自己決定(選択自由)を認めない自己責任論/かくも不自由な新自由主義

id:sugitasyunsukeさんのエントリー、「リベラリズムその可能性の中心(の、ためのノート)」から考えさせられたことを書きます。本文は、「9.11選挙と新たな時代。」の続きでもあります。どうも最近、揚げ足取りを恐れて、但し書きばかり増えてしまっているので、短く平易に書くように努めていきたいと思います。反省。


当サイトで、イラク人質事件をめぐっての議論を展開した際、「人質のために自衛隊を撤退させることは、最大多数の最大幸福に反する」という趣旨のトラックバックをいただいたことがあります。「有限なプールをどのように配分するかが大事なのだ」という意見も多く読みました。今以上にサルであった当時、ない知恵を絞りながら一生懸命反論したことを覚えています。


近代型の政治の根本には《ものごとにはプライオリティ(優先順位)があって、成員の最大多数の利になるところから解決していく》という発想があるでしょう。だからこそ、「最後に微調整的に「弱者」の問題を論じる」という発想になる。《優》れた者を《先》に回す、という発想なので当然そうなる。


では「ネオリベラリズム」はどうか。《これまで前提としていた社会の自明性が崩れていってしまう》という不安感によって駆動されるネオリベラリズムの発想の根本も、「最大多数の最小不幸」に抑えようという発想に変わりつつあるとはいえ、「最大多数」が優先されるという点で変わりがない。というか、むしろ最大不幸の元であるネガティブな要素は積極的に排除、という帰結へと必然的に導かれる。最低少数は排除、最小不幸はしょうがない、ということでもある。


どちらもプライオリティの観点から論じられる、という点では近代型政治(「リベラリズム」)もネオリベラリズムも変わりがない。そのアウトプットがポジティブかネガティブの差こそあれ。では、プライオリティという発想を前に、「多様性」への配慮をどのように求めていくのか。おそらく、この問いの立て方は徒労に終わるように思います。基本的には、プライオリティという発想でしか物事を決定することは難しいし、悪法に反対するとか、援助の配分量を上げるよう求めるなどの運動をしていくほかないから。


であればプライオリティをいじる議論の場に誰でもコミット出来ること、そのような状態やムードを作っていくことが重要になる。現在はその点で大きな不満が残る。これはchikiの勝手な理解ですが、杉田さんは(1)プライオリティという発想のもたらす論理的帰結と、(2)自分のプライオリティを高くキープしようとする者たちの倫理の不在を問題化した。そして現在では、(1)と(2)の前提の間に「自己責任/自己決定」という名の「チョウツガイ」が何食わぬ顔でちゃっかりと存在すると指摘する。そのため、「欺瞞」と「分断」が深淵化していく。


通常、「自己責任」原則を導入するということは、「自己決定」原則を導入することでもあります。これまでのように一元的な価値基準にのっとる必要はない。自ら交渉したうえで選択の決定を下してよし。その決定には自ら責任をになうべし(自分だけで尻拭いをしろ、ということではない)。


このように、自己責任と自己決定は本来セット。ところが一元的価値がキープされたまま、自己決定権が奪われている状態で自己責任のみを押し付けるのは明らかにフェアではない。イラク人質事件以後急速に広がった感のあるこの言葉には、背後に上のような合意性がなく、ルサンチマンしか存在しなかった。「富者にとってそれは自分の現状正当化とさらなる欲望のドライブを意味し、貧者にとってはそれは責任の押しつけと存在の切捨てを意味する」というのが実情。ルサンチマンだからこそ、貧者の足の引っ張り合いの悪循環を加速させる。


かように、「平和なゲーテッド・コミュニティのホテル内で、武力ではなく理性的対話を、とにやにやおしゃべりに耽る知的スペシャリストども」がトップダウン的に自己責任論を押し付けることは論理的な矛盾を持つ。その矛盾を指摘するためには、矛盾を声高に指摘し、「テーゼ」を共有すること以外に道はない。「テーゼ」を議論のテーブルに運んでいくしかない。


というわけで、結局「啓蒙は大事」という話になってしまうようです(苦笑)。ただ、本当に陳腐な結論だけれど、このように「多様性」を認めさせるためには、プライオリティ自体を批判しつつも、自らがプライオリティの書き換えの場に参加できる努力をすることは重要だと思っています。そのためのエリート主義は否定できない。「平和な…スペシャリストども」には、chikiも、このサイトを見ている大多数の人も含まれるのだから。




追伸。というわけで、ブロガーの人には、「フリーターに関する20のテーゼ 」をどんどん紹介してほしいです。結局はこのことが言いたかったんだ。よろしくお願いします。