『InterCommunication』最終号

『InterCommunication』に、コラム「可能なるネット・リテラシー」を寄稿し、ドミニク・チェンさんと濱野智史さんと鼎談を行いました。「コミュニケーションの未来 ―― ゼロ年代のメディアの風景」と題された鼎談のページには、もし送られたゲラから変更がなければ、3人の中途半端な「ジョジョ立ち風写真」が掲載されているはず。和気藹々と色んなポーズを試していたのですが、まさか使われるとは。


で、ご存知の通り、『InterCommunication』は今回で最終号となるとのことで、サイトの方に次のような休刊のコメントが掲載されています。

InterCommunication』(季刊インターコミュニケーション)は、2008年5月発売の65号をもって休刊いたします。
InterCommunication』は1992年2月、NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]の機関誌として、ICCの開館(1997年)に先立って創刊し、アート&サイエンス、メディア・テクノロジー、情報環境、さらに音楽、映画、建築、社会学、哲学など、現代文化の幅広い領域に焦点を当て、今日的な課題のありかを明らかにすることを編集方針に、刊行を続けてきました。
しかし、創刊から16年を経るうちに、社会にもメディアにも出版界にも大きな変化が起こっています。このたび弊社は、『InterCommunication』は雑誌メディアとしての役割を終えたと判断し、休刊することといたしました。
『季刊インターコミュニケーション』休刊のお知らせ


で、『インコミ』最終号に関して、濱野さんがブログで次のように書いていました。

学生時代から、「情報」と名の付いたものはあれこれ濫読してきた僕にとって、特に90年代の「インコミ」(愛着を込めてこう呼びたいと思います)というのは、理論的支柱のような存在だった、といっても過言ではありません。2000年代以降の情報関連の議論というのは、(とりあえず日本に関していえば)ほとんどが2ちゃんねる・ブログといったネットコミュニティ論か、Google著作権をめぐるエコノミカルな議論に終始していた感があって、それに比べれば90年代の同誌に掲載されていた論考は、とりわけ抽象的で、アクロバティックで、それだけに刺激的な論考も多かった。もちろんその多くは、現実から遊離した高踏的議論にすぎなかった、とみなす人も少なくないでしょう。それは確かに一面ではそうなのですが(そしてそのことについては上で紹介した鼎談記事でも触れています)、それだけで片付けてしまうのはよくない。たとえば、昨年から、 WiredVisionのほうでもここでも何度も名前を挙げているのですが、同誌で連載されていた東浩紀サイバースペースはなぜそう呼ばれるか」(『情報環境論集』に所収)や大澤真幸「メディア的変容」(『電子メディア論』として刊行)は、いまでも僕がITやら情報社会やらについて(そして結局のところは社会全体の枠組みで)物を考えるときの、欠かせない軸になっています。
雑誌『InterCommunication』(涙の最終号!)に記事を寄せました。/濱野智史の個人ウェブサイト@hatena


実に愛があるコメントに胸が熱くなったので、つい便乗エントリを書きたくなりました。「現実から遊離した高踏的議論にすぎなかった」という総括はさすがに chiki でもしませんが、とはいえ『インコミ』の休刊に対して、少しセンチなキモチになりつつも、あまり残念だと思えないでいるのは、やはりある種の「役割」を終えたという印象がどこかにあるからかなぁ。


鼎談でも述べていますが、今起こっているのは「情報技術の世俗化」であり、そこでは文学的な問いや「《可能性》の示唆」よりも、「運動的・制度設計的」な言葉が求められている状態にある気がします。もちろん、世俗化したからこそ、コミュニケーション&コンテンツ分析やの意義が高まっている状態であるとも言えるわけですが、そんな中で『インコミ』が、例えば淡々と「ニコニコ動画」や「初音ミク」などの「分析」が載るような雑誌として継続するというのは、やはりちょっと違う気もしますからね。


とはいえ、いつまでも「高踏的議論」か「日常の描写」かといった区別によるせめぎあいを観察しつつけるのは退屈なので、その意味で今回の鼎談がある種の「宣言」になり、次のメディアへと開かれていくといいのですが。っても、宣言を叫びつつもつい「(笑)」とかをつけてしまうんですけどね。濱野さんも「けっこう真剣かつ長期的な視野」とかって言い方になってるし。いやでも、「けっこう真剣」な「宣言」になってると思うんですけど。


Inter Communication (インターコミュニケーション) 2008年 07月号 [雑誌]

Inter Communication (インターコミュニケーション) 2008年 07月号 [雑誌]