デマが広がる瞬間・或いは瞬間を解釈するということ

ネットユーザーの多くには――特にこのサイトを見ているような方には「なにを今更」って言われると思うけれど、ネット上では「画像ネタ」で楽しむ機会は多い。2ちゃんねるや画像掲示板などでは、テレビ動画の一瞬のキャプを取り上げてことさらアイドルを不細工、整形だとからかったり、動物の一瞬の表情に見事にはまるセリフをつけたり、ある動作(動画)のある瞬間だけをピックアップすることで過剰な意味づけをして遊ぶことがある。他にも連貼りしたり、コラージュしたり、gifにしたりと楽しみ方は多種多様。それらはたまに差別的な表現にすらつながることもあるけれど、その加工具合が面白いので、画像を加工する職人は結構リスペクトされていたりする。「pya!」とか「爆笑画像掲示板」とか「画箱」とか、画像ネタで面白いサイトもたくさんあるし。



でも、当然ながら、そのように加工されたソースを持って真面目に議論するのはとても危険。例えばテレビに映った時点で既にかなりの加工がなされているのに、そこからさらに一瞬だけキャプされたものを取り上げられたりすると、どういう編集がされたのかが分からないだけでなく、どういう文脈で報道されたのかもさっぱり分からない。そのような画像を使って議論するには、ソースをはっきりさせるか、あくまでネタ議論として笑って済ませるというのがちょっとした作法になっているように思う。要は楽しみ方の問題って事かもしれない。



例えばこの写真http://tinyurl.com/86lz5削除されたようなので、以下に張ります。








これは一時2ちゃんや画像掲示板で話題になったものだから、見覚えがある人もいるのではないかと思う。体育祭などのチアリーディング、あるいは組体操の「はれんちぃな一瞬」を取り上げたものと思われ、ただただ「エロス!」「(*´Д`)ハァハァ」と盛り上がっていた。このほか、小学生のプールバージョンなんかも有名。



で、ネタで盛り上がるのではなく、もし真面目にこれらの写真をめぐって教育について議論するなら、これが、いつ、どこで、どのような形で行われ、どのような指導があったのかなどを踏まえないといけない。また、例えばこれが応援団やチアリーティング部のような自発的な参加によって行われたものか、クラスなどで行ったものか、自分たちで振り付けを考えたものか、それとも教師の指導によるものかなどなどの背景によって議論の意味は変わってくる。つまり、この写真だけで教育論をぶつのは、駅で見かけた若者一人をとりあげて社会全体を語るくらいアホらしいということ。



なぜこのような話をしたかというと、この写真をもってジェンダーフリー教育の仕業だ!」「日教組の陰謀だ!」「行き過ぎた性教育の仕業だ!」と言っている人を何人か見かけたからです。あ、そこ、「さすがにそれはウソだろう」とか言わない。実際今も、とあるサイトでこの写真をめぐって大真面目に議論がされている。そのサイトはSNSだから、コミュニティのURLを貼っても見れない人が多いだろうし、SNSでの議論の内容を晒すのはネットマナー違反なのかもしれないので、某SNSの某ジェンダーフリーバッシングコミュニティでの話として進めます。ただ、そのコミュニティの管理人はBLOGを持っており、そのBLOGは公開されている模様なので、紹介させていただきます。



そのコミュニティは、このBLOG(http://ameblo.jp/jenderfree)の中の人が運営しており、管理人の方は上の写真を次のように紹介していました(URLが「jender」なのはご愛嬌)。



ジェンダーフリー偏向教育反対のネットワークをつくるため、ささやかに、はじめたブログ(http://ameblo.jp/jenderfree)。最近、初のトラバがつきました。九州で、日教組が展開する学校現場の男女混合教育の様子です。もともと、男性気質の強い九州。かなり、巧みに入りこんでいるもよう。

上の写真を「九州で、日教組が展開する学校現場の男女混合教育の様子」と断言しています。「ん? ソースは?」と思って読み進めると、こちら(http://blog.goo.ne.jp/hagukumukai7/e/bcb4bca98178f16dad64ee3ce74399bf)に書かれていた、というのがソースだそうです。



で、そのソースを辿ってみると「男女共同参画を納税者の視点で考える掲示板の管理人さんが、 2ちゃんねるに落ちていたのを紹介されたもの」「写真の様子からしどこかの中学校か高校の体育祭の応援合戦のようです」と推量で書かれている。つまり、このリンク先では全然入手元の特定ができてないので、全然ソースとして機能しない。おそらく、その下に「日教組が〜」「福岡県では〜」と書かれている部分を脳内補完して、「九州で、日教組が展開する学校現場の男女混合教育の様子」と解釈したのでしょう。しかしそもそもの記事だって、「背景には、日教組が推進してきた男女混合教育があったと思います」という主観レベルの感想なのだから、ソースになるはずがありません。にもかかわらず、2ちゃん→掲示板→ブロガーA→ブロガーB→SNS→…、と移るにしたがい、どんどん新たな解釈が加えられつつ既成事実化していっている



この件に関しては既に、「こちらのコメント欄」で、上サイトでソースとして紹介されていたサイトと同名の「なめ猫」さんという方からコメントを頂いた際に「例えば2ちゃん等で拾った写真をソースもなく突然男女混合教育のせいだとしたりするケースも。ある瞬間をカットアップ、フレームアップして検証抜きで解釈作業をすることの危険性は、作る会発足時に小林よしのり氏が批判したこと」と書きました。



また、元々この写真が2ちゃん等でウケたのは、「この写真をそのような視線で見ること」自体をネタ化していたからでもあります。つまり、ワンシーンのカットアップを別の解釈軸に置きかえて「ハァハァ」とレスする行為自体を楽しむことで、「エロイ見方をするアホらしさ」自体をネタにして楽しんでいた。それを単に「これはエロイ!」とベタに憤るのは、何重にも「文脈を読めていない(無視している)」のでまずい。



そもそもジェンダーフリーとは、語源はどうあれ現在では「ジェンダーバイアスの押し付けからの自由」を意味して用いられるので、ジェンダーレス(性差をなくすこと、性差を考慮しないこと)とは異なります。だから、ジェンダーフリーの視点からこのような教育指導が行われるはずがない。これが個人を無視した教師の指導によるものであれば、むしろジェンダーフリー論者やフェミニストから「セクハラ」「望まない性役割の押し付け」の一例として批判を受けるでしょ。ジェンダーフリーに対する批判は全然アリなんだけれど(chikiもジェンダーフリー推進派ではないし)、批判者の多くは全然関係のないもの(例えば性教育)をジェンダーフリーと誤認して叩いたり、あるいは「誤認」ではなく意図的にデマと結びつけて煽ったりしている。今回は「《瞬間》がデマに用いられる瞬間」というものを見せ付けられた気がします。



念のため補足しておくと、仮に100万歩譲って上のような教育を「ジェンダーフリー」と呼称して押し付けて行っている人がいたらその方を批判すればいい。但し、一部をもって全体を批判するのは間違いで、これは、八木・西尾両氏の発言がアレだからといって、保守思想全体がアレだと批判するのが大間違いなのと同じ。一人の日本人がダメだからといって、日本全てがダメと言うのが大間違いなのと同じ。…ただ、困ったことに、一人の「凶悪少年犯罪者」が出るたびに「戦後教育が間違っているからだ」とか主張する人がいたり、個人的な外国人との接触体験を普遍化してお国柄のせいにしたりする俗情まみれの議論が多く、しまいにはそれが結構賞賛を持って受け入れられてしまうことが多いから困る。セカイ系じゃないけど、個人の実存不安を社会問題に強引に結びつけないで欲しい。



また、政治家の中には、少年犯罪があるたびに「だから教育基本法を改正せよ」とかむちゃくちゃな論理を押し通す次期首相候補もいるし、「ゲーム脳」等の議論を利用してゲーム規制を進める知事もいらっしゃる。諸個人の実存不安を利用して自分の政策を進めようとする政治家が多いからこそ、市民、国民は政治を監視する必要がある。その点ではジェンダーフリーバッシング系のサイトも無意味ではない…はずなのだけれども、議論がこういう具合なので、フェミ叩きの自己目的化や「憂国サークル」での居酒屋談義にしかなっておらず、むしろデマを広げる分、本人たちの真剣さとは裏腹に有害になってしまっている。論者たちが真剣に国を憂いているほど、ベタであればベタであるほど議論がねじれてしまう。閑話休題



この問題は、「「新しい歴史教科書を作る会」会長&名誉会長コンビ」が『世界日報』やネットで拾ったソースを都合よく使っていたことを考えると、ある種の「リテラシー」に関する問いでもある。そういう状況があまりにアレなので、このBLOGでは、今月の頭に「ジェンダーフリーとは」というまとめサイトをつくり、「googleランキングをあげて欲しい」とお願いしたところ、1000以上の被リンクをいただいた。これは述べリンク数で、ユニーク数だと多分500〜600くらい。ランキングも結構あがって、いくつかのサイトでこのまとめを利用しながら議論を行っていただいているようです。まだまだリンク募集中。



ただ、個人のリテラシーの話やブロガー同士の議論で済まされないのがこの議論の現状。例えば現在話題の「デイリー自民」を見ると、自民党山谷えり子さんが「自民党PTのアンケート結果」を「約3500の実例」として紹介しています。



まず確認として、紹介されている「実例」は、ジェンダーフリーと無関係のものか、逆にジェンダーフリーの視点から批判されるようなものばかり。で、注意すべきは、「約3500の回答」というべきところを「約3500の実例」としていること。全部が実例でないことはweb上で「アンケートに答えた」としている人の日記をみて確認済みで、そこにはアンケート自体への異論や、例えば自民党アンケートは同性婚を教えてはならないもの(「行きすぎ」の例)であるかのようなニュアンスがこめられているけれど、「過去に同性愛者を馬鹿にするような教育をされて嫌な目にあった」「同性愛者を擁護する発言が増えることには当事者として感謝している」というような声も含まれている。また、「あまりにひどい状況のために実際に調査した例ある」ということは、調査していない例がほとんど。しかも、調査した結果がどうなのかは不明。誘導的なアンケートだったので、実態とは異なる「声」や無効票も存在するだろうし、証拠もなく通報だけで逮捕することの危険性は説明するまでもないでしょう。 →この点は「こちらのページ」にて詳細を書きました。




もちろんアレな実態があった場合には適切に指導すればよいし、実際変なケースもあるみたいだから、ジェンダーフリーとは関係なくてもそれはそれで吟味しなきゃいけない。にも関わらず、「実例が約3500あった」のではなく「回答数が約3500あった」のが実情なのに、わざわざ「実例」としたい理由はなぜか。一部調査のみで勇み足をしてまでバッシングをしたい理由は何か。山谷氏には何度となく説明がなされているにも関わらず、なぜパフォーマンスをやめないのか。このあたりはもう少し調べていくつもり。



また何かソースが手に入ったら触れます。まとめの方も適宜更新してます。ただ、その前にしつこいくらい繰り返しておきます。ソース確認はしっかりと。マジで。






※ただ、こうやってうだうだ議論している間に、別のところでシニカルな選択が進んでいく、ということにならないように気をつけたいと思っている。例えばフェミニストの方の多くは、男女共同参画に対して「あれはネオリベラリズム」「あれはリベフェミ」という批判をしているし。また、推進派でもフェミニストでもないchikiとしても、ちゃぶ台返しでない批判や各論について吟味したいと願っている。
※上のSNSがどこかを知りたい方は、個人的に尋ねてください。皆から見ると、chiki自身がソースを捏造している可能性もあるので。




※2006.1.29追加
上で言及したサイト(http://ameblo.jp/jenderfree)ですが、さすがに写真を消したみたいです。恥ずかしいから最初からこういうことはしないように。











※しばらくたったらまた戻してた。何を考えてるんだろう。