屋山太郎氏が静岡新聞に流した「福島瑞穂実妹流言」についての判決

2019年2月6日。政治評論家の屋山太郎氏が、静岡新聞紙面上にてコラムを発表した。「ギクシャクし続ける日韓関係」というコラムは、静岡新聞2面の右肩に五段組で掲載。そこで屋山氏は、慰安婦問題や徴用工問題について持論を述べたあと、次のような文章を綴った。

 

徴用公に賠償金を払えということになっているが、この訴訟を日本で取り上げさせたのは福島瑞穂議員。日本では敗訴したが韓国では勝った。福島氏は実妹北朝鮮に生存している。政争の具に使うのは反則だ。

 

この内容が事実に反するとして、福島瑞穂氏が静岡新聞に対して訂正を要求。静岡新聞は同年2月9日。2面下部に、次のようなコメントを出した。

 

「6日付朝刊2面論壇『ギクシャクし続ける日韓関係』で、『徴用工に賠償金を払えということになっているが、この訴訟を日本で取り上げさせたのは福島瑞穂議員』『福島氏は実妹北朝鮮に生存している』とあるのは、いずれも事実ではありませんでした。おわびして訂正します」

 

また福島氏は、同内容が名誉毀損にあたるとして、屋山氏を相手取り、330万円の損害賠償請求をおこした。そして11月29日、東京地裁の判決にて、屋山氏に対して、330万円の支払いが言い渡された。

 

この裁判で福島氏側は、「原告が徴用工訴訟を取り上げさせたという事実はない」「原告の実妹北朝鮮に生存している事実はない」「原告は日本で生まれ育ち、日本国籍を有する」という事実を提示したうえで、屋山氏のコラムが「あたかも原告が(実在しない)身内を利するために政治活動を行なっているかのごとき印象を読者に与えるもの」であり、社会的評価を著しく低下させ、名誉を毀損するものであると訴えた。

 

対して屋山氏は、原告の妹の存否は不知(知らない)とし、その他の事実は認めつつ、名誉毀損という意見や評価について、認否の限りではないとした。また、実妹云々という文言については、他の人と取り違えをしたとしつつ、具体的には「迷惑をかける人もでかねない」という理由で説明を控えた。

 

また被告は、「原告が被告を<ジャーナリスト>とは到底いえないと非難していることは理解でき、かかる非難を真摯に受け止め、心より反省するとともに、今後同じような過ちがないように慎重を期す」と応じた。

 

判決では、「原告の実妹北朝鮮に存在しているという事実がないことは証拠により認められ、その余の事実については、当事者間に争いがない」としたうえで、名誉毀損表現であると判断した。

 

そのうえで、1)コラムの内容は、政治家としての社会的評価を著しく低下させる、2)新聞という、多数の読者が想定され類型的に信憑性が高いとされる媒体に掲載された、3)被告が、本件記載の内容につきその審議を調査・確認することなく本件行為に至った、4)記載の主要部分である「原告が徴用工の訴訟を日本でとりあげさせたという事実」「原告の実妹北朝鮮に生存しているという事実」が存在しないなどの事情を踏まえ、すでに訂正記事が掲載されたことを考慮したうえでもなお、慰謝料は300万円を相当する(弁護士費用相当額が30万円)と判決した。

 

この裁判では、事実をめぐる争いがほとんど行われない点が特徴であった。また、被告(屋山太郎氏)側が、「原告が被告を<ジャーナリスト>とは到底いえないと非難していることは理解できる」という認否を行った点などは、なかなか類を見ないものである。

 

原告側が、事実を取り違えたことに対する説明を求めたのに対し、被告側が「他人に迷惑がかかる」という趣旨で説明を控えたのは、個人的には残念である。間違えてしまった経緯を屋山氏がこれからでも丁寧に説明すれば、フェイクニュース対策を論議するための重要証言にもなり得るだろう。

 

また今回の事案は、新聞社がコラム寄稿者の文章をファクトチェックできなかったというものでもある。静岡新聞は今回の件についての検証をオープンにすることで、同業他社に対する注意喚起にも繋げて欲しい。

 

誰もが公に情報発信が容易いウェブ社会では、今回の判決は誰にとっても他人事ではないように思う。ウェブ上には福島瑞穂氏への同様の流言を数多く見かける。そうした書き込みも当然、法的責任を問われるリスクがある。

 

拡散者が、単に流言をコピペしてしまった「だけ」だと思っていても、あるいはシェアやリツイートをした「だけ」だと思っていても、被害者から見れば、それもまた、その都度新たに生じた名誉毀損行為に他ならない。また当然ながら、「人違いでした」といっても被害者が免責してくれるわけでもなく、司法が情状酌量してくれるわけでもない。