学習指導要領および保健体育の教科書において、性的少数者の存在が無視されている件

先日、「週刊SPA!」にも書いたけれど、大事だからブログにも書いておこうと思う。2016年、学習指導要領の改定が行われる。そうした中、「change.org」において、「クラスに必ず1人いる子のこと、知ってますか?〜セクシュアル・マイノリティの子どもたちを傷つける教科書の訂正を求めます〜」という署名企画が行われている。


日本の保健体育の教科書にはかねてより、性的少数者(セクシュアル・マイノリティ)に関する記述がないことが問題視されてきた。まず、実際の教科書はどうなっているのかをみてみよう。


  


【中学保健体育】

出版社 年度 書名 ページ 項目 主な記述
大日本図書 H23/24 中学保健体育 58〜59 思春期の心の変化への対応 異性に関心をもち、好きだと思う気持ちは心を豊かにしたり、毎日を生き生きと過ごす活力を与えてくれたりする面もあります。異性とよい関係を築くためには、男子と女子とでは性に対する考え方や行動が異なることを、おたがいが十分理解することが大切です。
学研 H23/24 中学保健体育 16〜17 性とどう向き合うか 思春期になると、性機能の成熟に伴って、性のことや異性への関心が高まったり、性的欲求が強くなったりします。また特定の人と親しく交際したいといった。友情とは違う感情も生まれてきます。
大修館書店 H23/24 保健体育 60〜61 性への関心と行動 思春期になると、心の面でも変化が起こってきます。自分が異性からどのように見られているか異性の目が気になったり、性についてもさまざまなことを知りたくなってきます。また、異性とふれあいたいなどの異性への関心も高まってきます。
東京書籍 H23/24 新しい保健体育 14〜15 異性の尊重と性情報への対処 思春期に入り、生殖機能が成熟してくると、自然に異性への関心が高まり、友情とは違う感情が生じてきます。また「異性のからだに触れてみたい」といった性衝動が生じる場合があります。/「【やってみよう】あなたが異性に求めたり望んだりすることはどのようなことか、例を参考にして、5つ挙げてみましょう。」

【高校保健体育】

出版社 年度 書名 ページ 項目 主な記述
大修館書店 H24/25 現代高等保健体育 66〜67 性意識と性行動の選択 思春期は性にかかわる意識も大きく変化する時期です。男女とも異性への関心が高まってきます。同時に性的な関心も高まりますが、その強さやあらわれ方には、個人差はもちろん、男女の間にも明らかに差があります。
大修館書店 H24/25 最新高等保健体育 66〜67 性への関心・欲求と性行動 「異性と親しくなりたい」という気持ちや性に対する関心は、思春期になるにつれて男女ともに高まってきます。しかし、性的欲求の強さやあらわれ方には、男女の違いがはっきりとみられます。
第一学習社 H24/25 高等学校保健体育 62〜63 思春期の心の成長 思春期は異性に対する関心や異性と親しくしたいという欲求が強くなってくる時期ですが、性に対する意識や行動のしかたは個人差も大きく、男性と女性でもちがいがあります。


http://nikkan-spa.jp/766230
こちらには、引用元である教科書の写真を掲載しております。あわせてどうぞ。


ご覧のとおり、いずれの保健教科書にも、「思春期になると異性への関心が高まる」と記されている一方で、性的少数者に関する記述は皆無だ。


日本では、学校教育法等に基づき、各学校でカリキュラムを編成する際の基準を定めている。その基準となる「学習指導要領」には、次のように記されている。

段階 項目 学習指導要領の記述
小学校 思春期の体の変化 思春期には、初経、精通、変声、発毛が起こり、また、異性への関心も芽生えることについて理解できるようにする。さらに、これらは、個人によって早い遅いがあるもののだれにでも起こる、大人の体に近づく現象であることを理解できるようにする。なお、指導に当たっては、発達の段階を踏まえること、学校全体で共通理解を図ること、保護者の理解を得ることなどに配慮することが大切である。
中学校 生殖にかかわる機能の成熟 思春期には、下垂体から分泌される性腺刺激ホルモンの働きにより生殖器の発育とともに生殖機能が発達し、男子では射精、女子では月経が見られ、妊娠が可能となることを理解できるようにする。また、身体的な成熟に伴う性的な発達に対応し、性衝動が生じたり、異性への関心などが高まったりすることなどから、異性の尊重、性情報への対処など性に関する適切な態度や行動の選択が必要となることを理解できるようにする。なお、指導に当たっては、発達の段階を踏まえること、学校全体で共通理解を図ること、保護者の理解を得ることなどに配慮することが大切である。
高等学校 思春期と健康 思春期における心身の発達や健康課題について特に性的成熟に伴い、心理面、行動面が変化することについて理解できるようにする。また、これらの変化に対応して、自分の行動への責任感や異性を尊重する態度が必要であること、及び性に関する情報等への適切な対処が必要であることを理解できるようにする。なお、指導に当たっては、発達の段階を踏まえること、学校全体で共通理解を図ること、保護者の理解を得ることなどに配慮することが大切である。


どの段階でも、誰もが「異性への関心が高まる」ことを前提としている。しかし、これには問題がある。実際にはこの社会には、異性への関心が高まらない者も多くいる。例えばコンドームメーカーの相模ゴムが国内で1万人以上に行っている調査「ニッポンのセックス」では、異性以外を恋愛対象とする者が6%〜10%程度は存在するという結果が出ている。



男性…異性のみ 93.6%、同性のみ 4.9%、両性 1.2%、その他 0.3%
女性…異性のみ 89.8%、同性のみ 7.1%、両性 2.4%、その他 0.7%
出典:『ニッポンのセックス』相模ゴム工業 / http://sagami-gomu.co.jp/project/nipponnosex/


他の類似調査でも、少なくとも5パーセント前後は当事者がいるのではないかと語られてきた。こうしたデータ見ても、「異性」以外に関心を持つ者は少なくない。さらには「その他」に含まれる、例えば性愛に興味を持たない「無性愛者」なども存在する。実際に多くの当事者がおり、数々の統計的裏付けがあるにも関わらず、《誰もが思春期において異性愛に目覚める》かのような記述を行うのは、「ニセ社会科学」だと言える。教科書が子どもに嘘を教えていることになるので、ぜひ記述を改めてほしい。


何より、多感な時期に性的少数者の存在が不可視化されてしまうことは、様々な問題を引き起こす。例えばメディアでも、性的少数者をネタする表現も多い。学校でも生徒が、時には教師も含めた大人が「オカマネタ」などを口にするなどして、性的少数者を嘲笑する空気をつくりあげたりもしており、被いじめリスクも高い。丁寧に啓蒙することで、差別を減らしていくという役割を、教科書策定や教育に関わる人たちには担ってほしいと思う。