ケース7:宇宙の重みを感じる言葉遣い。

「大変お待たせいたしました。○○サポートセンター、担当のchikiでございます!」







今日も、サポセンの中の人であるchikiの声が職場に響く。世の迷えるユーザーを救済するべく、今日もその手を受話器に伸ばす。サポセンといえば、直接お客様と対話するのが仕事です。そのためには、Ⅰ.お客様の発言を聞き取り、Ⅱ.質問内容を理解し、Ⅲ.相手にわかるように解答を行う。ごくごく当たり前のことではありますが、これが意外と難しく感じる場合があります。





例えばⅠの場合。自分が耳慣れない方言、感情的になっている時の発言、あるいは単純に声の小さいご老人などの声は聞き取るだけで一苦労です。また、パソコンで作業をしながら電話をする方が多いためハンズフリーでかけてくる人も多いですし、中には自分で声を出せないため音声化のための機械などを通して会話する方もいらっしゃいます。逆に大きな声でしゃべり通しのため、声が始終割れている方もいますし、中にはわざと聞き取りづらいしゃべり方をする人もいる。「お電話番号を伺ってもいいですか」とたずねると、星野卓也ばりの早口で10桁一度に言う人や(それでも全部覚えますが)、個人情報を知られたくないという意思の表れか、名前を訪ねると「wwもにゃwwもにゃです」とごまかす人が毎日一人はいる。そういえば、関係ないけど電話出るといきなり「世田谷の○○だが」と名乗る人が多いのは不思議です。名前は分かった、で、お前は誰だ。





Ⅱの場合。初心者の方は「ドラッグ」や「バックアップ」など、多少専門的な用語の場合はご存知なく、自分と言葉の規則を共有できないため、相手がその言葉で何を言わんとしているかを理解しなければなりません。「あのー、なんていうのかな、この、あれだよ、画面のね、その、あの、あれだ、下のほうにある、えーと、ボタンというかさ、うん、えーと、そうそう、棒というか、えーと、あるじゃない、このさ、画面のさ、下のほうだよ、うん、下のほうね、うん、うん、分かる?」といううなり声からタスクバーのことだと分からなくてはならないわけです。





中には逆に、知識をひけらかすために略語を連発するような方もいます。例えば「インスコする前にログだけ外付けにDDしたんだけど凍った」とか「みかかと契約はずしたらうぷきかなくなったよ」などのジャーゴンを連発する方の場合は、「ふふん!」という威張った態度が癪に障る内容は理解できるので問題はないのですが(みかかって言葉、まだあったんですね。パソコン通信の頃からありましたよね)、仲間内や自分の中でしか通用しなそうな独自の言葉遣いを出されるとお手上げです。そういえば以前に圧縮ファイルを解凍することを「結婚」と呼んでいるお客様がいましたが、理解するのに10分くらいかかりました。お客様曰く、「バー(棒)が何度も往復した後に新しく子供(アイコン)が出来るから」とのこと。いやぁ、こいつは一休さんに一本取られたなぁあっはっは…って分かるかぁゴルァ!! しかもそれは結婚というよりwwもにゃwwもにゃじゃないか!!






Ⅲの場合の難しさは説明するまでもないと思いますが、あんまり想像できない人で料理が得意な方は今すぐ身近な料理初心者の方に電話して、口頭のみでレシピを伝えてボルシチを作らせて見てください。アニメが好きな方は自分の親に電話して口頭だけで好きな萌えキャラの特徴を伝え、似顔絵を見事に描かせてみてください。「後者は言いすぎだろww」と思うかもしれませんが、FDの裏表の区別が出来ない方にレジストリの書き換えをお願いするようなケースもあるのです。うはw無理w(略)。










さて、毎度ながら前置きが長くなってしまいましたが、今回のお客様(マダムな感じの女性)は、Ⅱで戸惑ってしまった方でした。どう戸惑ったか。そのお客様からの最初の質問はこういうものでした。










お客様「あのね、文章の改行をしようとして入り口の扉を押してみたんだけど、直らないのよ」

















(;´ロ`)















(;´ロ`)!?













まず最初の質問がこれでした。中には既にお分かりになった方もいらっしゃるかもしれませんが、この方はパソコン用語を極力日本語に直して覚えている方だったのです。入り口というのはエンターキーのことで、扉というのは何故かボタンのことらしい。モニターは画面、マウスはねずみ、ウィンドウのことを額縁、キーボードは全て扉と呼んでいて、ここまではまぁ普通といえば普通なんですが、クリックを「ねずみをぽん」、ダブルクリックを「ねずみを連打」と呼ぶあたりからちょっと可笑しくなってきてしまいました。だって、





chiki「それでは、ここでダブルクリックをしてください」





とお願いすると、





お客様「ねずみね? ねずみを二回連打すればいいのね? ね?」






と返されるわけです。それに真面目に「そのとおりです」と答えるわけですよ。こういう小さなおかしみの蓄積にchikiは弱いため、段々口元が緩んできてしまいながら対応していました。いけないいけない、我慢我慢、と自分に言い聞かせながら。そうこうしているうちに、今度は右クリックを「右ねずみ」と呼んでいるという衝撃の事実が発覚するわけです。ある意味拷問ですよこれは。だがしかし、本当の拷問はここからでした。








スペースバーを押して、空白をあけてもらうようにお願いしたところ…



























「分かったわ。宇宙の扉を押して開けばいいのね。やってみるわ」























と返ってくるわけです。もうね、限界です。宇宙って。宇宙の扉を開けるって。一体どこのSFアニメですかそれは。どこのヒロインの台詞ですかそれは。そろそろ限界が訪れそうです。しかし、そんなこんなでなんとか堪えて対応していたchikiの耳にさらに衝撃の事実が飛び込んできたのでした。お客様はなんと、「分かりやすくするため」という理由で、それらの呼び名をキーボードに修正液で直接書いているとおっしゃる。













今日のサポセントリビア





この世には、スペースバーに修正液で「宇宙」と書かれたシュールなパソコンを使っているマダムがいる。




62へぇ。

















ええ、無理でした。大急ぎで電話をミュート(向こうの声は聞こえるが、こちらの声は聞こえない)にし、大爆笑してしまいました。お客様、申し訳ありません。お客様は何も悪くありませんし、馬鹿にするつもりも一切ありません。しかし、どうぞ笑うことをお許しください。宇宙の重みには耐え切れなかったのです。ブフォッ!!