6月のセミナーは吉田徹さん&広田照幸さん

ニッポンの民主主義(2008年6月14日(土) 15時〜17時)
 90年代の政治改革は、戦後の「一党支配」からの脱却を目指しただけでなく、「政権交代のある民主主義」を目指した「政治工学(constitutuional engineering)」の日本における誕生を意味していた。もっとも英米デモクラシーを基準としたこれらの一連の改革は、かつて丸山眞男が指摘したように「抽象的命題の拡大主義」に基づく、およそ(日本における)デモクラシーとは何であり、どのようなものであるべきか、という規範的な問題意識を捨象した改革の過程だった。実際、70年代以降、アングロサクソンでのデモクラシーとは異なる形式のデモクラシーが”発見”されるにつれ、デモクラシーをめぐる議論は深まりをみせることになり、また一方ではグローバル/国家横断的なデモクラシーのあり方が検討される中で、「モデル」としての二大政党制はその弊害だけでなく、歴史的に生成されたものであるという論点も省みられることがなかった。このセミナーでは、戦後知識人の中における、とりわけ実践的政治知とでもいえるものとして、どのようなデモクラシー観が提示され、そして90年代の”断絶”の中で、どのような前提をもとに(マニフェスト選挙!)にして政治学者が改革にコミットしていったのかを精査することとする。それと同時に、最近のデモクラシーをめぐる議論を参照しつつ、U.ベックが指摘するような「後期近代」における新たな民主主義のあり方が存在するのかどうか(もしくは「ポスト・デモクラシー」期におけるその不可能性)、確認をしていきたいと思う。こうした一連の作業は、ネオリベが全面化する時代でどのような利益集合が可能なのか、という実践的問題につらなるだけでなく、「私たちのデモクラシーとは何か」という、とりもなおさず、極めて想像力にまつわる問題を提起することになるはずである。
吉田徹(よしだ・とおる) 北海道大学公共政策大学院准教授(欧州比較政治・フランス政治史)1975年東京生まれ。慶応義塾大学法学部卒、日本貿易振興機構パリ政治学院東京大学総合文化研究科(学術博士)を経て現職。共著に『先進デモクラシーの再構築』、『政治学のエッセンシャルズ』、『政権交代と民主主義』『執政の比較研究』(ともに近刊)。現在、フランス・ミッテラン政権の社会主義から欧州統合への転換に関する著作を準備中、月刊誌『論座』のコラム「潮流」を担当。

教育改革を巡る政治的構図を読み解く(2008年6月29日(日) 15時〜17時)
 教育改革をめぐる対立軸の変容の問題を考えたい。米ソ冷戦体制を反映した1970年代までの対立軸では、もはや読み解けないような事態が生じている。たとえば、旧来の対立図式から見ると「ねじれ」にしかみえない事態や、旧来の対立図式から見ると同じ陣営にあるはずの諸アクターが争っている、といった事態である。ここでは、1980年代以降の教育改革をめぐる政治的構図の変容を整理することで、近年の教育改革論議が置かれていた社会的・政治的文脈を明らかにし、今後の教育政治をめぐる構図について、見通しを立てていきたい。ひと言つけ加えると、教育問題を語る枠組みを、そうした視点から組み立て直すことが必要だと、私は思っている。というのも、教育制度や教育政策レベルでの改革は、実は広範な影響を教育の日常レベルに及ぼすことになるからである。教育制度や教育政策レベルでの改革論がわかりにくいため、教育について何か考えたい人たちの関心は、つい青少年非行とかいじめとか、教師論など、単純でわかりやすい事象に向かってしまいがちである。それらはシロウトでもいじれるネタなのだ。しかし、そのことが、議論の磁場を歪めてしまっている。教育政治リテラシーを身につけた市民が、「教育をよくする」ために教育制度や政策をめぐる議論をできるようになれば、もう少しましな教育になるだろうと思っている。
広田照幸ひろた・てるゆき) 1959年、広島県比婆郡生まれ。東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得の上退学。南山大学文学部講師・助教授、東京大学大学院教育学研究科助教授・教授を経て、2006年10月から日本大学文理学部教授。専門は教育社会学。著書に、『陸軍将校の教育社会史――立身出世と天皇制――』(世織書房、第19回サントリー学芸賞受賞)、『日本人のしつけは衰退したか――「教育する家族」のゆくえ』(講談社)、『教育言説の歴史社会学』(名古屋大学出版会)、『教育には何ができないか』(春秋社)、『思考のフロンティア 教育』(岩波書店)、『教育不信と教育依存の時代』(紀伊國屋書店)、『《愛国心》のゆくえ――教育基本法改正という問題――』(世織書房)他がある。


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