤氏はそのニュースを受けて、あたかも自分が「いいね」をしたことで訴えられたかのような誤認を誘う投稿を繰り返し、その上で訴訟費用のカンパを呼びかけていました。活動報告や収支報告など、どこまで寄付者に対する説明責任を果たしているのかは分かりませんが、特定の読者に「自分は正しい、自分は勝者だ」として支援を求めるのでれば、最低限の事実を説明したほうが良いかと思います。

より悲しいのは、それを真に受けてリプライを送っているような人が、少なからずいることです。一部のインフルエンサーが、そうした「応援者」や「仲間」と響き合うことによって、二次加害、三次加害を助長したり、継続しているーー。ウェブ空間をどう改善していけばいいのかを考えるためにも、まずはこのような現実を共有するのが重要となります。その意味でも、重要な判決であったと思います。

 

もうすぐ40代になる僕が、スプラ2でウデマエXになった話

スプラトゥーン2のガチマッチ、全ルールでウデマエXになりました。ランキングでのベストは600位ほど。いまはXパワー2300あたりをうろちょろしてます。総プレイ時間は3700時間ほど。今度は王冠をつけてみたいという気持ちで、楽しんでいます。

 

きっかけ

もともとスプラ2は完全にヌルプ勢。アクションやFPSは苦手だったので、暇な時に、特に戦略も目標も何もなく楽しんでいました。ファミコン世代である僕は、ジャイロ操作が苦手であったため、ジャイロを切ってのプレイ。そんな状態で、2000時間くらい、ヌルプを続けていました。

 

スプラ2にはウデマエという名のレベル区分があり、C<B<A<S<Xの順に強くなります。それぞれの段階に+(プラス)と−(マイナス)があり、さらにSには「S+9」まである。Xは、「S+9」まで勝ち続けて、ようやくたどり着けます。

 

僕は大体「A−」から「S+1」くらいをうろちょろしていました。そこから上に行くのには、よほどの才能がいるんだろうなと、雲の上を眺めるような気持ち。戦術まとめサイトなども見ることなく、実にのんびりとやっていました。

 

プレイ時間が2000時間を超えた頃、プレイ実況のYoutube動画を見はじめます。喋りながら、ネタも仕込みながら、それでも上位に食い込む配信者たち。時にはランキング1位を、さらりととってみせる。そんな猛者たちが、テクニックやコツなどを解説してくれるものです。

 

動画を見ていると、「自分もX目指してみようかな」という気持ちが湧きました。才能もあるでしょうが、ある程度は「勤勉さ」でカバーできるんじゃないか。そんな手応えを感じたからです。

 

まずはジャイロオンにした

まず手始めに、ジャイロ操作をオンにしました。ジャイロ操作は、コントローラーの持つ角度によって画面操作ができるものですが、不慣れな状態だと画面がガクガクし、酔うような感覚に襲われます。しかし、上達するには、ジャイロオンは不可欠でした。あ、コントローラーはもともと、プロコンを使っています。

 

例えば自分の真横から、相手プレイヤーが接近していた時。そのプレイヤーを倒すには、当然、相手の方を見なくてはなりません。ジャイロオフだと、コントローラーの方向スティックを操作しますが、それだと真横を向くのに時間がかかります。真後ろを向くなら、体感で0.5秒くらいはかかるでしょうか。「ぐいーーーん」と画面を後ろに向けている間に、撹乱されてやられてしまいます。

 

ジャイロオンにしていれば、真横も真後ろも一瞬で向ける。それができるとできないとでは、キル数にもデス数にも、大きな差がでます。そのことに気づいて、ジャイロをオン。慣れるのに100時間くらいはかかったと思います。

 

他にもゲーミング環境をちょこっと改善した

ジャイロに慣れる次にしたのは、音響環境の見直しでした。スプラは、インクを塗り、インクに隠れ、インクで相手を攻撃するゲーム。インクの中に潜ることをセンプクと言いますが、センプクしている相手を見つけるには、視覚だけでなく聴覚も大事になります。近くにセンプクしている相手プレイヤーがいると、「プクプク…」と小さく音が鳴る。テレビから音を出してプレイしている間はまったく気づきませんでした。

 

そこで、ゲーミング用にヘッドフォンを使用。すると、センプク音はもちろんのこと、敵の接近音が、どの方向になっているか、立体的に把握できるようになりました。そうすれば当然、反応速度も変わります。これは効果的面で、全く違うゲームのように、プレイヤーたちの位置が鮮明にわかるようになりました。

 

音で相手位置を把握し、ジャイロ操作でスムーズに方向転換。それに加えて、「テレビとどれくらいの距離に座るか」を固定しました。こうした見直しで、ランクが「S+」より下がることはなくなりました。「S+」から「S+3」の間を行ったり来たり。でも、そこからはなかなか伸びず。環境改善でできるのは、自分の足枷をなくすくらいまで。そこからは、自分自身の成長が必要のようでした。

 

プレイ動画は教科書になった

キャラコン上達、立ち回り上達、エイム上達、マップ特性の把握、強ポジの把握、マップおよびルールごとの強ブキ、強ギアの把握……。強くなるためには、こうした各項目を育てていくことが必要かと思います。僕はこの中でも、エイムが全く上達しません。チャージャーなんてもってのほか。

 

チャージャーが上手い人が、解説動画で「強ポジからのチャージャーは、無敵状態の的当てのようなもの」と発言していました。でも僕がチャージャー担いでガチマに潜ろうものなら、むしろこちらが格好の的にされるでしょう。

 

幸いスプラには、エイムが上手くなくてもそれなりに使えるブキはあります。ヒッセン、ローラー、ホクサイなど、エイムがある程度雑でも、キルが取れるブキ。あるいはわかばモデラーのように、スペシャルやヌリで貢献するブキ。トーピードやビーコンなど、サポートで役立つブキなどです。そんなこんなで、「田植え職人」「マルミサ連打」「アーマー回転」など、いろいろな役割を演じてみたりしました。なお、エイムが下手なので、「ハイプレ連打」は苦手でした。

 

ただ、これらの役割にも限度があります。ある程度以上、安定して勝つためには、「味方のことをサポートできるポジション取り」「デスしない立ち回り」「人数不利でも圧力をかけられる立ち回り」「塗り維持での盤面優位の確保」「負け筋を作らないために後方にスパジャンできる選択肢」など、細かな判断が必要になります。一点突破のネタギアでは限度があり、編成事故も起きやすいので、複数の戦術の使い分けに対応できるようにならなければいけない。

 

色々な動画を見ていると、著名プレイヤーは、そのプレイヤーのアイコンになるほどに使い込んだブキがあります。例えばケルデコ、ボトル、ロングブラスター、ローラー、ハイドラなど。多くの猛者は、とびぬけてエイムが上手く、真似しようとしてもなかなか難しい。まるで相手位置を全て把握しているかのように立ち回り、まるで自分のインクに相手が飛び込んできているかのようにキルを吸い寄せる。

 

中には、スパイガジェットという、決して強いとは言えないマイナーブキで、上位勢にランクインしている配信者もいたりして、勇気付けられたもします。エイムは見ているだけでは上達しませんが、立ち回りはとても参考になります。「トラップを次々置いて、塗り確保とセンサー付与」「トーピードは転がすもの」といった、サブの使いこなし方も勉強になったし、攻略方法も学べました。

 

選んだのは…クラブラネオ?!

猛者たちの動画を見ると、頻繁にマップを開いて、盤面を確認しているのがよくわかります。リスポン以降、自分がどこに行けばいいのか。どのブキを持つ相手が対面で強いのか。こうした確認がなければ、特にアサリやホコで上位に行くことはできないんだなとわかりました。

 

さらには自分に合ったブキを、使い込んで慣らすことが必要だとわかりました。僕はエイムが苦手なので、後衛ブキは向いていない。なら、前線か中衛で、何をするのが自分に合っているのか。いろんなブキを試してみました。

 

そんな僕にマッチしていたブキは、クラブラネオ(クラッシュブラスターネオ)。「パンパンパン」と、短射程で連続攻撃するブラスター。キル速は遅く、射程は短く、塗りが弱い。クラブラ無印はスペシャルがハイプレだけど、クラブラネオはマルミサで微妙。カーリングボムは移動サポートと牽制や撹乱がメインで、キルにはあまり向かない。射程=正義、となっている最近のスプラだと、格好の餌になりがちなあいつです。

 

味方にいると舌打ちされそうな、そんなブキで、全ルールウデマエXまで行きました。エイムが下手だけど、立ち回りでカバーするというスタイルに合っていたからです。

(※ホコだけは、どうしてもS+9から上に行けず、索敵に優れた赤ザップでXに行きました)

 

クラブラに限らず、ブラスター系が特に相性がいいのはヤグラですが、エリア付近までは油断しがちなエリアルールでは、高低差と壁を利用して相手チームを減らしたり、対物ギアをつけてエリアルールに多いバリアを秒速で剥がしたり。イカ忍とヒト速ギアをつけて、アサリ付近で待機して、取りに来た相手を壁裏から削ったり。ホコはどうしても、対面での勝負が増えがちなのですが、シューター系の味方のサポートをしながら、相手を削ったり、カーリングやマルミサで牽制したり。特に壁や高低差を利用することで、「ウザいクラブラ使い」の仲間入りができたように思います。

 

強ブキ使いこなしてX帯で安定

そんなこんなでXに行ったのですが、さすがにXになってからは、クラブラネオでさらに上位ランクに入るのがキツくなってきました。月頭だけ上位勢に食い込んだものの、実際、トップランカーにクラブラネオはほとんど見当たりません。

 

しかし、思わぬ拾いものがありました。「クラブラネオでXにいく」というプレイを重ねたおかげで、どのブキでも相応の立ち回りができるようになったこと。それと、エイムが少しだけ上達したのです。チャージャー担いでいくほどのエイム力はないですが、シューター系ブキであれば、安定していられるくらいにはなりました。

 

マップを見る癖がつき、味方のサポートに行く判断ができるようになったこと。特にサポートは、「挟む」「圧をかける」「牽制する」「削る」など、いろんなレパートリーがあることを学べました。

 

今はクラブラネオ以外にも、ルールごとに、自分にマッチしたブキを担いで、ガチマッチに潜っています。エリアはガロン、ホコはダイナモ、ヤグラはノバ、アサリはヒッセンがお気に入り、X帯中位で安定するようになりました。一方、他のどのブキにもそれぞれの魅力があって、いつまでも飽きない。サブ効率ガン積みでボム転がしまくるのも、イカイカ忍ローラーであばれまくるのも、ホクサイやパブロで敵陣を荒らすのも。このままだと、プレイ時間が4000に達するのも、そうかからなそうです。スプラ3楽しみ。

屋山太郎氏が静岡新聞に流した「福島瑞穂実妹流言」についての判決

2019年2月6日。政治評論家の屋山太郎氏が、静岡新聞紙面上にてコラムを発表した。「ギクシャクし続ける日韓関係」というコラムは、静岡新聞2面の右肩に五段組で掲載。そこで屋山氏は、慰安婦問題や徴用工問題について持論を述べたあと、次のような文章を綴った。

 

徴用公に賠償金を払えということになっているが、この訴訟を日本で取り上げさせたのは福島瑞穂議員。日本では敗訴したが韓国では勝った。福島氏は実妹北朝鮮に生存している。政争の具に使うのは反則だ。

 

この内容が事実に反するとして、福島瑞穂氏が静岡新聞に対して訂正を要求。静岡新聞は同年2月9日。2面下部に、次のようなコメントを出した。

 

「6日付朝刊2面論壇『ギクシャクし続ける日韓関係』で、『徴用工に賠償金を払えということになっているが、この訴訟を日本で取り上げさせたのは福島瑞穂議員』『福島氏は実妹北朝鮮に生存している』とあるのは、いずれも事実ではありませんでした。おわびして訂正します」

 

また福島氏は、同内容が名誉毀損にあたるとして、屋山氏を相手取り、330万円の損害賠償請求をおこした。そして11月29日、東京地裁の判決にて、屋山氏に対して、330万円の支払いが言い渡された。

 

この裁判で福島氏側は、「原告が徴用工訴訟を取り上げさせたという事実はない」「原告の実妹北朝鮮に生存している事実はない」「原告は日本で生まれ育ち、日本国籍を有する」という事実を提示したうえで、屋山氏のコラムが「あたかも原告が(実在しない)身内を利するために政治活動を行なっているかのごとき印象を読者に与えるもの」であり、社会的評価を著しく低下させ、名誉を毀損するものであると訴えた。

 

対して屋山氏は、原告の妹の存否は不知(知らない)とし、その他の事実は認めつつ、名誉毀損という意見や評価について、認否の限りではないとした。また、実妹云々という文言については、他の人と取り違えをしたとしつつ、具体的には「迷惑をかける人もでかねない」という理由で説明を控えた。

 

また被告は、「原告が被告を<ジャーナリスト>とは到底いえないと非難していることは理解でき、かかる非難を真摯に受け止め、心より反省するとともに、今後同じような過ちがないように慎重を期す」と応じた。

 

判決では、「原告の実妹北朝鮮に存在しているという事実がないことは証拠により認められ、その余の事実については、当事者間に争いがない」としたうえで、名誉毀損表現であると判断した。

 

そのうえで、1)コラムの内容は、政治家としての社会的評価を著しく低下させる、2)新聞という、多数の読者が想定され類型的に信憑性が高いとされる媒体に掲載された、3)被告が、本件記載の内容につきその審議を調査・確認することなく本件行為に至った、4)記載の主要部分である「原告が徴用工の訴訟を日本でとりあげさせたという事実」「原告の実妹北朝鮮に生存しているという事実」が存在しないなどの事情を踏まえ、すでに訂正記事が掲載されたことを考慮したうえでもなお、慰謝料は300万円を相当する(弁護士費用相当額が30万円)と判決した。

 

この裁判では、事実をめぐる争いがほとんど行われない点が特徴であった。また、被告(屋山太郎氏)側が、「原告が被告を<ジャーナリスト>とは到底いえないと非難していることは理解できる」という認否を行った点などは、なかなか類を見ないものである。

 

原告側が、事実を取り違えたことに対する説明を求めたのに対し、被告側が「他人に迷惑がかかる」という趣旨で説明を控えたのは、個人的には残念である。間違えてしまった経緯を屋山氏がこれからでも丁寧に説明すれば、フェイクニュース対策を論議するための重要証言にもなり得るだろう。

 

また今回の事案は、新聞社がコラム寄稿者の文章をファクトチェックできなかったというものでもある。静岡新聞は今回の件についての検証をオープンにすることで、同業他社に対する注意喚起にも繋げて欲しい。

 

誰もが公に情報発信が容易いウェブ社会では、今回の判決は誰にとっても他人事ではないように思う。ウェブ上には福島瑞穂氏への同様の流言を数多く見かける。そうした書き込みも当然、法的責任を問われるリスクがある。

 

拡散者が、単に流言をコピペしてしまった「だけ」だと思っていても、あるいはシェアやリツイートをした「だけ」だと思っていても、被害者から見れば、それもまた、その都度新たに生じた名誉毀損行為に他ならない。また当然ながら、「人違いでした」といっても被害者が免責してくれるわけでもなく、司法が情状酌量してくれるわけでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「保守速報」裁判の高裁判決と、ヘイトスピーチ対策のこれから

昨年、地裁判決によって、まとめサイト「保守速報」によるライター李信恵氏への差別や名誉棄損などが認定された(詳細は→http://d.hatena.ne.jp/seijotcp/20171118/p1)。この判決を不服として、「保守速報」は控訴していたが、2018年6月28日、大阪高裁が1審の判決を支持し、「保守速報」の訴えをいずれも棄却するという判決を出した。


名誉毀損や差別が認定され、李信恵氏への慰謝料が必要だとした点は、一審と同様だ。但し、高裁判決では、より差別事象ごとに整理した判決文の書きぶりになっていた。その書きぶりは、あたかもウェブ上の排外的主張に対する、法的観点からの丁寧なQ&Aのようでもあった。


以下、判決文から、控訴人(保守速報)の主張に対する高裁の判断について、気になった論点を自分なりに要約していきたい。



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(1)各ブログの一体性及び新規性
控訴人】
・本件各ブログ記事は複数の第三者による複数のレスで構成されており、各ブログ記事単位で集合体として一体をなしているわけではないから、各レスの表現が名誉棄損に当たるとしても、ブログ記事全体が名誉毀損、侮辱、人種差別、女性差別にあたるわけではない


【高裁判断】
・本件各ブログ記事は、控訴人がその相当数の表題を作成し、その表題の下に、2ちゃんねるのスレッド又は被控訴人(※李信恵氏)のツイッターに掲載されていたレス又は返答ツイートからごく一部を選択したうえで、順番を並び替え、表記文字を拡大・色付けするなどの加工をして編集・掲載したものである
・すなわち、本件各ブログ記事は、控訴人が一定の意図に基づき新たに作成した一本一本の記事(文書)であり、引用元の2ちゃんねるのスレッド等からは独立した別個の表現行為である
・(本ブログ記事は)各レスを個別にみるものではなく、当該レスを含むブログ記事が名誉毀損や侮辱罪にあたるかを判断するものである


控訴人】
・各ブログは2ちゃんねるの記載内容以上の情報を伝えるものではない。


【高裁判断】
・素材は2ちゃんねるであるとしても、情報の質、性格は変わっている
・引用元の投稿を閲覧する場合よりも記載内容を容易かつ効果的に把握することができるようになっている上、読者に与える心理的な印象もより強烈かつ煽情的なものになっているというべきである
2ちゃんねるの読者とは異なる新たな読者を獲得していることも否定しえない
・新たな文書の「配布」であり、新たな意味合いを有する


控訴人】
・社会的評価の低下や名誉感情の侵害は、2ちゃんねるにおいて元のレスを閲覧し得る状態になった時点で発生しており、社会的評価を新たに低下させるなどすることはない


【高裁判断】
・保守速報には相当数の読者がいると認められる上、保守速報と2ちゃんねるとではその読者層も異なっているから、新たにより広範に社会に情報を広めたものと言える
控訴人が各ブログ記事を掲載した行為は、その内容によっては、被控訴人の社会的評価をより低下させたものと認められる


(2)権利侵害又は悪質性の不存在について
控訴人】
・トンスルの意味を理解できたとしても、それは被控訴人が朝鮮半島にルーツを持つというほどの意味にとどまる
・トンスルという用語が、2ちゃんねる等では侮辱的意味を有するとしても、このような論戦の場で使用される用語により被控訴人が名誉感情を害されたととることは困難である


【高裁判断】
・トンスルが韓国人又は朝鮮人を侮辱する際に用いられる言葉として理解される
・侮辱的表現である以上、これにより被控訴人が名誉感情を害されることがないとはいえない


控訴人】
火病の語義は一般的ではなく、仮に「精神病又は一瞬の癇癪やヒステリー」を意味すると理解できたとしても、それはせいぜい被控訴人の言動が穏当でないというほどの意味にとどまる


【高裁判断】
火病が韓国人又は朝鮮人を侮辱する際に用いられる言葉として理解される
・被控訴人の名誉感情が害されることはないとの控訴人の主張に理由がない


控訴人】
・「マジこいつゴミ」「脳内お花畑」「浅はか」「コウモリ野郎」等の表現は、これが被控訴人個人にむけられた侮辱的表現であるとしても、議論の中で被控訴人の言動をからかう程度の意味合いしか読み取れず、社会通念上許される限度内にとどまる
・そのほかの表現(カス・本当にくるってるなこのクソアマ・精神病・頭くるくるぱー・キチガイ・もはや狂ってます・頭おかしい・気違い女・馬鹿丸出し・バカ左翼鮮人・バカだろリンダ・アホウ・ボケ・バカ・どこまでアホなんだ、この婆は・寄生虫ばばあ・寄生虫・日本に寄生・日本にしがみついてタカって自分の存在を確認している・害毒・ゴキブリ・馬鹿なゴキブリ・ヒトモドキ・人外・朝鮮の工作員・このガラの悪さ、品のなさ、顔の不器用さが在日朝鮮人のリンダちゃんの特徴・外面も内面もブサイクな輩・ヘイトスピーチ増幅器)も、社会通念上許される限度を超えた侮辱に当たらない


【高裁判断】
・「マジこいつゴミ」等の4つの表現は、被控訴人の人格を貶める攻撃的表現又は被控訴人の精神状態や知性を揶揄する侮辱的表現とみるほかない
・その他の表現(頭くるくるパーや寄生虫、ゴキブリ、人外など)が、社会通念上許される範囲内の表現、このような言葉を相手方にいうことが本邦における常識である、言い換えれば、このような言葉を言われても大部分の者は名誉感情を害されないとは、認めることができない
・上記表現は、社会通念上許されう限度を超え、相手に言うことは常識に反し、このような言葉を言われれば名誉感情を害されるというべきである


控訴人】
・外国人制度等に関する議論又は一定の者に日本を出ていくことを提案するにとどまる
・攻撃的な表現を用いたモノでも、「在日朝鮮人であることを理由に」被控訴人を排除することを扇動するものではない


【高裁判断】
・これらが何らかの議論であるなどとはいえず、単に日本からの出国を提案する内容でもない
・これらは、在日朝鮮人であることを理由に被控訴人に日本から出ていくよう求めているものというべきである
・ブログ記事は、被控訴人に対する人種差別にあたる
・これを閲覧した一般読者がおよそ具体的行為を扇動されたりすることもあり得ないとは言えない


控訴人】
・「雌チョン」(※ほか、クソアマ、ババア、年中更年期障害みたいなもんだろ、BBA、ブス・ブサイク・鏡見ろ・醜いなど)などの表現及び本件似顔絵は女性であることを理由に差別することには当たらない
・侮辱的表現としては、社会通念上される限度に留まる


【高裁判断】
・女性又は高齢の女性に対する侮蔑的表現、被控訴人が中年以降の年代の女性であることに対する揶揄的表現、被控訴人が女性であることに着目してその容姿を貶める表現である
・このような用語を使用されて、自己に対する客観的、中立的な表現であると受け止める女性がいるとはおよそ考えられない


(3)違法性阻却事由の存在について
控訴人】
・対立思想支持者全体に対する過激な批判的言動に対抗するための対抗言論として適当と認められる限度を超えていない


【高裁判断】
・言論の応酬の定理は適用されない
・その内容において適当と認められる限度を超えている


控訴人】
・インターネット上、ことに2ちゃんねる上の表現については、その信頼度は低く、名誉が毀損されてもインターネット上で回復が可能である


【高裁判断】
・インターネット上の表現であるからとの理由で、一般の読者が信頼性の低い情報として受け取るとは限らない
・インターネット上に掲載された情報による名誉棄損の被害の回復がむしろ容易ではない


控訴人】
・精神的苦痛を被ったとすれば、まずは削除依頼なり警告文なりで当該行為をやめさせるのが通常
・被控訴人が本件各ブログ記事の掲載をやめさせるための行為等(削除依頼等)をしなかったこと及びツイッターでの発言内容から、被控訴人は精神的被害を被っていない


【高裁判断】
・(※別件で要望された)保守速報で掲載された記事の削除依頼を拒否してさらに批判した上、その記事を固定記事にしている
・被控訴人が控訴人に対して削除依頼や講義等を行うのを躊躇するのは自然な事であり、削除依頼や抗議をしなかったことが、被控訴人が精神的苦痛を被っていないことにつながるものではない


控訴人】
・被控訴人が保守速報に自分に関する記事が掲載されていることを知ってから本件訴訟までに約1年を要したことから、被控訴人が損害の拡大に寄与した


【高裁判断】
・1年という期間は、訴訟を提起するのを不当に遅らせたと評価されるような期間ではない
控訴人は、保守速報で本名を明らかにしておらず、被控訴人は、控訴人のIPアドレスや住所の特定など訴訟を提起するのに必要な情報を得るのに時間を要したことも認められる
2ちゃんねるに対して削除依頼をしなかったからといって、損害の拡大に寄与したことにならない


*****


この判決は、「保守速報」が複合差別を行っていると明確に認めたものになっている。また、2ちゃんなどの匿名掲示板からのまとめのみならず、Twitterなどからのまとめであっても応用可能なものになっている。ウェブ上のヘイトスピーチ対応をめぐる議論において、重要な役割を果たす判例になると思われる。今回の判決に励まされて、新たな訴訟が行われるかもしれない。


現在、<ネトウヨ春のBAN祭り><広告剥がし>などの流れの中で、「保守速報」に対する広告出稿が控えられている。その文脈上でも、SNS運営元や広告出稿者が、この判決を議論の具体的材料にする可能性もある。いずれにせよ、インターネット史に残る裁判であることは間違いない。


なお、判決文で紹介されている文言を読むだけで、その言葉が向けられているわけではない僕でさえ、メンタルが削られ気分が悪くなった。こうした言葉を向けられた当事者にとって、その精神的苦痛は大変なものであったろう。


「まとめ」や記事作成、あるいはSNS掲示板への投稿は短時間で可能だが、その書き込みによる攻撃は長期間にわたって被害者を苦しめ、読者を扇動し、誤った学習を促し、新たな差別を助長する。僕はヘイトスピーチなどは、「言葉の暴力」すなわち、心と脳味噌へのグーパン、人権や尊厳へのストンピングであると考える。ウェブ企業の中には、ヘイトスピーチに対する対応が消極的にみられるところも多々見られるが、実態に即した責任ある対応が求められる。

「保守速報」裁判の地裁判決と、「まとめサイト」の今後

2017年11月16日。京都地裁で、ライターの李信恵氏が、まとめサイト「保守速報」を相手取って訴えた裁判の判決が出た。李信恵氏が原告となり、「保守速報」が被告となったこの裁判では、「保守速報」に対し、200万円の支払いを命じるという判決がひとまずでた。


この判決で確定というわけではないため、今後、高裁などでどういった判断が下されるのかを見守りたい。というのもこの裁判は、今後「まとめサイト」の法的責任をどのように位置づけるかという重要な参考事例となりうるためだ。


以下、判決文から、原告と被告双方の主張と、それに対して地裁がどのような判断を行ったのか、気になった論点を自分なりに要約していきたい。

  • 争点1:原告の権利を侵害しているか

【原告の主張】
「朝鮮の工作員」「キチガイ」「寄生虫」「ゴキブリ」「ヒトモドキ」「クソアマ」「ババア」「ブサイク」「鏡見ろ」「死ね」などの数多くの書き込みが、名誉毀損、侮辱、人種差別、女性差別、いじめ、脅迫、業務妨害にあたる。


【被告の主張】
ブログ記事は、原告個人に対する批判ではなく、対立思想に対する批判又は保守的な政治思想に基づく意見ないし論評にすぎない。名誉感情を害するものや、差別などにはあたらない。


【判決】
本件各ブログ記事には、名誉毀損、社会通念上許される限度を超えた侮辱、人種差別、女性差別にあたる内容が含まれているというべきである。

  • 争点2:新たな権利侵害の有無

【原告の主張】
被告は、表題の作成、抜粋、強調、加工、転載などを行うことで、ブログ記事の内容を、引用元の投稿よりも集約的かつ先鋭的なものに変容させた。その結果、情報の伝播性が高まり、内容が広く知られた。したがって、原告の権利利益が新たに侵害された。


【被告の主張】
表題の作成、抜粋、協調、加工、転載などはまとめ記事を作成する上で当然必要となる行為だった。本件各ブログ記事の内容が2ちゃんねるのスレッド等の読者以外に広く知られたことは、何ら証明されていない。原告の権利利益は引用元の投稿の掲載行為により侵害されたのであって、本件各ブログ記事の掲載行為により新たに侵害されたものではない。


【判決】
本件各ブログ記事は、引用元の投稿を閲覧する場合と比較すると、記載内容を容易に、かつ効果的に把握することができるようになったというべきである。記事の内容は、2ちゃんねるのスレッド又はツイッターの読者以外にも広く知られるものとなったといえる。ブログ記事の掲載行為は、引用元の2ちゃんねるのスレッド等とは異なる、新たな意味合いを有するに至ったというべきである。被告がブログ記事を掲載した行為は、2ちゃんねるのスレッド又はツイッター上の投稿の掲載行為とは独立して、新たに憲法13条に由来する原告の人格権を侵害したものと認められる。

  • 争点3:違法性阻却事由の有無

【被告の主張】
(1)名誉毀損について:ブログ記事を掲載した目的は、原告を誹謗中傷することではなく、2ちゃんねるのスレッドに掲載された情報を集約し、読者に分かりやすく紹介するという、専ら公益を図ることである。原告は知名度のある記者として、記事等において発言したのに対し、レスの投稿者は、無名の私人として、2ちゃんねるのスレッドで原告の主張の過激さと同程度の過激さをもって原告個人ではなく対立思想を批判したに過ぎず、その方法及び内容は相当な限度を超えるものではない。
(2)対抗言論の奏功:原告は知名度のある記者として反論を繰り返しており、その対抗言論が奏功している。したがって、原告の社会的評価の低下が否定される、又はその違法性が阻却されるというべきである。
(3)インターネット上の表現であること:インターネット上の表現は従来型のメディア上の表現と比較し、一般の読者には信頼性の低い情報と受け取られるし、これにより一定程度名誉が毀損されても、被害者はインターネット上の反論によりその回復を図ることが可能である。インターネット上の表現は、より広く保護されるべきであるから、掲載行為による名誉棄損については、違法性が阻却されるというべきである。


【原告の主張】
(1)名誉毀損について:原告は私人に過ぎず、被告が各ブログ記事を掲載した目的は、原告を誹謗中傷することにあって、専ら公益を図ることにないのは明らかである。内容は、原告に対する人身攻撃に及んでおり、意見ないし論評の域を逸脱している。
(2)対抗言論の奏功:保守速報が多数の読者を持つ影響力の大きいブログであることなどからすれば、十分な反論はできず、対抗言論の奏功をいう被告の主張には理由がない。
(3)インターネット上の表現であること:従来型のメディア上の表現とは異なり、誰もが容易に閲覧することができる上、削除されても複製や転載によって永続的に広まっていく性質があり、被害の程度は深刻。違法性が阻却されることはない。


【判決】
(1)名誉毀損について:ブログ記事全体において、侮辱的な表現、あるいは原告が人であることや通常の判断能力を有することを否定するような不穏当な表現を多数用いて、原告の精神状態、知的能力、人種、容姿等を揶揄するものである。これらはいずれも原告の言動を批判するにとどまらず、原告の人格そのものを攻撃するに至っていると認めるのが相当である。違法性が阻却されるという被告の主張は、採用することができない。
(2)言論の応酬の法理について:各ブログの掲載行為による名誉毀損は、原告の発言と対比して、その内容において適当と認められる限度を超えているというべきであるから、いわゆる言論の応酬の法理により違法性が阻却されるという被告の主張は、採用することができない。
(3)その他の違法性阻却事由について:インターネット上の表現であるからといって、一般の読者がおしなべて信頼性の低い情報として受け取るとは限らないこと、インターネットに掲載された情報は、不特定多数の者が瞬時に閲覧可能であり、これによる名誉毀損の被害は時として深刻なものとなり得ること、一度損なわれた名誉の回復は容易ではなく、インターネット上での反論によりその回復が十分に図られる保証があるわけではないことなどを考慮すると、違法性が阻却されるとは解し難い。被告の主張は、採用することができない。

  • 争点4:原告が被った被害の額

【原告の主張】
被告の違法行為は人種差別および女性差別の複合差別であり、原告が複合差別により精神的苦痛を被ったことを確かめてそのことを歓迎したり、原告を日本の地域社会から排除しようとしたりするもの。
また、被告は、過激な内容のブログ記事を掲載して多くの広告収入を得るという動機をも有していたこと、実際に約1年間に45本ものブログ記事を継続的に掲載し、その内容がインターネットを通じて広く知られていたことなどからしても、被告の不法行為は極めて悪質である。


【被告の主張】
原告には損害が生じていない。被告は各ブログ記事でバナー広告収入を得ていたが、過激な内容のブログ記事を掲載して多くの広告収入を得るという動機は有していない。このことは、本件各ブログ記事が被告の掲載した全ブログ記事のうち本数にして1%にも満たないことからも明らかである。
原告は、被告が削除要求に応じる旨を表示していたにも関わらず、被告に削除を要求せず、2ちゃんねるの管理者に対しても削除を要求していない。このように削除を要求せず長期間放置したことにより、自ら損害の拡大に寄与したというべきである。


【判決】
当該表現が原告の名誉感情、生活の平穏及び女性としての尊厳を害した程度は甚だしいものと認められる。特に、本件においては、複合差別に根差した表現が繰り返された点も考慮すべきである。
被告は、約1年間にわたって名誉毀損、社会通念上許される限度を超えた侮辱、人種差別又は女性差別に当たるブログ記事を40本以上も掲載したのであり、不法行為の態様は執拗である。情報を紹介する目的で掲載しただけではなく、原告の名誉を棄損し、侮辱し、人種差別及び女性差別を行う目的をも有していたと認めるのが相当である。
他方、被告が各ブログ記事の掲載行為により一定の広告収入を得ていたことに争いがないとはいえ、被告が過激な内容のブログ記事を掲載することにより多額の収入を得るという動機まで有していたことを認めるに足りる証拠はない。
原告が削除の要求をしなかったからといって、損害の拡大に寄与したことにはならない。

  • 争点5:権利濫用及び信義則違反

【被告の主張】
本件各ブログ記事の内容は、政治思想に関わるものであり、憲法21条の保障する表現の自由の中でも特に保護されるべきである。原告が本件訴訟を提起した目的は、被害からの救済ではなく、このような要保護性の高い政治思想に係る表現の自由を抑圧することになる。本件訴訟は、いわゆるSLAPP訴訟にほかならない。


【原告の主張】
原告が本件訴訟を提起した目的は、政治思想を抑圧することにあるのではない。表現の自由は無制限に保障されるものではなく、個人の権利利益を侵害する表現は、一定の要件を満たす場合には規制の対象となる。原告は、各ブログ記事により、憲法13条および14条1項で保護された自己の人格権及び平等権を侵害されたため、その被害からの救済を求める目的で本件訴訟を提起したのである。SLAPP訴訟には当たらない。


【判決】
本件訴訟における請求が権利の濫用に当たり、信義則に反するものとは認められない。


以上、判決文を自分なりに整理した。地裁の判断は、書き込み内容の問題点だけではなく、「まとめただけ」「ネットだから」では済まされないという、ウェブ上の表現形式についても触れるものとなっている。今後の裁判のゆくえ、および類似の係争について、どのような判断が下されていくのか、見ていきたい。


私見では、この判決はいわゆる「まとめブログ」だけでなく、togetterやNAVERまとめなどのサービスにおいても重要な意味を持つと考える。「まとめ」もまた、主体的な表現である以上、様々な責任が問われる行為だ。このことを前提としたコミュニケーションが必要となってくる。

「netgeek」が流した「泉放送制作」デマについて

2017年6月20日の「netgeek」に、「日テレ・フジ・TBS・テレ朝の16番組以上を1つの制作会社が担当して偏向報道やりたい放題。日本は乗っ取られた」いうタイトルの記事が出ていた。内容は、「泉放送制作」という制作会社が各局のニュース番組を作っており、意図的に偏向報道を行っているというもの。

記事内容については、放送業界に関わっている者であれば、<放送現場を知らない人が、ネットで拾った言葉を繋ぎ合わせて作り上げたデタラメ>だと分かるもの。実際、放送業界の人などから、デマであるという旨の指摘も既に行われている。ただ、Twitterなどの反応を見ていると、真に受けている人も少なくなかった。国会議員であるとか評論家であるとか、社会的地位のある人もこのデマの拡散に加担していた。

テレビ局が放送する番組によっては、自社の社員だけでなく、制作会社からディレクター、AD、事務スタッフなどの派遣を受けて制作現場を回している。「泉放送制作」は、ウェブサイトによれば従業員170人。業界でも大きめの制作会社ではあるが、だからといってその制作会社が編集方針などを決めるわけではない。僕も出演したのことのあるいくつかの番組スタッフに確認しても、ある現場ではADさんだけとか、ある現場では事務スタッフだけといった具合で、制作会社のかかわり方も様々だ。まさか、ADがひとり関わっただけで、マスメディアを「乗っ取れる」と言うのだろうか。

制作会社は、各局・各番組の依頼に応じて、制作スタッフを派遣したり番組制作を補助するもの。ある制作会社が、複数の番組の仕事を請け負ったとしても、まるまる番組を作っているというようなものでは必ずしもない。「泉放送制作」のウェブサイトには、様々な局や番組の制作実績が掲載されている。それを見て、制作会社こそが何から何まで番組を作っていると想像を膨らませたのかもしれない。しかし実際には、それぞれの局や番組ごとに、複数の制作会社が関わる事も多く、特定の制作会社が「やりたい放題」というようなことではない。

なにより、特定の制作会社が複数の番組に関わっていることをもって、「日本が乗っ取られる」と表現する意味がよくわからない。複数の番組を作っている制作会社など、「泉」以外にもいくらでもある。「日本が乗っ取られる」とはあまりに妄想が過ぎる。「netgeek」は採用情報をウェブサイトに掲載しており、そこには「記事を書くライターを募集しております。採用対象は新聞レベルの文章が書ける経験者のみ」と書かれている。だが、同サイトの他記事を見ても、「新聞レベルの文章」とはとても思えない。

Twitterなどの反応では、「乗っ取り」「黒幕」といった言葉が並んでいて、ひとつの陰謀論として消費されている。何か気に入らない放送があると、「また泉さんかな?w」といった趣旨の書き込みが行われたりする。特定の記号を見つけるたびに壮大な物語と結び付けるという点で、陰謀論者ととてもよく似ている。というよりも、これ自体ももはや陰謀論の一種だと言っていいだろう。

メディアを正して社会をよくしたいというよりも、「メディアの裏を見抜いている自分たち」という消費が目的なのだろうか。もしそうでないのであれば、間違った知識で何かを叩くという行為は無駄であるため、こうしたデマにこそ厳しく対応したほうがいい。メディアチェックという言葉には、自分の書き込みも含めたネットへの投稿を含める必要がある。

国会議員がこのデマを訂正し、そのことを共同通信などが報じたことによって、いまは拡散がある程度鎮静化している。デマは放置しておくと、質的にも量的にも「育ってしまう」。だからこそ早めに是正されることが望ましい。報道が出たことはその点ではよかったと思う。

ところでこの記事には、冒頭部分にTBS社員である金富隆氏の写真が掲載されていた。使われていた画像は、2016年に放送された「TBSレビュー」からのキャプチャーだ。なぜこの画像が使われているのか。なぜ金富氏なのか。本文では一切触れられていない。

金富隆氏は僕の友人である。彼はTBS社員であり、泉放送制作とは何の関係もない。そして、彼が関わってる番組においてすら、最高責任者というわけでもない。彼は日本人であるが、在日韓国人在日朝鮮人に対する差別的感情を煽るため、「金・富隆」とわざわざ分け、彼を「在日認定」する書き込みも多く見かけた。

泉放送制作」や「金富隆」というワードでツイッターなどを検索すると、デマを拡散するだけでなく、メディアについての事情通ぶった書き込みが多く出てくる。「ようやくこの事実が知られるようになったか」といったような趣旨の書き込みをみた時は、痛々しすぎて見ていられなかった。

何かを「叩く」先には、ただの記号が横たわっているわけではない。「叩く」相手は、あなたや、あなたの友人や仲間、家族や親戚と同じ、生身の人間がいる。特にデマの場合、その是正のコストはとても大きく、流された側が多大なリソースを割かなければならなくなる。

共同通信の記事が出てから間もなく、「netgeek」から当該の記事が削除された。だが、このブログ記事を執筆している現在において、相手方への謝罪などは見当たらない。当該サイトがこれからどういう対応をするのかわからない。だが、一般的に、「デマを流し、お金を儲け、問題になったら逃げる」という手法が「得」になるようなウェブ社会のあり方は、改めていかなくてはいけないと思う。

福島県沖地震に関する流言まとめ

本日11月22日の5時59分、福島県沖を震源とする震度5弱地震があり、各地で津波も発生しました。地震津波原発に関する情報に多くの人が関心を寄せる中、いくつかの流言などがtwitter上に流れました。

  • 虚偽の被害報告



あたかも今回発生した津波の写真をアップしているかのように書かれていますが、これは東日本大震災の際の写真です。そのことを把握した多くのユーザーが、不適切な投稿であると指摘・通報していました。熊本地震の際には、「動物園からライオンが逃げた」という趣旨の流言を流した男性が、偽計業務妨害の疑いで逮捕されています。


ニセの被害状況を煽り、周囲を不安にさせる。こうした行為は周囲にとって悪影響にしかなりませんし、いまや本人にとってもリスキーな行動であると言えます。(※多くの批判などが集まったためか、14時現在で当該の投稿は削除されています)




残念なことに今回も、「外国人犯罪流言」やヘイトスピーチが見受けられました。twitterでは15日から、新機能として「人種、宗教、性別、考え方などを誹謗中傷または差別している」投稿を、問題あるツイートとして報告できるようになりました。そのため、上の流言に対しても、ただ投稿を批判するだけでなく、多くのユーザーが通報を行っていました。


「ヘイトをたしなめる」「淡々と通報する」動きは、以前と比べてもスピーディになっていると感じられます。(※多くの批判などが集まったためか、14時現在で当該の両アカウントは鍵垢になっています)

  • 政治家の情報発信



今回の地震の際には、福島第二原発3号機の使用済み核燃料プール冷却装置が停止しました(その後再開)。これについて、衆議院議員のあべともこ氏が、「使用済み燃料プールの冷却ポンプがつまり」と事実と異なる投稿をしました。この件について、多くの指摘が集まり、あべ氏は数時間後に訂正をしました(但し、その訂正の仕方も批判されています)。


災害時には、政治家のガバナンス能力や情報発信がより問われてきます。「確かな情報提供のための投稿」ではなく、「政権批判のための投稿」と捉えられれば、信頼を損なってしまいます。

  • 災害再来流言



大きな災害発生時には、「災害再来流言」がしばしば発生します。おりしも数日前から、「11月23日に南海トラフ地震が起きる」といった流言がネット上に広まっていました。そのため、より不安を感じてる方も多く見受けられます。


但し、現在の地震研究では、「○月○日に地震が起きる」といった、事前の正確な予測はできません。皆さんも報道などで見聞きしたことがあると思いますが、「○年以内に発生する確率が○%」といった大まかな予測を元に、「いつ来てもおかしくない」と考えたうえで、日々備え続けるしかありません。予言して注目を集めようとする人の投稿に左右されたり、不確かな情報を拡散するよりも、しっかりと対応できるよう備えておくことのほうが重要です。


(適宜更新するかもしれません)