また上杉隆氏が(以下略

またまた、上杉隆氏の番組で誤情報を流された。今回はその拡散に、ロンドンブーツ1号2号の田村淳氏も加担している。番組では、次のような言及があった。

川島ノリコ:オプエドの中でも色々な意見があってっていう。
上杉隆:それがまた健全なんですけれど。番組内で意見が分かれて。
田村淳:そうですね。色んな意見があっていいわけですから。俺と反対の意見なんだからって、嫌いになったりしないですもん。普通の人って反対意見が一つあったら友達じゃなくなるみたいな感覚を持っているでしょ。
川島:小学生みたいな感じですよね。いま、中でも「いじめみたいだね」というつぶやきがいくつかあったんですけど。
上杉:普通の人よりも、もっと酷いのは日本のメディアの人なんですよ。僕と意見が違う人いっぱいいるんですけど、意見が違う度にどんどんどんどん敵が増えていくんです。でも、違うのは当たり前じゃないですか。だから、ぼくは人格攻撃してないのに、僕と意見が違うと「あいつはダメだ」「あいつは敵だ」となるんですよ。それがね、ジャーナリストの先輩に限って、全員そうなっていくんですよ。
田村:へえー
上杉:すごいなぁと思って。
田村:俺の中で違う意見を持っている人があらわれたら、「えっ、何でそういう風に思うの」って知りたくなっちゃう。
川島:そうですよね。いろいろ話していると、「あっ、そうか、そういう風に思うから、感じるのは、じゃああなたの意見ですよね」って。
田村:話し合うと意見が変わることもあるんですよ。当然、人間だから。その場合、意見を変えた時に、「お前は考えがブレている」と言われるんですよ。
上杉:はははは(笑)。
田村:そんなことないですよ。だって、はじめての意見に触れて、自分の考えが変わることなんて生きていて楽しいことじゃないかと思って。
上杉:本当にそう。
田村:それを、否定する材料を見つけるのが上手い人は、どんな角度からでも否定してくるんで。だから、俺が一番やりたいのは、俺の事、誹謗中傷してる人と直接会って話したい。どこまで理解し合える仲になるか俺は試したいですよ。
川島:その方たちが出てきてくれるかどうかですよね。
田村:でもね、目の前には来ないと思うから、電話番号を出したこともあるんですけど、かかってこないですよね。
上杉:来ないですよ。だって、僕も色々な批判をしているけれど、そういう意味では堂々と話し合いたいわけですよ。だから、池上さんにも4か月くらいやっているけど来ないと。これ、ジャーナリストの人がそうなんですよ。津田大介さんもそうだし、江川紹子さんもそうだし、荻上チキさんもそうだし。異論があるから、戦ったから、違う意見の方が面白いわけじゃないですか。でも、依頼すると、全部拒否。でも裏ではツイッターでは悪口言っているわけですよ。
田村:ははは(笑)。
上杉:だったら、話し合って、こっちが行くんだからと。来てもいいし、行ってもいいし、どういうやり方でもいいから、と言っても駄目なんですよ。
田村:会った方がプラスしかないですけどね。違う意見なんだということを確認し合うこともプラスだから。
上杉:意見の違いで論争するほど面白いことはないじゃないですか。だってタダですよ。自分と違う意見というのは批判とか異論ってのは、自分にとっての情報だから、自分を成長させるのに。同じ意見の人だけ固まったって成長止まっちゃうじゃないですか。
池上彰氏Dis、上杉氏新刊宣伝などあって)
川島:あともう一つですね、ずっとあった問題と言いますか、オプエドにもたくさんツイートが……淳さん少しだけ大丈夫ですか。上杉さんのことなんですけど。
田村:はい。
川島:「荻上チキさんについて上杉さんから取材申し込み自体無かったと本人がおっしゃっていましたが。」
上杉:うええええええええ?
川島:こういうつぶやきがですね、今は松本さんという方なんですけれども。その他の方も……
上杉:チキさんに今つぶやけばいいんじゃないんですか。
川島:はい。荻上チキさんに対しての問題が沢山呟かれて。
上杉:取材申し込みしましたよね。
川島:でも、荻上さんは「来てない」と。ネットで言っている。
田村:駄目ですよ。ネットで返しちゃ駄目ですよ。
上杉:駄目ですよね。
田村:直接お話しましょうよ。
上杉:自分で、事務所もちゃんと言っているんで、ぜひ。こういうね、嘘をついちゃだめだよ。やっぱり。
川島:そうですね。
上杉:それは無いでしょ。

川島:でも、それを信じていらっしゃる視聴者の方は……。それも私にも来るんですよ。
田村:へえー
川島:上杉さんはそういう風に言っているけど……
田村:ぼくはチキさんと一緒に番組をやったことがあるんですけど、まあ明快な解説してくれますよ。だから、そんな二人が相まみえたらどういう風になるのか、俺は見たい。
上杉:朝生で一緒に何回か出たことあるんだけど。
川島:だからきっと、間に入っている人たちが色々こう。
上杉:そうそう。あと、本人も確認していないでそんなことを言う。ぼくは荻上チキさんが朝生に出れなかった時の取材っていうのは、ウチのスクープを基に、テレビ朝日がなぜそういう風にやったかという。テレビ朝日は自主規制の取材をしたんですよ。田原さんとか5人くらい。テレビ朝日の取材だから、荻上チキさん関係ないわけですよ。「テレビ朝日が自主規制した」という取材をしてそれを書いたわけです。で、そこにいくらね、取材していないと言ってもそれは関係ないわけですから。だって小島慶子さんだってそうだし、していないです、それは。だってテレビ朝日側の取材だから。それを基に言っていると思ったら、それは荻上さんの勘違いだし、その後そういう勘違いが無いようにと。ということで出演依頼を含めてしているのには対しては、出演依頼をして、30秒くらいでしたっけ、30秒くらい? で……
田村:オプエドにチキさん来てもいいんですよね。
上杉:もちろんです。もちろん。もちろん。こっちも出てもいいんですよ。TBSとか。
田村:お互いに行きあうのが一番良いですよね。
上杉:それを断って来たんですから。出ないと。
田村:へえー
上杉:だから議論をしないと、話はつかないし、少なくとも他の業種と違って、ずっと言っているんですけど、ジャーナリストとか評論家は口で糊しているわけですから。これで商売しているわけですから。ここは、きちんと下げちゃだめだと思うんですよ。
田村:そうですね。チキさんぜひ、上杉さんそんな悪い人じゃないんで。ぜひ。
上杉:ぜひ。TBSでも、いつでも良いので。シノドスもなんでもOKと。オプエドももちろんOK。
田村:それでまた、オプエドが面白くなるし。
上杉:全然OK。
川島:そうすると、それを今まで問題というか、気にしていた視聴者の方も、スッキリするかもしれないですからね。
上杉:本当に、そういう様な、周りのね、噂だけでどんどんどん論が立っていく。
川島:そうですね。
田村:本当ですね。
上杉:デマもそうだけどね。僕がなんでデマと言われているのか、最初からもどって皆さんきちんと調べてください。


相変わらずのようで、以下、例によって箇条書き。


・まず、上で読まれたツイートはこちら

・川島ノリコ氏が読み上げたこのツイートはそもそも間違い。正解は「朝生の件では上杉氏からの取材は受けていない」「デマを流されたことをブログで指摘したら、唐突に出演依頼が来たが断った」であり、このツイートはこの両者の時系列を混同している。それをそのまま紹介する川島氏も問題である。
・上杉氏の「取材申し込みしましたよね」というのも間違い。「出演依頼」には「取材」の件は一切触れていない。メールには単に、「新しいメディアのありかたについて」というテーマで当番組に出演してくれ、という内容だった。
・そもそも、こうしたツイートでの伝聞を元に、他人に対して「嘘をついちゃだめだよ」などと評価するような人の取材を受けても、良質な記事になるとは思えない。
・上杉氏は、「テレビ朝日側の取材だから」僕には取材する必要はなかったという理屈を述べている。それならやはり、「取材依頼」は出していないということになるのだが。
・ちなみに、この上杉氏の理屈については首をかしげる。テレビ局と出演者の間にトラブルがあった今回、それぞれの言い分や経緯を確認するために、双方に取材しようとするのは普通だろう。実際、多くの記者が、テレビ朝日にも僕にも取材を申し込んできた。しかし、上杉氏はテレビ局側の取材だけで十分と考えたようだ。
・僕の主張に関しては確認をしないでいいと言いつつ、上杉氏は前回の番組中で、僕のことを「えー本人がなんか一生懸命、自分に圧力がかかったと言っていますが、全然違います」「取材しないで、思い付きをツイッターなどに書いていたのが荻上チキさんということで」と、デマと共に嘲笑した。僕の対応について調べもせずデマを流したわけだが、今回の動画ではそのことを誤魔化している。詳しくはこちら→ http://d.hatena.ne.jp/seijotcp/20141202/p1
・今回の番組でも、「それは荻上さんの勘違いだし、その後そういう勘違いが無いように」と言っているため、上杉氏の認識は今でも変わっていない。取材どころか、ツイートさえ読めば確認できる事実すら確認できていない。
・というか、「ジャーナリスト」なのであれば、文章でレスしてもいいはずなわけだが、やたらと有料番組に出ろ出ろ言うのは、自己宣伝にしか見えない。
・上杉氏が「デマと言われている」理由は単純で、上杉氏がデマを流したからである。



最後に、田村淳さんへ。
僕は芸人としての淳さんを尊敬しています。しかし、いまあなたが加担しているのは、炎上ビジネスです。
デマを流し、嘲笑した人がいて、その人が「反論あれば番組に出ろ」と言っている。そんな状況であなたは、事情もよくわからないまま、「面白いから」「見たい」という理由で出演を促す。実に無責任な行為だと思いますし、淳さんの信頼も損なう行為だと思います。
当然、僕がその番組に出演しても何の得にもなりません。自分の関わるメディアに彼を呼ぶことについても、僕は損しかしません。見ている人への説明であれば、このブログで書いたほうがあの番組より多くの人に届きますから、これで十分です。
あと、当たり前のことを。「悪い人じゃない」ことは、仕事の良質さを保障しません。念のため。これからも何かと気を付けてください。


(2015年最初のエントリがこれでいいのかという気もするが、更新が少ないとこうなるのだ)



【関連】
朝生の一件で、上杉隆氏にデマを流された事案まとめ
http://d.hatena.ne.jp/seijotcp/20141202/p1


また、上杉隆氏のネット番組で誤情報を流された事案について
http://d.hatena.ne.jp/seijotcp/20141223/p1


「裏をとっている」とは何か
http://d.hatena.ne.jp/seijotcp/20120323/p1

また、上杉隆氏のネット番組で誤情報を流された事案について

上杉隆のネット番組で先々週、また僕について言及していた模様。今回も誤情報が多く含まれているようなのでまとめとく。番組内での僕についての言及は以下の通り。

上杉隆「先週、出演された小沢一郎さんも、被曝についてはっきり言ってましたね。小児甲状腺がんが出て――これ私の言葉じゃないですよ。小沢さんの言葉が、小児甲状腺がんが奇形児も産まれていると。こんなことを放置しているのはおかしいから、きちんとした選挙の時の、いわゆるアジェンダに、つまり政策の中に入れるべきじゃないかと、福島のことをと、そういうこといったら小沢さん叩かれてますね今」
鈴木博喜「そうなんですよ」
上杉「どっかのラジオ局。ま、TBSでしょうけれど。出て叩かれたり」
鈴木「叩かれてましたねぇ」
上杉「なんで、なんで、僕あの聞いてないんですけど、聞いてたんですか」
鈴木「あのー、この間……これ言っていいんですか全部?」
上杉「全然かまいません。これタブーあるのタブーあるのこれ?」
西谷祐紀子「ふふ、全然ありません」
鈴木「荻上チキさんのラジオに生出演されて」
上杉「あれ、なんて?なんて?なんて人ですか?」
鈴木「あれ聞こえなかったですか?お・ぎ・う・え・ち・き・さんです」
上杉「はあ、おぎうえちきさん、おぎうえちきさん…」
鈴木「生出演されてて、今と同じようなことを小沢さんはおっしゃっていたわけです」
上杉「言っちゃったわけ、ですか」
鈴木「それに対して、荻上チキさんは、『小沢さんそれは何を根拠に言ってるんですか。科学的根拠を出してください』と」
上杉「あれ、荻上さんは科学的根拠を持ってるんですか」
鈴木「いやいや、ないという根拠は持ってるんじゃないですか。要は、被曝の問題はないんだ、存在しないんだという根拠はあるんじゃないですかね。提示はしていなかったですけど」
上杉「へえーすごいなぁ。さすがですねぇ」
鈴木「で、TBSの記者も、似たようなことを言っていましたね。もう福島には、中通りには、被曝の問題はもう解決しているんだと、言ってましたね」
上杉「解決したんですね」
鈴木「解決しているらしいです」
上杉「それが日本の言論空間を狭めることって分からないんですかね。要はいろんな意見を言うと。そういう風に意見があってもいいんですよ、もちろん。荻上さん。だけど相手の意見をふさいで、私は正しいと言うことをずっとこの4年間繰り返されているわけですね、TBSから。TBSの出演者多いですけれど。ほんとに。で、そういうようなことが、言論の自由度、多様性を狭めて、そして、これ極端な事を言うようですれど、こういう特定秘密保護法とかに対しての政府への対策、要するに対抗もできなくなっていくんですよ。自分の首を絞めてるんで。で、だんだんとういう風にいって、自由な言論がなくなってると」
鈴木「僕がびっくりしたのは、要は、まあ、お父さんお母さんたちはやっぱり、不安があるから声を上げてくわけですね。その不安に立っちゃいけないって言うんですよ」
上杉「え」
鈴木「不安が前面に立っちゃいけないらしいです。」
上杉「なんで」
鈴木「先に進まないから」
西谷「不安になるなってことですか」
鈴木「そう、不安だけを強調しちゃいけないらしいです。荻上チキさんに言わせると」
上杉「あの、たとえば政府とか行政はこれずっと言ってますけど、そういう風に言うのは僕はいいと思うんですよ。あの、それは。そういう風に言う人もいるから。ただ問題はジャーナリズムが、そのね、政府の側に寄る必要はないわけですよね。不安が存在するんだったらそれを出してあげるし、そうじゃないひとも出してあげると、いうことをやらなくてはいけないのに。ジャーナリズムじゃないと言えばそれまでなんですけど。それを事前に手前からね遮断するのはよくない。不安ありますよね?」
鈴木「びっくりしましたよ。不安だらけだと思いますよ。もちろん、不安なんて抱いていないという人だって当然いますけど」
上杉「もちろんいます」
鈴木「それと同じくらい不安に感じている人もいるわけですから。それに立っちゃいけないってなると、その、お父さんお母さんたちはどうなっちゃうんですかね」
上杉「僕も福島は最近ちょっと行ってませんけど、2012年には一番多く行った年ですけど、不安ってのは行けば聞かれますし、こっちも知ってることは言うと、わからないことはわかんないと伝えると。で『やっぱりそうですね』と。常に不安と向き合ってきたわけですから。
鈴木「そうですね」
上杉「だからこそ移住するか、保養に行くかとか、そうやって日々悩んでるわけですよ。それを、現地にもちゃんと行かずに、一刀に両断するってのはよくないなと」
鈴木「えっ、行ってるんじゃないですか?」
上杉「あ、行ってんですか?」
鈴木「いや、行ってるから言ってるんでしょうね多分」
上杉「ということで、荻上チキさんから、ノーボーダー、オプエドから出演依頼をしています」
西谷「ふふ、はい」
上杉「残念ながらお断りされてますけど、まだ、いくらでも、毎日月曜日から金曜日まで平日午後4時、だいたい」
西谷「4時から5時の間でしたら」
上杉「歓迎しておりますのでいつでもお越しください」
西谷「いつでも、ふふふ」
上杉「ということで、こっちはフェアに。必ず裏では言いませんから。すべてこういう風に名前を出している人には出演依頼をしています。荻上チキさんの他にも、津田大介さんや東浩紀さん、それから江川紹子さん、池上彰さん。名前を出しているひとは全部出しています」


この番組内容を観た人から「被曝がないって何で言えるの?」的なリプが来て発覚。ここで言及されている「どっかのラジオ局」は、TBSラジオの「Session-22」のこと。


http://www.tbsradio.jp/ss954/2014/12/20141209.html


内容は、各党の代表を番組に招き、1時間、質問をぶつけ続けるというもの。ここでは実際には、次のような議論になっていた。

荻上:被曝に関してはこんなメールも来ています。
南部:「テレビで政見放送見たら、小沢さんが福島の今後について、『チェルノブイリでは甲状腺がんや奇形が出ている。福島も甲状腺がんや奇形が問題になる』という趣旨の話をしていました。広島・長崎の被爆者の2世3世にそういう人が多いと言う話は聞いたことがありません。すでに福島では出ていて、隠されていると言うことなのでしょうか。」
小沢:福島では、事実上増えていると聞いています。
荻上:「事実上」。たとえばこの間検査をして、これからどうなるのかというテストの時、いろんな検査をした結果、もともと検査に引っかかったけれども、この影響だというところまでは、いま断定されていないというか、断定というか、そういった影響は否定されているという段階だと思うんですけれども。それの関係性はどうなんですか。
小沢:いや、あのー。いま言いましたように、放射能漏れのやつも、発表しないでいるんですよ。
崎山:大変、情報隠しがあることは、事実ですね。
小沢:こないだもどこかの新聞が一面で、また汚染水が大量に垂れ流しにされていると報じたでしょう。そのように隠しちゃっているんですよ、みんな。
崎山:その隠している場所と、実際に例えば子どもを産むお母さんたちのいる場所は全然離れていると思うんですけれども。実際には。
小沢:離れてるからいいんだっていう話では必ずしもなくて。
荻上:被曝の話は、体内とか、個人に対してどれだけ摂取されたのかというのがポイントになっていて、空間線量とまた別になっていますよね。そうなったときに、小沢さんが、かねがねからおっしゃっている、例えばチェルノブイリとか、被曝の影響がというのは、どういった所から得ている情報なんですか。
小沢:事実、事実、チェルノブイリの事は事実として出ていますよ。
荻上チェルノブイリチェルノブイリで。今回の影響について小沢さんはどういった情報から、いつもその、発言してるのかなという。
小沢:ん? 情報って? もう既にすでに出ていますよ。
崎山:たとえば、チェルノブイリでは、僕らも聞いているのは、甲状腺がんは間違い無く増えていると。日本は原時点で、福島で、甲状腺がんの人見つかっていますけれども、これは多分被曝の影響ではないだろうと。ゼロとは言い切れないかもしれないけれど、ほぼ全員ではない。これから出てくる可能性があるかもしれないから、だからちゃんと検査もしないといけないし、調査もしていかないといけないと。ただ、いわゆる「先天異常」の胎児の場合は、まず広島・長崎で、2世3世というのは基本的に変わりないというふうな結果も出ている。つい最近では厚生労働省の研究班でもですね、全員ではないですけれど福島の病院のデータから基本的に福島で普通の他の県よりも、先天異常の子どもが生まれているという現状は少なくともないと言う結果も出ていると、私は思ったんですが。だから、強い警戒の意味を込められと言われているんだったらまだわからなくもないんですが、それが「事実」かということとはまたちょっと。
小沢:厚生省の言っていることが「事実」だという証拠はありますか。
荻上:ん?そのデータがということですか。
小沢:そうそう。
荻上、もし仮にそうした子供がいたりとか、そうした影響があるのであれば、そうしたものがそのまま、統計データなり、その人の医療的なデータなりで証明していかないといけなくて。それはまだ出てきてないわけですよね?
小沢:だから、それは、すぐとかで現れるわけでは無いですから。
荻上:ええ。
小沢:長年月にわたって。
荻上:現状ですね、脱原発の議論をしたときに、被曝の影響を過大視して、「だから脱原発が必要なんだって」いう主張をする方もいるわけですね。でも、もしそうなった場合、仮に健康被害が出なかったら、今回大したことないんだ、みたいな形で、原発の議論が矮小化されてしまう可能性もあるんですね。
小沢:そのことだけ言ってるんじゃないんですよ。ぼくは。
荻上:もちろんもちろんもちろん。ただ、ここは気にする方が多くて。
小沢:最終的に高レベルの廃棄物をどうするんですかって。
荻上:当然。ただ、健康被害の話でも、小沢さんたちの党を入れるか入れないか、その論点で気にされている方も今回多いので、今日はその辺りもちょっと聞いてみたんですけれども。
小沢:ですから、今さっきも言ったように、放射能の今の、あの、福島の垂れ流しについても、じゃあ東電言ってますか、政府も言ってますか、って言ってるんですよ。それを、一部のマスコミがすっぱ抜いて自分で測量して、実は大量の垂れ流しがある、ということでしょ。そうすると、東電や政府の言ってるちゅうことは、全部隠しているということじゃない。
崎山:それは、そうだったと思いますけど。あの件は。
小沢:いやいま、あの件、って言っても、それがずっと続いているわけですよ。
崎山:ですけど、そこから80キロくらい離れた福島市で、事故の直後に、ある種の被曝をした人たちが、どれくらいの影響を受けているかというのは、ほぼいま結論がもう出ていると思うんですよ。3歳や4歳になっているから。
荻上:東電が隠せる話と、例えばホールボディカウンターなどで民間が調査をして、体内の状況などを確認している状況というのは、これはまあ、ひとくくりには出来ない議論ですよね。これからもし問題が出てくれば、ぼくはそれは大問題だと思うので、そうしたことは丁寧にやるべきだと思うんですけれども、やはり、根拠をしっかりと示していかないと、「不安だ不安だ」ってところばかりが強調されてしまうんじゃないかと。
小沢:放射能を封じ込める対策をやんなきゃっな、ちゅういう意味で言っているんですよ。
荻上:それは、大賛成ですね。
小沢:それは、徹底して、何十兆使おうがやらなきゃダメなんですよ。
崎山:ただ、福島の方から見ると、奇形の話とかをされると、「私たちはひどい目に合わなきゃ、世の中、脱原発が進まないのか」と。要するに、私たちのところに奇形が生まれていないという状況があっちゃいけないのかと、いう風に言う方もいらっしゃいます。
小沢:そういう恐れもあるということですから。それで、海外のあるお医者さんが来たんですよ。オーストラリアの。
崎山:カルディコットさんですか。
小沢:女性の。その人なんかものすごい心配してましたよ。
崎山:心配することは大事だと思います。
小沢:じゃあ、何でお前の話を証明するんだ、というけれども、実際にチェルノブイリは実際にそういう後遺症に悩んでいるんですから、それから類推する意外ないでしょ。「という可能性もある」ということだと。
武田:私は今まで何回か話したことありますけど、小沢さん変なところで変なこと知っているといったら悪いですが、ものすごい情報網があって。ただ、90年代のブレーンの人だって、いまだに自分が小沢さんと当時仲良くやってたと言わない人もいますしね。中国の話だってそうです。なんでこの人こんなことを知っているのかな、ということを時々知っていますから、非常に重要なんだけれども、私はそれと、また大きな話ばかり聞いて申し訳ないのですが――。
荻上:最後に一個だけ確認していいですか?つまり、「すでにそういった実例はある」というのが小沢さんの認識、というのは間違いないですか?
小沢:甲状腺がんが増えているというのは聞いています。
荻上:奇形に関しては?
小沢:いえ、それは分かりません。
荻上:それは分からない。あると不安だなと?
小沢:実証してません。
荻上:なるほど、分かりました。
崎山:さきほどのオーストラリアの医師も心配しているのは、心配してくれているわけであって。
小沢:ぼくも心配している。
崎山:現実に起きている事実ということではないですよね。
小沢:チェルノブイリでは起きていますよ。
崎山:でも、福島の事実ではないということですよね。
小沢:そうそうそう。それは、心配してるちゅうことですよ。
荻上:分かりました。意図が分かりました。


以下、ポイントまとめ。


・ここでのやりとりはそもそも、メールでの質問をきっかけに、「将来への危惧として言っているのか。それとも既にある事実として言っているのか」を尋ねたもの。
・質問に対し、小沢氏は特に根拠を明言をせず、厚労省や東電のデータがあやしいとのみ主張した。
・「被曝の問題はないんだ、存在しないんだという根拠はあるんじゃないですかね」→被曝そのものがないと主張しているかのように要約しているが、ここでの議論は甲状腺がんと先天異常が「既に」あるのか否かというものに限定されている。
・「TBSの記者も被曝の問題はもう解決しているんだと言っている」→言っていない。実際に論じているのは、先天異常のケースは出ていないということ。最終的には、小沢氏もそれを認めている。
・「不安が前面に立っちゃいけないらしいです」→言っていない。心配するのは大事だとしたうえで、小沢氏がどういう情報を元に主張したのかと尋ねている。また、一般の人が不安に思うのと、候補者が政見放送でアピールするのとでは話が別であるはずなのに、それがなぜか混同されている。
・「不安の声を事前に遮断するのはよくない」→野党の党首である小沢氏を招いたうえで、その主張内容についてオープンに尋ねているにも関わらず、なぜ「不安の声を事前に遮断」になるのかがわからない。
・「それが日本の言論空間を狭めることって分からないんですかね」→立候補した政党の代表が政見放送で訴えた内容について、ソースを尋ねることは当然のことであり、まして「言論空間を狭める」ことにはならない。もし仮に上杉氏が、好き放題に流言を広める自由とかまで「言論空間」に入れているのであれば、僕の考える「言論空間」はそれより狭くはなるだろう。
・「フェアに出演依頼を出している」→誤った情報を拡散したうえで、そのことを謝罪することもないままに、「反論する機会をやるから番組に出ろ」というマッチポンプを繰り返すことを、通常は「フェア」と呼ばない。
・ちなみに、依頼はすでにスタッフが断ってくれている。



以上なり。


【関連】
朝生の一件で、上杉隆氏にデマを流された事案まとめ
http://d.hatena.ne.jp/seijotcp/20141202/p1

「裏をとっている」とは何か
http://d.hatena.ne.jp/seijotcp/20120323/p1

朝生の一件で、上杉隆氏にデマを流された事案まとめ

こちらにトゥギャラれている件について手短に。


朝ナマ出演中止問題で上杉隆さん「荻上チキさんが一生懸命自分に圧力がかかったと言ってますが全然違います」
http://togetter.com/li/752544


上杉隆氏は動画内で、以下のように発言している。

上杉隆「取材しました。田原総一朗さん、司会やってますから、すぐ言ったら、第一声が、『あ、あれね。自主規制』」。
川島ノリコ「うっふっふ」
上杉「でほら、朝生終わった直後で、激論クロスファイア録った後だったんで、田原さん相当眠そうだったんです」
川島「うふふ」
上杉「気にせず電話鳴り…かけまくってたら」
川島「ええ、とってくださいました?」
上杉「かかってきて」
川島「はい」
上杉「『あれ上杉さんあれ、自主規制だから』。えー、いうことで、あまりにも眠そうだったので」
川島「ふふっ」
上杉「そこだけを聞いて、いきましたが、ほか、テレビ朝日の番組、の関係者などにずっと取材しました。言ってることはそれぞれ違うんですが、えー総合してその後も取材を重ねてみると、自主規制というラインがあっていますね」
川島「ふーん」
上杉「えー、自民党の圧力以前の問題です。それからまた、荻上チキさん、小島慶子さん。小島慶子さん何も発信していませんが、小島慶子さん、実際、先月も出る予定だったんですよ。ところがちょうどたまたま今オーストラリアに住んでいるから、日程が合わなくて今月になったというだけで、小島慶子さんに関しては、特になにかあるわけではないと。じゃあ荻上チキさんかというと、彼も関係ありませんでした。えー本人がなんか一生懸命、自分に圧力がかかったと言っていますが、全然違います
川島「あーそうなんですか」
上杉「単純に、あの、報道局と、選対本部、それから番組制作側の、連絡ミス」
川島「ふーん」
上杉「えー、以上。もちろん自主規制はありますよ。報道局とか選対の方に。要するに『政治家だけのほうがいいんじゃないか』と」
川島「ふーん」
上杉「という話と、いや、二人くらいは評論家がいいんじゃないかと。僕も出てますけど、だいたい二人くらい評論家おくんですよ。いつも」
川島「はい」
上杉「そういう並びでいいんじゃないかと、いうパターンだったんですけど、今回は、特に、自民党も、どの党も何も言わずに、勝手にテレビ朝日のほうが、評論家だけは外したほうがいいんじゃないかと言って決まったことなんで、政治圧力はありません。自主規制です」
川島「はい」
上杉「さらに荻上チキさんは、自民党のね、特に政府の審議会の委員やってるんで、はっきり言って安パイです」
川島「ふふっ」
上杉「これはもう言ってました、テレ朝も」
川島「ああ、そうですか」
上杉「ええ。上杉だったら来る可能性はあるけど、荻上チキさんだったら来ませんと。そんな圧力は。安パイの人にねだって、自民党側の政府委員やっている人間に、あいつは出すなって言うわけないじゃないですか、政治が」
川島「確かに」
上杉「単純に、勘違いですね」
川島「あー」
上杉「こういう風にね、取材すると、色々わかってくるんですよ」
川島「そうですね。知らないと、なんかそうなのかなって勝手に思ってしまいますけど」
上杉「でこれね、まったくテレビ出る人もねえ、そうだけど、まったく取材しないなあと思って」
川島「ええ」
上杉「で、テレビ朝日にね。関係者にバンバン取材しまくったら、『な、な、なんでそんなに取材するの?』って。取材するのは当たり前でしょう」
川島「普通な気がしますけどねー」
上杉「分かんなかったら」
川島「はい」
上杉「で、取材しないで、思い付きをツイッターなどに書いていたのが荻上チキさんということで
川島「ふふふ。そうです」
上杉「これは、残念ながら、政治圧力ではありませんでした。えー、テレビ朝日内部の、単なる自主規制と連絡ミスによるものだということで、どうでもいいニュースでしたー」
川島「ふっふっふ」


以下、箇条書きで。


・上杉氏の説明は、僕が朝生スタッフから伝えられたものと大きく変わらないものであり、個人的に新しい情報はない。
※ちなみに、今のところの「テレ朝関係者」の説明だけでは、なぜ今回「自粛」を強めたのかが語りきれていないという点は残る
・「本人がなんか一生懸命、自分に圧力がかかったと言っています」とあるが、僕は「自分に圧力がかかった」などとは言っていない。
・「取材しないで、思い付きをツイッターなどに書いていたのが荻上チキさん」とあるが、ツイートした内容は、朝生スタッフに一字一句確認し、その文言を「こういう説明を受けた」とツイートしていいという了承を得たもの。「思い付き」ではない。
・なお、いつも何かあるたびに「自分にあててない、取材がきていない」と騒ぐ上杉氏から、僕への取材は一切ない。
※もちろん、これから取材依頼が来ても断る
・そもそも取材以前に、ツイートすらまともに読めていない*1
・僕が言ってるのは「討論番組の形式を縛らないでほしい」ということであり、「自粛」だから「どうでもいいニュース」という話ではもちろんない。


あと別件で


・「上杉だったら(圧力)来る可能性はあるけど」とわざわざ入れるのイタい。

*1:追記。ノーボーダー編集部が僕のツイートを読んでいることは、こちらの記事で確認できる。

東日本大震災時に産経新聞が拡散した政治流言の再検証

前回のエントリ「東日本大震災時に拡散された『辻元清美が阪神淡路大震災時に反政府ビラを配っていた』という流言について」では、発災後に広く拡散されていた流言のうちの一つを検証してみた。既にご承知の方も多いようにこの流言は、産経新聞の阿比留瑠比記者が「辻元氏は平成7年の阪神淡路大震災の際、被災地で反政府ビラをまいた」と記事化し、辻元清美氏に訴えられた。裁判では、産経新聞・阿比留記者側の主張は認められず、慰謝料の支払いが命じられている。


判決文等資料を入手したので、この件もついでにまとめておこうと思う。


裁判において産経新聞・阿比留記者側は、「菅直人批判がメインであって辻元批判が主眼ではない」「批評の自由」という主張を行っていた。また流言の内容については、産経新聞・阿比留記者側は、辻元氏を含むピースボートのメンバーが「自衛隊違憲です。自衛隊から食料を受け取らないで下さい」と主張しながらビラを配布していたとし、それを「反政府ビラをまいたと短く表現した」のであり、「当時広く知られており、真実」「少なくとも主要な点において、事実に基づいた記事」だと主張した。但し、これらについての確かな根拠は提示されておらず、松島悠佐氏や産経新聞記者からの伝聞で知ったとしている。


これに対し辻元氏側からは、「デイリーニーズ」を証拠提出したうえでの内容説明のほか、自衛隊が長田区で給食支援をしていた1月23日から31日までの間にはそもそも辻元氏は現地におらず、東京で後方支援を行っていたこと、そして「デイリーニーズ」は自衛隊提供の入浴支援の情報を掲載するなどしており、その自衛隊の救援活動を妨げるような言動をとるのはあり得ないことが反論として述べられている。


こうした主張に対して、裁判所は次のように判断した。

  • 記事の記載は、災害ボランティア担当の首相補佐官としての原告の社会的評価を低下させるものであったことが認められる。
  • 原告についての記述が少なかったとしても、本件各記事によって原告の社会的評価が低下したというべき。
  • 松島氏の陳述書を出しているが、その松島氏も阿比留氏も、ビラを配布している様子を直接見たり、聞いたりしているわけではないし、この主張を客観的に基礎付ける証拠は存しないため、直ちに採用できない。
  • 「デイリーニーズ」は炊き出しの場所や時間、安否情報及び医療情報等の被災地の日常の情報が記載された情報誌。一部に被告指摘の記述があったことをもって反政府ビラを撒いたと認めることはできない。


つまり裁判所の判断もまた、前回エントリと同じく、「デイリーニーズは<反政府ビラ>とは言えない」としていることがわかる。



ところで裁判では、こうした「反政府ビラを配っていた」という流言に加えて、阿比留氏が書いた「カンボジアでの自衛隊活動を視察した際に、辻元清美自衛官に対し『あんた! そこ(胸ポケット)にコンドーム持っているでしょう』という言葉をぶつけた」という文言についても争われた。「産経新聞」2011年3月21日の記載は次のようなもの。

カメラマンの宮嶋茂樹氏の著書によると、辻元氏は平成4年にピースボートの仲間を率いてカンボジアでの自衛隊活動を視察し、復興活動でへとへとになっている自衛官にこんな言葉をぶつけたという。
『あんた! そこ(胸ポケット)にコンドーム持っているでしょう』
辻元氏は自身のブログに『軍隊という組織がいかに人道支援に適していないか』とも記している。こんな人物がボランティア部隊の指揮を執るとは。被災地で命がけで活動している自衛隊員は一体どんな思いで受け止めているだろうか。


記事にもあるように、このエピソードの出典元としては、宮嶋茂樹氏の著書があげられている。その著書は、1993年に刊行された『ああ、堂々の自衛隊』のことだ。その元の文章を確認すると、元となる発言は辻元氏のものとされておらず、「ピース・ボートの方々の質問」とされていることが分かる。

引き続き、駐車場で、ピース・ボートのメンバーと隊員との対話集会が開かれた。なんだか、その内容はオフレコとのことで、辻元さんはピリピリしていたが、結局この時のピース・ボートの方々の質問は産経新聞が書いてしまったので、私も記念に書いておこう。
従軍慰安婦を派遣するというウワサがあるが」
どうして私のひそかな計画が露顕してしまったのであろう。
「隊内でコンドームを配っているとか。(相手の隊員を指差して)あなたのポケットにもあるんでしょう」
いつもコンドームを持ち歩く軍隊も珍しいと思う。ちなみに、湾岸戦争のときは米軍は銃に砂が入るのを防ぐためにコンドームを使った。自衛隊もそれを応用せよというスルドク軍事的な質問か。ありがたいことである。


さらに、宮嶋氏の文庫版解説には、次のように記されている。

四年の歳月はもっと恐るべき変化を人々の身の上に与えているのである。
まず、辻元清美のボケ、もとい、先生である。ピースボートを率いてタケオ基地をウロウロしていた彼女が国会議員になると聞いた時には、私は思わず北朝鮮への亡命を考えたものであった。次のPKOが決まった時の国会論戦が実に楽しみである。やはり、「コンドームは持っていくのか」とおたずねになるのであろう。それに防衛庁長官が答弁するのであろう。帝国議会以来の議事録に、それが残るのであろう。後世の笑い物である。


産経新聞・阿比留記者側は裁判時、この文章をもって、元の発言は辻元氏がしたものであると主張している。但し、こうして読み比べると、元の宮嶋氏の文章にあった「(相手の隊員を指差して)あなたのポケットにもあるんでしょう」という記述が、阿比留記者によって「あんた! そこ(胸ポケット)にコンドーム持っているでしょう」と、より強い口調に書き換えられていることもわかる。


ここで宮嶋氏が「産経新聞が書いてしまった」と記している点が気になり調べてみると、1993年1月25日の産経新聞東京朝刊に、「ピースボートVs派遣自衛官 かみ合わぬPKO論議」という記事が掲載されていることが確認できる。

カンボジア・タケオの「日本施設大隊」には相変わらず各界各層からのお客が引きも切らないが、先ごろは「ピースボート」のメンバー約七十人が宿営地、採石場、作業現場などを見学した。
ピースボートは、大型客船で一般から応募した若者がアジア各国を回り、戦争と平和を考えるという市民運動。船には大学教授、作家、ジャーナリストなどが”水先案内人”として同乗することになっている。過去には小田実氏、筑紫哲也氏、今回は前田哲男氏が同行した。
以下はその時のメンバー自衛官との主なやりとりである。(中略)
メンバー 従軍慰安婦を派遣しようという人がいますが、どう思いますか。
自衛官 それこそ、小さな親切、大きなお世話ーという感じです。 
メンバー コンドームは配られましたか。
自衛官 まだいただいておりません。
メンバー いろんな人がタケオに来るのを、隊員は嫌がっていませんか。
自衛官 全部はわかりませんが、私は嫌です。こうして皆さんに説明しているのも、大変苦痛です(笑い)。ただし、実際に現場を見てもらい、理解してもらうことは重要ですし、ほとんどの隊員がそのことを理解していると思います。  
さて、みなさん、どちらに軍配を上げますか。(編集委員 牛場昭彦)


こうしてみると、産経新聞記事と宮嶋氏の書籍とでも、やりとりのトーンが少し異なっている。いずれにせよ、ここでも辻元氏の発言であるとは確認できない。


ところで宮嶋氏の著作には、先ほど引用した部分の前後部分に、次のような記述がある。

従軍慰安婦、来たる!?
部隊が最強の「敵」の来襲を受けたのは、暮れも押し詰まったころであった。大隊の情報網は、すでに敵の接近を察知していたとみえ、営内には様々な噂が飛び交った。噂は当初「ピチピチの若い女が来るらしい」という形態をとった。
とすれば『地獄の黙示録』に出てくる、プレイメイトの慰問のようなものであろうか。Tバックが何かでヘリから降り立ってくれれば、いい絵になる。おおいに期待した私であったが、やがて私のスルドイ情報網は、中隊によっては「その『敵』が来た時には、テントの外に出ないように」という指令が出たという話を補足した。
ピチピチの女、しかしテントの外に出るな。む、これこそ防衛庁が極秘裏に送り込む従軍慰安婦部隊ではないか。時まさに大晦日、そして正月。防衛庁もイキなお年玉を送るではないか。しかし、隊員でない私もその恩恵にあずかれるのだろうか。二週間をこえる禁欲は、長い私の人生の中でも初めてである。スカッド飛ぶイスラエルでも金髪を調達した私である。女の前にはUNTACレギュレーション何するものであろう。
私がさっそく交渉のために基地へ向かうと、太田三佐が緊張した顔で出かけるところであった。
「太田さん、どこへ?」
プノンペンへ人を迎えに行く」
やはり。例の部隊に違いない。
「太田さん、宮嶋を見くびっては困ります。情報は得ているんですよ」
 ハッ、とした表情で振り返る太田三佐。ワレ奇襲ニ成功セリ。あとは戦果拡大である。私は囁いた。
従軍慰安婦部隊でしょ?」
「宮嶋君」
 太田三佐は、腰に手を当てて仁王立ちになった。
「私に警務隊を呼ばせないでくれないか。君が隊員なら、鎖をつけて、明日来る人たちが帰るまで営倉に入れておくのだが。お願いだから、従軍慰安婦とかをその人たちの前で口走らないでくれたまえ」
 いつになく本気で真面目な三佐である。勇将・太田三佐をしてここまで真剣にさせるのはどういう人びとか。
「申し訳ありません。宮嶋、言葉が過ぎました。どういう方々が見えるか、差支えなければお洩らしください」
「愛国の花」――ピース・ボート来襲
「ピース・ボートの皆さんである」
電撃、五体を打つ。祖国に生を受け三一年。宮嶋、ついにその死地をみゆ。
天に二つの日は照らず。私にとって、件の方々は天敵であった。

「ピース・ボートの来襲はまだですか」
「なんでっか? そのピースなんとかって」
 私が詳しく説明しようとしたその時、ピース・ボート一行を乗せたバスが到着したのであった。
 ゾロゾロと一行はバスから降りる。私が予想したようには、毛沢東語録を持ったり、人民帽をかぶったり、資本論を背負ったりしている人はいないようであった。それどころか、若い綺麗なネーチャンもいるではないか。
 大和撫子を見ずして幾日ぞ。まさに輝く御代の山ざくら、地に咲き匂う国の花。
 わが愛唱歌「愛国の花」に教えられてきた私である。とりあえず、先入観は捨て、礼儀正しく接することにする。
 もっと近づいて驚いた。ネーチャンたちは化粧しているではないか。気温四〇度、あたりの山にはポルポト派がいるという全線で身嗜みを忘れないとは、さすがに大和撫子である。前線の兵士たちの気持ありちを和ましてくれようという心遣いなのであろう。ありがたいことである。
 さすがに自由を愛する方々である。一行はてんでんばらばらに行動され、まったく統制が取れていない。太田三佐が声を嗄らして説明しようとするが、その周りには人が寄り付かぬ。人だかりがしているのは、代表の辻元清美さんの周りである。
 無視されつつ頑張っていた太田三佐が、質疑応答を始めると、ようやく人びとが集まってきた。イスラエル兵に銃を突きつけられたガザ地区パレスチナ人のように、その目は敵意に輝いている。いまなおこんなに戦意旺盛な同法がいるのかと、私は感心する。

戦いがすんで日が暮れて。太田三佐は幽鬼のように憔悴し、一言私に呟くと、宿舎へと消えて行った。
「疲れた……」
 私はいつもの屋台に行き、隊員たちに今日の感想を聞いた。
「いや、ひさびさに綺麗な女性を見て、目の保養になりました」
「見るだけで手が出せなかったのは残念です」
 みんなはしゃいでいた。今夜、営内の天幕の中のベッドの上で、何十人もの隊員たちが、彼女たちの夢を見るであろう。ピース・ボートの皆さんは、まことに国家のために貢献してくださったのである。まこと、従軍慰安婦にも負けぬ、慰安をしてくれたのである。
 ああ、そのための頬紅。そのための口紅。この炎天下、辛かったであろう。厳しかったであろう。にもかかわらず、美しく装い、隊員たちを励ましてくれたのである。
 なんという美しい志であろうか。にもかかわらず、私は「天敵」などと思っていたのである。私は深い反省とともに、プノンペンの方角に頭を下げたのであった。


宮嶋氏の著作のこうした記述から、ピースボートへの対応は、終始「太田三佐」がしていたことが分かる。なおこの裁判では、産経新聞・阿比留記者側が、宮嶋氏の陳述書を提出している。宮嶋氏は陳述書において阿比留記者を擁護しているものの、コンドーム発言については太田氏から聞いたと述べており、宮嶋氏も誰の発言なのかを把握していないことが明らかになっている。


一方でこの裁判では、辻元清美事務所が太田氏本人に質問を送付し、返ってきた解答を証拠として提出しており、辻元氏側がその旨を陳述している。太田氏はその中で、「コンドーム」発言は辻元氏によるものではなく、別の人の発言であると回答している。阿比留記者が引用した宮嶋氏の書籍では、太田氏から聞いたことを書いたとあるが、その太田氏本人が辻元氏の発言であることを否定しているというのは、決定的なように思える。


なお、「コンドーム」に関する質問が出たことは、太田氏の回答からも確かであることが分かる。但し太田氏はその発言について、その場では「ジョークだと思われたのか少し笑いがで」ていたこと、太田氏が「どうしてご存じなのですか」と冗談を返したことでバスが笑いに包まれたと回答しており、やりとりのイメージがずいぶん違うようにも思える。


阿比留記者は2012年2月時点で太田氏に対して取材を行ったようで、太田氏はその際、阿比留記者にも「コンドーム」発言は辻元氏のものではないと答えたという。それが確かであれば、阿比留記者は「コンドーム」発言が辻元氏によるものではないと知ったうえで、裁判に臨んだことになる。というわけで下記は、「コンドーム」発言に関する裁判所の判断部分。

平成4年当時に自衛隊第1次カンボジア派遣部隊広報官として原告を含むピースボートの参加者のカンボジア訪問に応対した太田は、原告が当時上記発言をしていなかったと陳述していることから、本件著書の記載をもって、原告が上記発覚をしたとの事実は真実であると認めることはできない。

被告阿比留供述によれば、被告阿比留は、本件各記事を執筆するにあたり、原告、宮嶋及び太田に対して一切取材を行っていないことが認められ、上記のとおり、本件著書には原告が上記発言をしたと明確に記載しているとは認められないし、本件全証拠によっても、本件各記事に摘示された事実が真実であることを推認させる証拠はない。
この点、被告らは、本件各記事は政論であり、本件各記事を執筆するに当たり、原告への取材は必要ではないと主張するが、政治的な論評を中心とする欄に掲載された記事であるというだけで免責すべき根拠はないから、被告らの主張は採用できない。
したがって、被告らが本件各記撃で摘示された事実が真実であると信じたことにつき相当の理由はない。


このように裁判では、「反政府ビラ」部分に加えて、「コンドーム」発言部分に関しても、産経新聞・阿比留記者側の主張は退けられている。そのうえで裁判所は、次のように判決文を締めくくっている。

前記1及び2の判断によれば、被告阿比留の執筆した本件各記事を産経新聞に掲載して発行したことによって、原告の社会的評価は低下したと認められるから、被告らについて不法行為が成立する)
そして・被告会社が発行する産経新聞が全国で有載の全国紙であること(弁護の全趣旨)、前記1のとおり、本件各記事が災害ボランティア担当の首相補佐官としての原告の社会的評価を低下させるものであったこと、前記2のとおり、本件各記事が摘示した事実は真実であるとは認められないこと、原告等に対して一切取材を行わずに被告阿比留は本件各記事を執筆し、被告会社は本件各記事を産経新聞に掲載したことが認められる一方で、本件各記事は管元首相に対する批判を主な目的とし、本件各記事の全体のうち、菅元首相についての記事が大部分であり、原告についての記述はわずかであることが認められること、同記事が対象とする事実及び論評は市民の正当な関心事として広く議論されるべきもので、事実の公共性、目的の公益性が認められること、未曾春の災害である東日本大震災直後に、被災地復興の対応にあたる自衛隊との連携が不可欠な災害ボランティア担当の首相補佐官にどのような人物が任命されるのが適切であるかについて、様々な評価があり得ること、原告の陳述書(甲9及び11)によっても、本件各記事によって原告の災害ボランティア担当の首相補佐官としての業務に具体的に大きな影響があったかどうかが必ずしも明らかではないことなど、その他訴訟に現れた一切の事情を斟酌すると、上記被告らの不法行為によって、原告が被った精神的損害についての慰謝料は70万円、弁護士費用相当損害は10万円と認めるのが相当である.
また、上記認定事実によれば、本件各記事によって原告が被った損害を回復するためには金銭賠債のみで十分であり、産経新開に謝罪広告の掲載の必畏があるとまではいえない。したがって、原告の請求のうち、謝罪広告の掲載は理由がない。
4 よって、原告の被告らに対する請求は80万円及びこれに対する平成23年3月22日(最終の不法行為の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の限度で理由があり、原告のその余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。


災害時には、対応にあたる政治家に対する批判が多発するが、中には根拠のない流言も混じる。今回のケースは、多数が手に取る新聞がそれを拡散し、後に政治家によって訴えられ、事実でないと認められるという希少なケースになった。

【御嶽山噴火】「日本のマスコミは自衛隊の活躍する写真を(極力)報道しない」というメディア批判流言

御嶽山の噴火に関する報道を受けて、「日本のマスコミが自衛隊の活躍する写真を報じない」「海外の方が写真をちゃんと報じている」といった主張がtwitterの一部でみられた。まとめサイト「保守速報」が、「【御嶽山】日本のマスコミが極力報道しない、自衛隊やレスキュー隊の活躍を海外メディアが報道(魚拓)」というタイトルのエントリをアップしたことも大きく影響している。


この主張については、既に多くのTwitterユーザらが反論・批判している。例えば、「同様の写真は日本メディアが掲載している」「海外メディアが掲載している写真も、通信社などが提供したもの」といった指摘がなされている。


というわけで、この主張はすでに落ち着いているように思えるが、以下備忘録的に。とりあえず、2014年9月27日から30日までの各紙を並べてみる。(さくさく撮影したので、ところどころブレているのはご容赦を)


読売新聞:一面トップだけでなく、紙面内の特集面でも自衛隊活動を取り扱っている。


朝日新聞:一面トップ、および社会面で自衛隊らが捜索している写真を掲載している。


毎日新聞:連日のトップに掲載。社会面にも大きく掲載している。


日本経済新聞:他紙と比べて写真は小さいものの、連日掲載している。


産経新聞:一面トップのほか、写真特集内にも大きく掲載している。


東京新聞:こちらも同様。一面トップ、写真特集などに登場。


ご覧のとおり、各紙とも自衛隊らの活動する写真を大きく掲載していることが分かる。御嶽山は、2014年9月27日11時53分に噴火している。この日は土曜日であり、その日の夕刊で各紙が報道している。翌日28日は日曜日のため、朝刊では、噴火の写真や被災した方々の模様が中心に取り上げられているが、夕刊はお休み。そして29日の朝刊では、多くの新聞が一面トップで、前日28日の自衛隊らの救助活動の写真を大きく掲載している。もしかしたら、27日、28日の紙面の印象で、「自衛隊の写真がないな」と思った方も一部いるかもしれない。但し、29日朝刊では大きく取り上げており、テレビでも各社が現場の様子を伝えている。


「日本のメディアが報じていない」という主張をする人は、各紙が本当に報じているか否かを確認せずにそう述べている場合が多い。「広島土砂災害時にウェブ上で発生した流言について思うこと」でも取り上げたように、広島の土砂災害時にも、メディア批判流言が登場した。災害時、ネット上ではメディア批判流言が発生しやすいように思えるので、普段以上に注意したほうがいいかもしれない。メディアを十把一絡げにしたうえで、メディア全体をざっくり批判するような口調には、特に注意が必要だと思う。


ところで、「daily mail online」など、写真を大きく掲載している海外メディアがあり、見やすくてインパクトがあると評価しているネットユーザも多い。こうした写真特集にニーズがあるのも確かだろう。


但し、いくつかの日本メディアも、ウェブサイト上で写真特集を掲載している。例えば毎日新聞は、曜日別に、写真特集を掲載している。


毎日新聞
9月28日
http://mainichi.jp/graph/2014/09/28/20140928k0000e040175000c/001.html
9月29日
http://mainichi.jp/graph/2014/09/30/20140930k0000m040038000c/001.html
9月30日
http://mainichi.jp/graph/2014/09/30/20140930ddm001040203000c/001.html
10月1日
http://mainichi.jp/graph/2014/10/01/20141001k0000e040223000c/001.html


朝日新聞では、「御嶽山に関するトピックス」というページがあり、動画付記事へのリンクをたどることができる。加えて、時系列タイムラインページを見ると、写真付き記事も多く掲載されていることがわかる。なお、写真が見やすく一覧できるサイトが評価されるのはいいが、当然のことながら、海外より日本メディアの方が報道の割合が大きく、情報も細かい。写真の掲載の仕方をどう工夫すればいいかといった議論はもちろん重要だが、その一点だけで、「日本のマスコミ」をざっくり批判するのは不当だろう。それも、不確かな流言をまじえて。

東日本大震災時に拡散された「辻元清美が阪神淡路大震災時に反政府ビラを配っていた」という流言について

東日本大震災の際、ウェブ上では政治家に関する流言も多く流れた。特によく見られたのが、災害ボランティア活動担当として内閣総理大臣補佐官となった辻元清美氏に関する流言だろう。辻元清美氏自身も、ブログで「辻元清美に関するデマについて」というエントリをまとめている。中でも、「阪神大震災のときに、辻元清美が『自衛隊違憲です。自衛隊から食料を受け取らないでください』と書いたビラをまいた」という流言は、頻繁に拡散されていた。

※当時のツイート例

  • 阪神淡路大震災の時、「お腹が空いても我慢しましょう」「自衛隊から食べ物をもらってはいけません」「ミルクがなくても我慢しましょう」 そんなビラを配っていた、辻元清美さんがボランティア担当として政府補佐官に。
  • 辻元は阪神大震災の時、自衛隊よりも先に現地に入り、ピースボートの宣伝と、自衛隊違憲だから食料を受け取るななどのビラを撒いて政府批判活動をしていたという指摘がなされている人物。極左政権による政治的判断でどんな些細な間違いも起きてほしくない。


このコピペについては、掲示板などで頻繁に貼られたが、一般人だけでなく、日本会議地方連盟がブログに掲載したり、片山さつき氏がRTしたりと、政治的に対立の立場にある者たちも拡散していた。ちなみにyahoo知恵袋で質問を立てる者が現れたりもしているが、流言の真偽を知恵袋で尋ねようという心理がいまいちわからない。


このコピペ自体は、震災前から存在していた。コピペ探訪〜阪神大震災コピペの謎を追え(追記)にもいくつかまとめられている。

阪神淡路大震災のとき、辻元清美率いるピースボートが政府批判と自己宣伝のビラ配りをしてヒンシュク買ってましたね。
被災地に救援の食料一つ持たずに印刷機だけ持ち込む神経が判らない。
清美は恥を知れ!

辻元清美がばら撒いたビラは「デイリーニーズ」というものです。神戸市長田区を中心に、あちこちの避難所で配られました。
「被災者の声」と題して独自の政府批判を展開しています。
朝日新聞の投稿欄と同じで、「被災者の声」と言いながら自分達の政治的主張だけが書かれています。
迷惑をかけることはあっても何の役にも立たないビラ。民衆の不幸に便乗したサヨク政治。人々の不幸を政治的にもてあそぶハレンチな行為。
辻元清美は恥を知れ!


辻元清美氏と阪神淡路大震災に関わる流言は、次のような内容が主なものだ。

  • (1)物資も持たず、印刷機だけを持ち込んだ
  • (2)自己宣伝と政府批判のビラを配った
  • (3)ビラには「自衛隊から物資を受け取らないように」と書かれていた


これらの書き込みが事実か否かを確認するためには、「デイリーニーズ」を参照する必要がある。幸い、「デイリーニーズ」は縮刷版が出ており、国会図書館などでも閲覧することができる*1。今回は検証のため、「デイリーニーズ」を入手し、一号ずつ読み込み確認した。


まず、「デイリーニーズ」発行の経緯を確認しておこう。縮刷版には、あらばき協同印刷の関根氏という方が、巻末に「あとがきにかえて」という文章を寄せている。そこには、そもそもなぜ印刷機を持ち込んだのかという経緯が書かれている。

阪神・淡路大震災が起きて四日目、友人達とテレビをみていて、死んだ人の名前ばかり流しているマスコミに、変だよネ、これ。
確かに安否も知りたい。でも、他に必要な情報、もっと知らせなければいけないことがあるんじゃないの?って。
同時に、何か私にできることはないかなとばく然と思っていた。その時、友人(伊藤氏)の一人が印刷機を持っていけば……と、ふともらした一言だった。うん、そうだ印刷機をもって現地に行こう。
そして、一緒に行けそうな友人たちを誘い、私たちだけでは、絶対数も力も足りない。そこで、友人でもあり、お客様でもあるピースボートに声をかけてみようと決めた。
ちょうどピースボートでも、現地にいって帰ってきて、何ができるかを検討している時だった。私が印刷機をもって現地に行きたいから一緒にと提案した。
即決だった。そして、紙・材料とかの手配は私。車その他の手配はピースボートで、まさに電光石火。わずか三日で思いつくものを積んで出発したのは24日早朝。人数はと言えば何とたったの7人だった。
そして、25日、デイリーニーズ(創刊準備号)は発行された。


この経緯については、災害における情報メディアと人々 ボランティアによる災害支援の在り方−長田区を例として― という文章でも触れられ、次のようにまとめられている。

災害発生直後の混乱時にテレビで永遠(ママ)と流され続けた「安否情報」や「被害状況」は。被災者にとってはあまり意味のないものであった。被災し、最低限の生活を営むことを前提とすると、必要となってくる情報はやはり「生活情報」である。しかし、震災後の混乱の中でそのような地域に密着したミクロな情報は不足していたのだ。「怪我や病気の治療を受けれる医療機関はどこか」「水、下着などはどこで手に入るか」と言った情報はマスコミでは対応ができなかったという。そこで、ボランティア達は「情報収集」という点に着眼した。
長田区御蔵には震災から約 1 週間後の 24 日に東京に活動拠点をおく「ピースボード(ママ)」という NGO(非政府組織)のボランティア団体が現地入りしている。(「ピースボード」については後に詳しく説明することにする。)彼らは現地の状況を把握すると、「被災地で地域に密着した情報を提供する「かわら版」(新聞)つくりを支援の一環にしてはという声が持ち上がった(山下・菅、2002)」という。そこで、自身達の活動の中で毎月『MARU-p通信』という独自の機関紙を発行しており、編集・発行実務の経験を持つスタッフがいたこと、またこの機関紙の印刷を担う東京の「あらばき協働印刷」からも同様の提案がなされたことを踏まえ、「デイリーニーズ」が刊行されることになった。


ピースボート(以下・PB)はあらばき協同印刷と連携し、印刷機をもって24日に現地入りし、翌日には「デイリーニーズ」を配布している。「デイリーニーズ」のサブタイトルは、「生活情報かわら版」。創刊準備号の冒頭文には、発行の目的として「今まで口コミが便りであったようなきめ細かい情報を紙面化し、より多くの人々に伝わるような情報ネットワークを私たちは作りたいと思っています。同時にボランティアの情報交換の場になれたらと考えています」と記されている。実際、その後の紙面には多くの生活情報が掲載されている。また、数千部からスタートし、2月時点では発行部数が1万部となっていることから、相応の役割を果たしていたこともわかる。


ところで、PBの活動内容は、「デイリーニーズ」を発行することだけではない。紙面で報告されている活動を見ると、約150人のボランティアを活用し、救援物資の調達・配布、炊き出しやイベントの開催、ボランティア派遣も行っている。1000枚以上の仕分けされた古着を配布したり、独居老人等のケア活動を行ったりするなど、機動力も高かったようだ。また、PBらしいなと思うのは、船を活用して物資を運搬している点だ。現地スタッフが必要物資・現地ニーズをつかみ、後方部隊がそれを収集するという形態で、800台の自転車をはじめとして約170トンの物資を運搬・配布している。


つまり、コピペパターン(1)の「物資も持たず、印刷機だけを持ち込んだ」は間違った情報であり、「印刷機を活用した情報ボランティアだけでなく、多くの物資支援も、他の様々な活動も行った」というのが正しいと言える。


但し断っておくと、仮に「印刷機だけを持ち込ん」で情報ボランティアに専念していたとしても、その活動意義が否定されるわけではない。ボランティアはそれぞれが得意分野を活かせばいいので、情報ボランティアが「物資を持たない」ことで批判されるいわれはない。事実、「デイリーニーズ」に掲載されている情報は膨大であり、多くの手間がかけられている。東日本大震災でも、情報を整理・広報するためのボランティアが各地で活躍した。情報整理の役割を軽視してはいけない。


コピペパターン(2)についてはどうか。そもそも「デイリーニーズ」は、宣伝ビラや政府批判ビラと要約できるようなものではない。「デイリーニーズ」には実に多くの情報が掲載されている。その内容は、その日の天気、ニーズ掘り起しの呼びかけ、物資配布情報、炊き出し情報、入浴マップ、ランドリーマップ、開店した店舗、医療情報、人探し、伝言、求人情報や就職面接会の案内、ボランティアのマッチング、公共機関などからの告知、申請書などの注意点、他のNPOの活動紹介、慰霊祭、映画や観劇・ライブなどの娯楽、義援金情報、法律相談、住宅情報、飼い主のいないペットの里親探しなどなど、実に多岐にわたる。


通読してみると、創刊準備号に比べて、その後の号は字の大きさに配慮がなされているように感じられ、発行を重ねるにつれ紙面が洗練されていることも分かる。また掲載されている情報も、手話通訳の案内、様々な外国人向けの電話相談の案内、てんかん人工透析など様々な疾患向けの医療危機情報、アレルギー患者向けの物資の案内など、多様な被災者への配慮がみられる。


書かれている内容を見れば、「デイリーニーズ」はその創刊準備号で目指されていたように、被災地域に密着した生活支援紙だといえる。こうした中で、「デイリーニーズ」をあえて「反政府ビラ」だと主張する人は、その根拠として「国は17日付で公庫の返済分をきっちり引き落としよった」という一文をあげる。但し、全文を読むと、この文章でさえ「政府批判」と要約できるかは疑問が残る。

珈琲ルンバ
長田区役所の南側道路。白いワゴン車が喫茶店として営業している。店長は和田明さん(48)。被災前は御蔵通りで喫茶店「アキラ」を営んでいた、もちろん店は完全に消失、国民金融公庫の借金だけが残った。しかし和田さんは「今はいい、いろんな人が助けてくれている。でもいつまでも続く訳やない。」そう言って友人たちにたのみこんで借りた車にガスコンロを積み込み、移動コーヒー屋を作った。店を構えていた頃二三〇円だったコーヒーを一五〇円にして営業を開始。「寝ててもロクな事考えへん。この先逆にこれをバネにしてでもやったる。そんぐらいでなきゃアカン。国は地震のあった一七日付で公庫の返済分をしっかり引き落としよった。これが現実や。」彼の不倒不屈の精神に私も勇気づけられる思いだった。(佐々木)


これを読むと、逆境に負けずに店を開けた男性の姿を伝えることが主眼にあるように見え、「政府批判」を目的としているとは捉えがたいように思える。


但し、このほかに「政府批判」と取れそうな文言はある。たとえば2月21日から連載開始された「街復興へ」という連載では、道路拡張政策などの復興計画について疑問を投げかけている。また、避難所での入浴事故を「行政の問題ではないだろうか」と記したり、区役所で罹災証明を受け取るときにまる一日並んでいないといけないという被災者の不満を紹介していたりする。


こうした文章を「政府批判」だと解釈することは不可能ではない。とはいえ、一部にそれが含まれていることを根拠に、「デイリーニーズ」自体を「政府批判ビラ」「反政府ビラ」だと要約するのは無理がある。よほど要約力に問題があるか、要約者に政治的なバイアスがあるかのいずれかでない限り。


なお、当時の政権は村山内閣。当時もその対応を批判していたメディアは多かった。行政や政府の対応に問題や課題が見出されるのであれば、それは情報として報じる価値があるだろうし、被災者の愚痴などを紹介するのも「デイリーニーズ」の媒体としての目的に一致する。そもそも、「かつての災害時に政府批判ビラをばらまいていた」と批判的に騒いでいた人は、今まさに災害時という時にあって流言に基づいた「政府批判コピペ」を拡散するという自身の行動についてはどのように合理化しているのだろう。


ところで、村山内閣の震災対応への批判コピペにも、次のような文章がある。

18日
辻元清美ピースボート現地入り。印刷機を持ち込み宣伝ビラを配布し始める。
「生活に密着した情報をとどける」と銘打つが、内容は、ピースボートの宣伝や、被災した喫茶店主の「国は17日付で公庫の返済分をきっちり引き落としよった」や、韓国基督大学による韓国風スープ炊き出しの話しなど。


細かい誤りとしては、PBが現地入りしてビラを配布し始めるのは18日ではなく24日だ。それはさておき、確かに「デイリーニーズ」には、「韓国基督大学による韓国風スープ炊き出しの話」も掲載されている。但しそれは、多岐にわたってい掲載されている炊き出し情報のうちの一つにすぎない。


例えば「デイリーニーズ」には、少林寺拳法のボランティア隊がにゅうめんを、公文病院小児科が離乳食や乳児用飲料を、カルバリ教会がホワイトシチューを、アハマディムスリムがダルスープを、青年会議所が豚汁を、真言宗本山金剛峰寺が炊き込みご飯を、天理教が中華スープを、沖縄料理教室が沖縄そばやサーターアンダギーを炊き出ししている情報が掲載されている。見ての通り、実に多くの団体が、自分たちの得意分野で活動していたことが分かる。


これだけ様々な情報が掲載されている中で、わざわざ「韓国基督大学による韓国風スープ炊き出しの話しなど」と、嫌韓系ネット住人をミスリードするような部分だけ強調しているのは不可解だ。政治的意図が感じられる一方で、災害対応のことを考えているとは思えない。そもそも「韓国基督大学による韓国風スープ炊き出し」の何が問題だというのだろう


ちなみに、韓国民団発信のラジオの告知やハングルでのメッセージなども「デイリーニーズ」には掲載されている。ただ、タイ語ベトナム語ポルトガル語アラビア語、中国語などでの電話相談先を掲載したり、スウェーデン人やフランス人のボランティアを紹介したり、パキスタン人ボランティアの活動を取り上げたり、留学生の安否情報を掲載したり、孤立しているバングラディシュ人について紹介してみたりと、外国人に関する記載は他にも多い。そもそも被災者には様々な人が含まれており、在日韓国人を含めた様々な被災者向けの情報を掲載することは、評価されるべきものであって、揶揄されるようなものではない。


コピペパターン(2)には、PBの「自己宣伝」が書かれているとされているが、これもミスリードであると考えられる。「デイリーニーズ」には、確かにPBに関する情報が掲載されている。「デイリーニーズ」紙面の片隅には、毎号「ピースボートとは?」という書き込みがあり、そこには団体のかんたんな説明と神戸本部の連絡先が記されている。また、ボランティアの募集や、支援活動の解説、PBの船が救援物資を運んでいることなどが短く添えられている。ただ、受け取った者との信頼を構築するために、発行元が自己紹介を掲載すること自体は不自然ではないし、PBは情報収集などの呼びかけも行っており、連絡先を掲載する必然性がある。また、その自己紹介の掲載枠も、号を重ねるにつれ小さくなっている。100歩譲って、こうした記述を「宣伝」だと捉えたとしても、「デイリーニーズ」の紙面の片隅にそれが掲載されていることをもって、これを「自己宣伝ビラ」だと要約することには、やはり政治的バイアスが感じられる。


つまりコピペパターン(2)の、「自己宣伝と政府批判のビラを配った」という評価は妥当ではないと言える。もちろん、「デイリーニーズ以外のビラがあるのだ」と主張したり、縮刷版に収められていない記事があると主張したりすることも不可能ではない。もちろん、そう主張するのであれば、主張側による正確な根拠の提示が必要となる。ちなみに縮刷版には、1月25日の創刊準備号から3月9日の最終号まで欠けることなく掲載されており、加えて「医療可能施設一覧表」「求人情報一覧」「住込特集求人情報」といった増刊号も掲載されている。また、「デイリーニーズ」が終刊してからは、週刊発行の「ウィークリーニーズ」が発行されているが、発行元がPBではなく、地元住人が立ち上げた団体にうつっている*2


なお、この流言は10年近く前から存在している。2003年に発売された別冊宝島Real『まれに見るバカ女』というムック内には、「サヨクウォッチャー中宮崇」氏による次のような文章が載っている。

阪神大震災では、若者たちのボランティア活動がクローズアップされた。救援物資をいっぱいに詰めたリュックを背負って、不通となった鉄路を黙々と歩む若者たちの姿に、常日頃「近頃の若者は……」と嘆いていた大人たちは心を動かされた。
そんな純朴な若者たちを尻目に、ろくに救援物資も持たずに印刷機だけ持ち込んで、自己宣伝と政府批判のビラを撒きはじめた連中がいた。それが、辻元清美率いる自称・市民団体「ピースボート」である。
彼らが被災地でばら撒いたミニコミ紙『デイリーニーズ』には「国は地震のあった17日付で公庫の返済分をしっかり引き落としよった」(一月二十八日第三号)などという「被災者の声」が載ったが、それを読んだ多くの被災者が、口先ばかりの辻元たちに、インターネット上で憤りの声をあげた。


これまで述べてきたように、PBが「ろくに救援物資も持たずに印刷機だけ持ち込んで、自己宣伝と政府批判のビラを撒きはじめた」というのは誤りだ。「デイリーニーズ」はその名の通り、多様な被災地ニーズにこたえようとした生活紙と言える。またPBは、物資の配布、さらには各種ボランティア活動とそのマッチングにも力を注いでいた。


ちなみに、「デイリーニーズ」を読んだ多くの被災者が、ネット上で辻元に憤りの声をあげたという表現は気になる。阪神淡路大震災の発災は1995年1月17日。Windows95さえ発売していない時代だが、「多くの被災者がネット上で憤った」という時、それはどのようなものを指すのか、論拠はこのコラム自体には記載されていなかった。なお、『まれに見るバカ女』に掲載されているこの辻元批判コラムだが、他にも基本的な誤りが続く。

相手を利用することしか考えない辻元の態度は、数え上げればきりがない。宮島(ママ)茂樹著『ああ、堂々の自衛隊』(クレスト社)によると、九二年のカンボジアPKO派遣の際も、現地で女断ちしてがんばっている自衛隊員のところにTシャツ姿で大挙して押しかけ、勝手に自衛隊車輌に乗り込むわ、隊員のテントを荒らして缶ビールを奪おうとするわ、挙句の果ての質問が、「従軍慰安婦を派遣するというウワサがあるが」「隊内でコンドームを配っているとか。あなたのポケットにもあるんでしょう。」だったという。


ここでは辻元氏自身の行動として読めるような書き方で、いくつかの事例があげられている。しかし宮嶋茂樹著『ああ、堂々の自衛隊』には、これらが辻元の行動であると書かれていない。また、例えば「缶ビールを奪おうとするわ」という文章だが、前掲書ではPBの参加者が安く売っているビールに気づくという場面はあるが、「奪おう」とはしていないし、参加者がテントに入り込もうとしたというセリフはあるが、荒らしたという描写はない。このコラムは、たまにコピペの論拠としてあげられるが、コピペ以外の部分でも、辻元氏への批判ありきでの誇張・歪曲が随所にみられるものだった。


最後にコピペパターン(3)だが、「デイリーニーズ」の創刊準備号(1995年1月25日)から最終号(1995年3月9日)まで確認しても、「自衛隊から物資を受け取らないように」という文章は見当たらない。あっさりしているが、「見当たらない」以外に言うことがないので、(3)については以上。


***


というわけで検証作業を終えるけど、思ったより長くなった。わずか数行のコピペを否定するにも、これだけの文字数がかかるっていう。なお、このコピペ、震災時だけでなく最近でも拡散している人がまだいる模様。


今回、検証のためにと「デイリーニーズ」を通読したけど、災害時のニーズがどのように変化するのかなど、多くの示唆を得られる資料であるとも思う。取材し、紙面にしたものを配布する段階で、直接被災者とコミュニケーションを取り、新たな情報やニーズを聞き取っていくというPBの活動は合理的なものだ。東日本大震災時、PBが石巻市で「仮設きずな新聞」*3の発行などの活動を行っていることは取材で知っていたけれど、95年の活動理念が確かに継承されているんだと分かる。


PBによる情報ボランティアは有意義な活動だと評価されていい。根拠のない流言を元に、ただただ嫌いな政治団体とみなして揶揄する者とは比べようにならないぐらいに。これだけの活動をしているのも関わらず、政治活動だけを行っていたなどと揶揄されるなんて明らかに不当だと思える。おそらくPBは今後も、災害時の活動機会があるのだろう。その際にまた、同様の流言によって足をひっぱられることがないように願いたいが……。


というかこれはPBに限らずだけど、普段から流言の拡散がなされていると、災害時にそれが足を引っ張ることがわかるよね。災害に向けては普段の備えが重要だというのは、物資の話だけではなさそう。


追記(10/10)
続きのようなもの

http://d.hatena.ne.jp/seijotcp/20141009/p1

【デング熱】陰謀流言の拡散者がその後、さらにこじれていく姿を見るに

デング熱に関する報道が連日行われている。世界的にはもともと感染者が多い病気だが、現代の日本では珍しい。情報不足によることもあってか、いくつかの陰謀流言が発生していた。その流言は、次のような理屈で成り立っていた。

  • これまでもデング熱の症例はあったようだ
  • ならば、今年だけこれほど騒ぐ必要はないはずだ
  • にもかかわらず、なぜこれほど大きく取り上げられるのか
  • きっと、何かの大きな政治的意図が背景にあるに違いない
  • たぶん、その意図とはこういうもの(デモつぶし、内閣批判からのスピン、被曝の影響隠し、他多数)だろう


こうした陰謀流言には、まず下記の前提が抜け落ちていた。

  • これまでも、デング熱の症例はあったが、それらは「海外渡航歴のある人の症例」であった
  • しかし今年デング熱が話題となっているのは、「国内での感染」が増えているからである
  • 人から人へと直接はうつらないが、蚊を媒介しての拡大するため、「国内での感染」の今後に特に注意が向けられている
  • メディアも両者を区別するため、「国内での感染者」というフレーズで取り上げることが多い


陰謀流言の論拠の一つに、「去年のデング熱感染者は249人、今年は81人」というフレーズもあった。まず、2014年はまだ終わっていないので、この数字だけをみて「過去より少ないじゃないか」と受け止めるのは誤りだと気づく必要がある。実際、この数字の元グラフには、「6月27日段階」「2014 年は第26週の報告数」という注釈がついていた。すなわち、その後の増加分が計上されていないもので、比較に意味がない。


この陰謀流言が最も拡散されたブログ記事は、9月24日現在で4.4万もの「いいね!」を獲得している。著名な芸人が言及したことも含めて話題となった。



このエントリが掲載される前日の4日には、「デング熱騒動は捏造だった?!(魚拓)」というタイトルの記事が掲載され、それから「デング熱報道で隠したかったものとは?(魚拓)」が掲載されたという順番だ。2エントリの間でも、疑問符をとり、陰謀への確信を強めていることが分かる。


この記事、および拡散された陰謀流言に対し、複数の記事が問題点を指摘した。検証系ブログのうち、最も読まれたのは、「デング熱も怖いけどこんなデマが拡がるのも怖い。去年のデング熱の国内での感染者数はゼロだよ!」(6日)および「デング熱関連のデマ拡散中――信じたい記事を疑うことも必要です」(9日)という記事だろうと思う。いずれも、実際のデータ、国内感染の意味などを簡単に説明しているものだ。


こうした批判のコメント等を受け、批判対象となったブログはその後、「間違えましたので訂正します」と応答するのではなく、むしろ自説を補強するため、エントリを立て続けに掲載していった。流言拡散の場面でよく見る、「批判を受けて意固地になる」典型的なパターンにも見えるが、さらにブログの記事傾向を見ると、政府批判をしたいというバイアスが強いうえに、もともと陰謀論と親和性が高いブロガーのように見える。以下が、その後の記事の流れ。

  • 7日の記事では「まだデング熱だと騒いでいるのか!バカバカしい(魚拓)」を更新。批判コメントを載せたユーザーのIPアドレスを晒し、「関係者が火消ししてる証拠」と言及している。
  • 8日の記事では、「国立感染症研究所と言うのも怪しい組織である(魚拓)」を更新。過去にも国内感染があった可能性が否定できないということを根拠として出発し、ワクチン業界陰謀説(デング熱ワクチンの効き目を確かめるために、メーカーが意図的に大量のデングウイルス蚊を放した、という説)へとつなげている。
  • 9日の記事では、「真実を求めて・批判するブログたちとネトウヨたち(魚拓)」を更新。批判をしているのは「宜しく思わない輩、拡散されては困る輩」であり「ネトウヨ」であると説明。8日記事からコメントが減ったのは、自分が批判者の論拠を崩したからだと主張している(荻上注:普通は、大多数のビジターは5日記事しか読まないため、継続ウォッチャーが減ったことが理由だと予想するだろう)。コメント欄には、ビジターからの「ブログを中断させる程の圧力がかかるということは、 裏返せば貴ブログの勲章であります」というレスもついている。
  • 10日の記事では、「番外編:ブログ批判をした小川たまか氏とその検証(魚拓)」を更新。自分を批判したライターはそれぞれのビジネスのために書いているのだと主張。国内感染と国外感染を分ける必要はあるのか、どの国で感染しようと危険なものは危険、デングをエボラに置き換えてみれば分かると記述している(荻上注:人から人へと感染しないデングと、人から感染しやすく致死率がより高いエボラを置き換えること自体が無茶である)。さらにはメディアが世論操作している可能性について言及している。


今回の件に限らず、流言を拡げた人がその後、批判を受けてより意固地になるケースが少なくない。自説を補強するための論拠を探し、同調者と共鳴しあって先鋭化することもしばしばある。


こうした現象を見ると、「中和の技術」という社会理論を思い出す。人は、自分が間違ったことをしている人間だと思い続けることにストレスを感じる。そこで人はしばしば、自分の罪悪感を緩和してくれるロジックに飛びついてしまう。そうやって、認知的なモヤモヤを「中和」してくれる技術には、いくつかのパターンが見受けられる。簡単に言えば、弁解や弁明、居直りや逆ギレのメソッドというのは、似通っているよね、というお話。


もともと「中和の技術」の典型パターンとしては、(1)責任の否定(2)加害の否定(3)被害者の否定(4)非難者への非難(5)高度の忠誠への訴え、が列挙されている。非行研究が発端だが、流言拡散を批判されたときの反応にひきつければ、つぎのような感じになる。

  • (1)責任の否定:「ただRTしただけで、なぜ責められなくてはならないのか」「もし本当だったら大変だから拡げた。むしろ<そういう不幸が実際にはなくてよかった>で済ませるべきだ」
  • (2)加害の否定:「間違いであったとしても、良かれとしてやったのだ」「良い話なら拡散してもいいではないか」「誰に迷惑をかけたというのだ」
  • (3)被害者の否定:「誤解される方が悪いのだから、普段の行いを正すべきだ」「相手にはこういう問題もある。そんな相手をなぜ庇うのか(お前は○○信者か」
  • (4)非難者への非難:「お前は間違いを犯したことがないのか」「自分を批判する暇があるならもっと有意義なことに時間をつかえ」「言い方がむかつく。お前は何様なのだ」「批判しているのは<工作員>や<御用>の類で信用できない」
  • (5)高度の忠誠への訴え:「自分たちが騒いだことが問題提起となったのだ」「自分を批判するような言説は、まわりまわって言論弾圧や自粛につながるからやめるべきだ」


批判時の反応にはこの他、以下のようなパターンがあると感じている。

  • (6)"部分的な正解"へのこだわり:「こういう事実はかすっていた。ならば、ほぼ正解と言っていい。だから拡散の意義はあった」
  • (7)自浄作用の強調:「後で自浄作用が働くはずだから、予防として、確かめずにRTすること自体を責めるべきでない(つまり自分を責めるべきでない)」
  • (8)被害性の強調:「少し間違えたからって大げさだ。私は傷ついた。私こそが新たな被害者である」
  • (9)ヒロイズムの強化:「圧力には屈しない。これだけ必死で批判したがる人がいるのは、不都合な勢力がいる証拠」
  • (10)派閥化:「否定陣営には問題がある。彼らの言葉に耳を傾けてはいけない。助け合いながら、<私たち>こそが正しいと言い続けよう」


もちろんパターンに当てはまるからと言って流言というわけでもない。非難者の行為や論理が問題となることもある。しかしそれにしても、こうした事例は実にたくさん見かけられる。


一般には、「流言」は根拠があいまいなままに情報が広がることで、対してデマゴギーの略である「デマ」は政治的意図を持って作為的に流される嘘であると区別される。でも、その情報を受け取り、それを信じて伝達する過程においては、それが「流言」なのか「デマ」なのかという区別はあまり意味を持たない。というのも、一定以上の拡散をみたニセ情報は、たとえ当初は「デマ」として流されたものであっても、それをそれぞれの<善意>に基づいて流す人の方が多くなるからだ。


同様に、拡散した元の人も、当人の自意識としては「善意」や「真実」のためにやっているのであり、「政治的意図」をもっているわけではないと捉えているケースも多いだろう。ある意味では、「聞く耳を持つ」からこそ、「中和の技術」を用いたレスポンスが見られるようにも思える。ただいずれにせよ、流言の検証や中和の試みの最中にあっては、相手を説得することが困難で、よりこじれるような場合にもしばしば遭遇する。そもそも検証作業自体が、流言の拡散よりも遥かに手間と時間と労力がかかるなか、説得話法にも注意が求められることを考えると、本当に骨が折れるようなあと痛感している。


デング熱については本日、シノドスにこのような記事を掲載しました。あわせてどぞー。

「感染拡大のデング熱! 蚊の生態からわかることとは 嘉糠洋陸×森澤雄司×荻上チキ」
http://synodos.jp/science/10816