ギャルゲーと文学(笑)。


shfboo:
(入室)




chiki:
あれ、shfbooさん。




shfboo:
どうも。今コソボや第二次大戦中の人体実験やIRAの内紛とかシチリアンマフィアの抗争などのテキストをたくさん読んでしまったので心がすさんでます。超くだらないクイズ。今あげた問題が全て出てくる僕がここ三日くらいぶっとおしで読んだものは何でしょう?




chiki:
なんだろう…? ハードボイルド小説…?




shfboo:
ちなみに正解は本ではなく・・・ギャルゲーでした(泣)




chiki:
「永遠のサンクチュアリ」ですか?




shfboo:
そうそう、「ELYSION 〜永遠のサンクチュアリ〜」。さきほど完全クリアした。




chiki:
あむばるさん、ギャルゲーに興味はありますか?




あむばる:
やったことない。まじめ、無垢なものでして。というか、やるとはまるんですよねー。





chiki:
やるまえから分かってるのがうける。




あむばる:
萌え萌え。




shfboo:
爆笑




chiki:
では、特別鼎談「ギャルゲーと文学」スタート、かな(笑)。





灯:
こんばんは、お邪魔します(入室)




chiki:
灯さんこんばんわ!




灯:
こんばんは、楽しそうなテーマですね。




あむばる:
すごい展開。




灯:
話の腰を折ってごめんなさいね、続けて下さい。





chiki:
話を戻すとえらいことになりますが、リクエストに応えて司会進行しましょう(笑)。えー、本日は「ErogameScape エロゲー批評空間」という大手レビューサイトでも概ね人気を博している「ELYSION 〜永遠のサンクチュアリ〜」をshfbooさんがクリアなさったとのことなので、そこから感じたことなどを伺って、色々な意味でディープな話が出来ればと思います…なんてね(笑)。




灯:
あ、それ興味があります! 話題のギャルゲー!(笑)




shfboo:
けっこう予想外な所に連れていかれてしまいました。





chiki:
本編ではあなたはレポーターやらないのだから、今日はレポーターですよ。




灯:
ギャルゲーってやったことないんですよ、僕。そのくせ東さんの「美少女ゲームの臨界点」とか買っちゃって「葉鍵」の意味も判んなかったんですから。chikiさんに教えてもらいましたけど。leaf+keyなんですね〜。




あむばる:
私も、やったことがないのに萌えてます。





shfboo:
ギャルゲーの定番であるヒロイン「攻略」というものがあるんですが(Hシーンとエンディング見るみたいな)、僕がやった「エリュシオン」というゲームで、僕が最後に「攻略」したのがコソボ難民のアルバニアの少女、その前が第二次大戦中の人体実験で特殊な菌糸を体に寄生させることでまあ不老不死になった少女でした。で、そのゲームの基本ストーリーはイタリアのシチリアンマフィアの頭領に主人公の日本人医師が雇われ地図にない島に行きそこで謎のオカルト実験にかけられる。そのために占星術で選ばれた四人のメイドのどれかを専属として選ぶ、みたいな感じなんですがいわゆるメイドものなんですが、それで自分が驚いたのはイタリアの島の中で日本人、イギリス人、アイリッシュアルバニア人ユダヤ人、人外の者と国籍の違うものが一箇所に集まり、その国の力関係の縮図のような差別や虐待が行われているでした。まあコソボ難民の少女は、まず英語ドイツ語あたりで会話するという設定のゲーム世界ではほとんど喋ることができないわ、性格もいわば回教徒のように完全に能動性がない。――




灯:
かなりシリアスな感じですね。確かに面白そう。上質の海外エンターテインメント小説みたいなイメージかな?




chiki:
そのゲームはchikiも以前プレイしたことがあります。そのキャラからは、とことん従順かつ無垢で無知な被害者、というような感じを受けました。そこに萌えるようになっているのですが、ついついプレイしながら画面に突っ込んでました。「コソボって!」「細菌兵器って!」「スパイって!」とか、色々。





shfboo:
――加えて城外れの死体処理みたいな老人に汚い有色人種だとこきつかわれて、生理の時は外に出され、用品も下着の替えもなく血まみれになりながや雨の中城の外で倒れてるのを主人公が発見とか・・・こんな国の通俗的カリカチュアを背負った登場人物と関わりながらいくつかの別々の事件がからまりあったこの島の謎を解明していくみたいな感じです。また主人公は医師で待遇がいいのである程度きちんと扱われるのですが、イタリア人のマフィアのヒットマンみたいな男が、いかにも通俗イタリアンなイメージの大振りなアクションとニヒリストゆえの陽気さでアイロニカルに主人公と会話しつつも、その会話の裏にはほとんど聖書の挿話の引用があり、イタリアの詩人の引用や文化をたしなんで、時折「東洋の日本人にはジョークはわからんな。まあいい別の話で楽しもうじゃないかははは!」とか言ってまたイタリアの文学の引用してこちらを馬鹿にしてきたりするわけですわ。

それを見て僕は「ああ、日本人が外国に行くとナショナリストになるのは、こういう自国の文化や宗教を丸ごと全肯定している者に馬鹿にされ、かつ文化的厚みに圧倒されてしまい悔しいからなんだ」と学んでしまったりして、ギャルゲーなのにエロよりそちらの方がよほど面白く、僕のような怠惰なものがこれを機にコソボの勉強をはじめてしまったという笑えるのか笑えないのかのオチなんですが





chiki:
聖書や詩の引用といえば、ギャルゲーって、無性に「教養」的なものをちりばめているものが多くあるんですよね。スノビッシュというか、なんというか。或いはとことん内向的で、「文学的」な雰囲気をかもし出しているものがあったり。




あむばる:
話、聞いているだけでも面白い。




灯:
そういう「教養的」なのがギャルゲーではデフォルトなんですか?




shfboo:
いえ、一部なんですが、一部のシナリオライターは質はともあれ自分の思想性みたいなものを全てつぎこむようにギャルゲーを作っているんですね。chikiさんはこういう通俗的なのは反射的につっこみ、受け付けないようですが、通俗にも一部の理があるとすれば、このゲームから僕は外の国際問題みたいなものを、その国の典型的イメージとして設計された一人一人の登場人物にまあ血肉化されていることによってあるリアリティを得てしまいました。




灯:
それって迫力がありますよね。是非はともかく、引き込むだけの力はあるでしょうね。





shfboo:
そうそう、その通り引き込まれ、そのリアリティのおかげでこれから新聞を真剣に読むし、海外のそういう問題にどう自分がコミットしうるかを探るためにも英語を真剣にやらなければと決心するほど人生を変えられてしまいました、みたいな(苦笑)。そこに参りました。ちなみにこの「エリュシオン」というゲームはエロシーンがほとんどカットされた一般ゲーム版になってもかなりヒットしたそうなので僕のような受容もかなりあったと見れるかもです。



灯:エンターテインメントの作家さんって、読者を自分の世界に閉じ込めちゃうタイプと、色々な問題意識に向けて開かせていくタイプとがあると思うんですけど、「エリュシオン」は後者なんですね。




shfboo:
ある意味では・・・そういえるのかなあ、でもいっていいのかなあ、というところで今悩み中です。




chiki:
東浩紀は正しかった」…のか…なぁ…(笑)。「なんとなく哲学的な苦悶」、「なんとなく文学的な煩悶」などはギャルゲー(サブカルの多く?)にふんだんに盛り込まれていると思うのですが、そういったもの(「通俗」的なものにうったえかけるイメージ?)のリアリティは強烈だと思いますよ。しかし、腹が立つものはとことん腹がたつのですが、それはなぜでしょうか。だれかそんなchikiの精神分析して。



灯:
基本的にchikiさんの場合、構造的な「物語」の外部のリアリティ(例えそれが「退屈」なものであっても)に触れる契機のある作品でないと、本気で面白いって思えないんじゃないかな。




chiki:
そうかもしれないですねー。もちろんそんな「高級」なものではなく、ファンタジーとかなら自分で妄想していたほうが癒されるので(爆)。




灯:
一方で、chikiさんは、差別や「俗情」を増幅するようなものに対しては、腹が立つんでしょうね。





chiki:
というか、増幅してるくせにいかにも「差別に反対しています」と吹いているのが好きではないんですよ(笑)。





灯:
なるほど〜。それは、僕も腹が立つ(笑)。




shfboo:
そうですね。まあ東さんの整理でいえば、オタクは想像界現実界しかない。象徴界が弱いと。だからギャルゲーでは想像界(萌え)と現実界(死、オカルト、神秘、そして外の世界!)が異様に発達する。そこではコソボはけっしてふれえない悲惨という神秘にすぎないと。




chiki:
まさに「難病もの」ですね。「deep love」も「セカチュー」も「難病もの」で、セカイ系の典型で。肌に合わないのかな。




shfboo
しかし、その現実界的なものがさまざまな国際問題を使ってやられると、いわば対象aのように自分の想像界(と象徴界?)にも穴が開けられ、その問題から逃れられなくなる…。たぶん自分が「エリュシオン」で経験したことは通俗ジジェク的にいえばそういうことなのかなぁ、と。以上です。あむばるさん呆れかえってるに千点!




chiki:
ねむくなっているに百万点。




shfboo:
既に寝ているに全点。




chiki:
どうもshfbooさんと一緒だと漫談口調になるね(苦笑)。ところで、「美少女ゲームの臨界点」の東さんの説明、納得できないんですよねー。うまい説明で感心したあと、「でも、そうなのかなぁ…」という留保がつく。




shfboo:
というか「美少女ゲームの臨界点」では「エリュシオン」の話はまったく出てこないでしょ。





chiki:
「AIR」でしたね。とても面白いテクストリーディングではあると思うんですが、ギャルゲー全般が「父になる」ことを目指すものだというのは理解できるとして、しかし「AIR」は父になるのを決定的に断念させ、その不可能性と向き合うためにプレイヤーを批評へいざなうというのはちょっと嘘でしょう。AIRの同人誌がこれだけ出回っているんですから事実そうでない気がする。「エリュシオン」の評価はどうですか、shfbooさん。




shfboo:
対象a(笑)。




chiki:
萌え、じゃないの!




灯:
でも、コミュミケーションなんて本当は幻想だってchikiさん思ってるところがあるように見受けられるんですけど。




chiki:
「本当は幻想だ」とは思ってないですけど、コミュニケーションが可能かどうかは常に疑っていますよ。ほとんど不可能でしょう。サポセンに入ってその勢いは急激に(笑)。まじめな話をすると、shfbooさんが文学の可能性として考えているものとギャルゲーの魅力と考えているものは別だと思うんですが…。




shfboo:
いや、そこまではないとおもう。むしろほとんどの文学といわれているものよりも、ある種の奇形的モンスター的発達をしてしまったギャルゲーの方が有益で刺激的かもしれない、みたいな。




chiki:
え? むしろサブライムというか、コミュニケーションの訓練に、ギャルゲーがなりうる、とまで? 




shfboo:
いや、もしかしたらそこに向かう契機になるかもしれない穴を想像界に開ける可能性がある、位がギャルゲーの可能性の限界ではないですかねえ。やっぱり豊かで閉じた日本人男性の慰みものという大枠があるから、それを奇形的なまでに歪めた作品はすごいけど、その大枠を超えられるわけではない。




chiki:
そうですよね。同意。ジジェクの図式を当てはめたらうまく言えちゃうけど、「実際」どうなの? って思っちゃうの。そのあたり実にアンバランスに感じるんだけど、この評価はまずいかな?




shfboo:
「AIR」やったことないから・・・。そうか、chikiさんの「shfbooさんが文学の可能性として考えているものとギャルゲーの魅力と考えているものは別だと思うんですが」という発言を、別ではなく同じと言ってると勘違いした。その通り、別だと思います。




chiki:
そうですよね。いや、分かりやすく説明してくれてありがとうございます。助かりました。




灯:
ところで「成城サポセン日記」、あれってTVドラマ化したら、めちゃくちゃ視聴率取れるんじゃないかと思います。面白くて、PCのことも判って、これはいい!って感じで。まさに今が旬の素材ですよね。もうちょっと知りたいっていう人が今すごく多いと思うんですよね、ああいうPCやソフトの事。




chiki:
うーん。サポセンネタは、基本的にはかなり嘲笑的な笑いの形だと思うんですが。今月(12月)は2万人以上の人がサポセンネタを目的にサイトに来たんですが、逆にへこみました。仕事の合間に適当に書いた、下手すれば安易な差別ネタなのになぁ、と。自分のことを棚にあげて笑うじゃないですか、あの手のネタ(汗)。




灯:
えー、なんでへこむんですか??




chiki:
コメント欄の盛り上がりを見ていただければ分かるんですが、あの手のネタでは基本的には書かれた文章をあまり疑わず、一方的に「初心者」や「デンパ」「DQN」などをキャラ化して罵倒、嘲笑しちゃうんですよね。これはネット上だけじゃなくて、サポセン内にも「基本的なことも分からない人は電話してくるな!」と愚痴っている人も多いんですし、苦情の言われ方には腹も立ちますがサポセンの体制が悪いのは間違いない事実です(いずれ書きます)。確かに、すごく理不尽なお客様はめっちゃくちゃ多いんですが、でもなぁ、もうちょっと批判があることを予想してたのに、と。




灯:
まあ、確かに数学とかと一緒で「知ってる/知らない」がはっきり出ちゃう世界ですからね。たぶんSEやプログラマーの業界って、すっごい「階級社会」なんじゃないかな。




chiki:
そう思います。気をつけながら書こうっと。といいつつ、筆がそれを悪い形で裏切る(汗)。




shfboo:
しかし、あむばるさん、絶対寝てるな。次来た時いつから寝てたのか、釈明を書いておいてください(笑)*1







*1:その後、あむばるさんがコメントをすることはなかった。