テクスト論

擬態としての<神話>その4

田村が永松を撃つ事となった「銃は国家が私に持つことを強いたもの」であり、同時に「父殺し」の記号でもある。国家に与えられた「もの」である銃は、一度捨てても「父殺し」の記号と共に再び田村の手に戻ってくる。 (1)銃は月光に濡れて黒く光った。それは…

擬態としての<神話>その3

舞台が「比島」と漢字表記なのは、単に当時の慣習に沿っているだけではあるまい。テクスト内に「フィリピン」と表記されている場面もあることから、「フィリピン」ではなく「比島」という表記をテクストがあえて選択していることが分かる。他の島名は全てカ…

擬態としての<神話>その2

テクストが「記憶」の位置をめぐって大きく変化したことは重要だ。「戦争文学」が戦後に書かれたという意味においてのみならず、「戦後」をも描いたという意味で「戦後文学」と重なるのであれば、「記憶」の語り位置が大きな意味を持つ。特筆すべきは、『野…

擬態としての<神話>その1

大岡昇平は大西巨人『神聖喜劇』を評して次のように書いている。 現代への鋭利な風刺 日本の軍隊は老朽化し官僚化し、各種「操典」や「令」の、文語カタカナ書きの煩雑な条文に縛られていた。敵が退却したのに、追撃しないと「作戦要務令」違反になるため、…