広がる「学校裏サイトバッシング」

広がる「学校裏サイト」、親まで悪口を書き込む惨状に【続・子どもとケータイの闇】が話題になっている。学校裏サイトで、今何が行われているのか〜子どもとケータイの闇から半年後の、下田博次さんのインタビューだ。


下田さん個人については、「ねちずん村」などの活動はとても評価しているし、勉強になるところも多くあるため尊敬はしている。ただ、「インターネットの現状」について、自分と認識がずいぶん食い違うと感じるところがとても多い。chikiから見れば、下田さんの言説は「教育」という視点から不安点を列挙し「親」を煽りすぎに思える。例えば半年前のインタビューでも「海外の研究者は、日本の現象をいぶかしく思っています」「インターネット先進国と言われているアメリカの家庭でも、子どもに使わせているのはパソコンのみです」と語るなど、どうも一面的なのだ。


今回の、半年前のインタビュー時と比べた発言もそうだ。

状況は激変しています。顕著な変化は、「学校裏サイト」と呼ばれる「実在の学校名をつけた、子供たち自身による発信」サイトが、全国的に減少していることです。もちろん、なくなってはいません。実数は調査中です。


あらかじめ立場を表明しておくと、「学校裏サイト」(chikiは「学校勝手サイトと呼ぶ」)というのは擬似問題だと考えている。実際に学校名をつけようがつけまいが、学生同士がネットでコミュニケーションをすれば、そこは「学校裏サイト」的な性格を帯びるので、もともと学校の公式サイトであるか否かというのは関係がない。蓋を開ければ、基本的なリテラシーと作法(をめぐる言説)の問題である(だから、否定論者も肯定論者も、プロセスは違えど「リテラシーって大事だよね」という話に落ち着く)。


さて、「実在の学校名をつけた、子供たち自身による発信」サイトが「全国的に減少」しているという発言だが、これはにわかに信じがたい(「実数は調査中」らしいし)。今でも「東中2年C組の溜り場だょ」的なサイトやコミュニティはわんさかある。


学校勝手サイトについては、学校単位のサイトよりも、クラス単位や部活単位のサイトの方が定番化しているように見える。例えば匿名レンタル掲示板などの場合、学校全体のサイトとして作ろうとして漠然と「●●中学校のサイト」というタイトルでサイトが作られ、結局はまとめきれず、あるいは定着せずに廃れるケースは多くある。chikiのインタビューに「僕のクラスには裏サイトはない。クラスのために何かをして、まとめようとする人がいないから」と答えた中学生がいたが、彼の発言は象徴的に響くだろう。


「大人バレ」を避けてパスをかけたりする場合は確かにある。本人たちしかわからないローカルなコミュニティ。しかしそれはこの半年のことではない。【消える「一線」】ネット犯罪2007(3)標的 学校裏サイトで中傷の記事でも、1、2年前にもすでに「大人バレ」を避ける事例が紹介されていたし、インタビューでもそのように答える学生はいた。報道を受けて避けるようになった人もいるが、ここ半年の傾向として観測できるほどではないように思う。


大人バレ防止策を施している場合、そこでの言説交換が外部と繋がらず、可視化されないため、ウェブ以前の口コミやいじめ、愚痴などの「大人にナイショ」系コミュニケーションとほとんど変わりがない。実際、学校勝手サイトでの会話は、マクロ的には雑談や恋バナ、ゲーム攻略、愚痴などが多く、「死ね」などの書き込みは一部だ(もちろんミクロ的に、「死ね」系の書き込みばかりが埋め尽くされるサイトも多く存在する)。下田さんも「(ネガティブな書き込みは)継続して一定の割合で出ています。もちろん、無害な情報交換の量や、単純なメッセージ交換も多いですが」と書いているが、基本的には悲観的な要素を強調している。リテラシーの重要性を訴えるために、学校勝手サイトや子どものネット利用の危険な側面ばかりを指摘するのは同意できない。


なお、半年前、下田さんは「だいたい1万5000」と推計していたが、これは数としては少なすぎる。現在、モバゲータウンの学校サークルだけでも3万5000以上。半年前時点でも、数万はあったはずだ。ただしこれに関しては、下田さんが「学校名を掲げていること」を条件に計測していたのかもしれないので、保留。chikiのカウントは、学校の話題をとりあげるコミュニティ単位でカウントしているので、同じクラスに複数の勝手サイトが作られている場合もある。

もう一つの変化は、ケータイサイトへの移行です。昨年までの我々の調査では、「学校裏サイト」というものは、パソコンからもケータイからも見られていたのですが、最近はケータイからしか見られないものが増えています。


いや、もともとわんさかありましたよね。パケット定額やメディアの報道、モバゲー人気などによってここ数年「増えた」というのは確かだろうけれど、“パソコンからもケータイからも見られていた状態”から“見られなくなった状態”という変化があったのだというのは間違い。しかもここ半年で、というのも。というか、下田さんが観察対象を変えただけではないかとすら思ってしまう。それは、

以前は、学校裏サイト専用のポータルサイトがあって、そこを監視していたのですが、そういった情報を掲載するポータルサイトがいくつも増えて、把握しづらくなってきました。それから、ポータルではなかった普通の無料レンタル掲示板に広がっています。2ちゃんねるなどにも存在しますし、「プロフ」(※2)という形の、まったく別の発信媒体に移ったりもしています。ようするに、発信エネルギーそのものは広がっています。


という発言からもそう感じてしまう。地域ごとにまとまっているスレッドフロート式掲示板やランキング式のサイトばかりみていたのだろうか? 前回のインタビューが行われた4月時点でも、すでに「ポータルではなかった普通の無料レンタル掲示板」や「(学校勝手サイト化した)プロフ」は膨大にあった。半年で広がったわけではないのだが。自分が知らなかったことを知っただけなのに、あたかも社会や観察対象が変化したかのように語ってしまっていないだろうか。「俗流若者論」にもありがちなパターンだけに、注意が必要だ。


あとは細かく気になったこと。

とくに、子どもたちの間では「モバゲー」(※3)というゲームサイトの人気がすごくて、そこも、学校裏サイト的な発信媒体として使われているんですね。あそこには、出会い系のサービス機能が働いています。


これはちょっと誤解を招くかもしれない。たとえばモバゲーは、「出会い」とかのキーワードは、検索にひっかからないようにしているし、運営側にそれらしい書き込みは削除される。もちろんmixi同様、メッセージやサークル機能などによって「出会う」ことは全然可能なのだけれど、モバゲー=出会い系、というような理解は一面的だ。

 相変わらず実名をあげる書き込みは続いていますが、生徒だけではなく「先生の実名入りの誹謗中傷」も増えています。
 さらに、そこに親が匿名で入ってきて、子どもと一緒に先生を誹謗中傷する現象まで出てきています。その学校の親じゃないと知りようがない内容や文面で、子どもと一緒になって、特定の先生の誹謗中傷をしているんですよ。これは、今までにはなかったことです。中学校の校長など、当該の学校管理者からの訴えでハッキリしました。しかも、1件や2件ではありません。予見されていたことですが、モンスターペアレンツ掲示板やブログなどITを握ったわけですね。この傾向が強まると、非常にやっかいです……。


モンスターペアレンツ」ですか。『ウェブ汚染』の尾木直樹さんも好んで使っているのだが、どうなのだろう。尾木さんの言説吟味はまたの機会にするとして、例えば「消費者意識の増長」的な文脈で用いられるこの言葉にはどうも胡散臭さを覚えている。学校にサービス向上を促すこと自体を敵視し、ローカルなルールを保存するばかりに働く教師側の視点ばかり補強するというアンバランスな寄与をもたらしかねないし、あたかも学校を特権化するような言説と併置されやすいのが気になる。

学校裏サイトはケンカサイトともいわれていて、暴力誘発情報も多いのです。それによる事件もいくつか起きています。誹謗中傷は、女子の被害・加害件数が多いですけど、暴力誘発情報の発信によって、実際に乱闘になるのは、男子ですね。


暴力誘発情報?

 よく、だんだん悪くなってきたのでしょう?と言われますが、そういう風に甘く考えているから、問題が広がっているのだと申し上げたい。最初から悪かったんですよ。
 私が最初に扱った事例は、すぐに警察沙汰にしなくてはならなかったeメールによる誹謗中傷です。それが2000年ですから。今に始まったことではありません。この事例は、文面もさることながら、いじめがエスカレートして、自宅にカッターナイフをいれた封筒を送ってきたんですよ。そういう風に発展しやすいんです。だから注意しろと言っているわけです


インターネットの「暴力誘発情報」なるものによってエスカレートし、具体的暴力に発展しやすいらしい。本当だろうか。となるとこれから少年たちの暴力犯罪が増加したりするのだろうか。


ちなみに、これはこのインタビューとは別に全般的に言えることだけれども、匿名書き込み=発言者が特定できないから問題、というわけでは必ずしもない。ログの残らない口コミによるバッシングと違い、書き込みが特定される可能性も高いわけで、警察沙汰にはしやすい側面もある(ケータイはことさら)。「陰に隠れてこそこそ言う」「遠くから悪意を投げつける」ことの道徳的な評価と、問題化のしやすさは別問題。


なお、chikiは「ネットいじめ、たいしたことない」と主張したいわけではない。それは別途論じるつもりだけど、ウェブ以前に比べて大きな被害を与える可能性は確かにある。また、「警察沙汰」に象徴されるように、学校を聖域化し、人権侵害や暴力事件も学校内部のローカルルールで管理しようというこれまでの風潮や、あるいは「未熟な子ども」に入ってくる情報を、「保護する者」が取捨選択し縮減するという近代的な発想とはかみ合わない部分がどうしてもある。そのあたりも、じっくり触れていきたい。まだまだ調査中なので、結論は待ってくだちい。