松浦大悟議員が「有害サイト規制」「学校裏サイト」などについて質問

先日、参議院議員である松浦大悟さん(松浦大悟 - Wikipedia)から問い合わせのメールをいただきました。今国会で争点として取り上げられそうな「学校裏サイト」「出会い系サイト」「有害サイト規制」について質問するため、これらに関する情報を提供して欲しいとのことだったので、下記のようにお答えさせていただきました(文面はブログ用に若干修正しています)。


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■前提として
出会い系サイト規制の前提として、「出会い系サイトを利用した児童買春事件が急増している」というクローズアップがよくされているが、これだけをみて論じるのは間違い。まず統計的に見ても売春が「急増」しているわけではない。ネット・ケータイユーザーが単純に増加したことで、ネット・ケータイを通じてこれまで行われていたことが<可視化>されるようになったこと、およびこれまでであってもコミットしやすかった層が、ネットに流れているということなども関係していると予測される。単純に増えたわけではない。


■相談件数の増加について
また、有害サイト規制の議論が前提としがちな、「相談件数が増えている」という部分だけをみるのも間違い。ネット、ケータイが普及し、ユーザーが増加したことで、単純に母数が増えたこと。およびメディアによってネット犯罪などの問題点が共有されたことで、泣き寝入りするのではなく、相談するという件数が増えたことなども関わっていると予測される。犯罪でも、相談だけで逮捕するなどということはなく、推定無罪の原則のうえ、調査してから対応する。そういうルールを築くべき法律が「相談」や「不安」だけを根拠に議論していていいわけがありません。有害サイトへの対策は当然考えなくてはいけないが、騒ぎすぎな部分があるので、冷静になって議論をして欲しい。


■検挙数の増加について
「検挙数の増加」という部分だけをみるのも間違い。検挙数から暗数は推定できず、検挙数と暗数が比例しているわけでは決してありません。例えば警察が対策に力を入れれば、当然その分検挙数は上がる。サイバー犯罪に対する注目度が上がり、警察自体もサイバー上でヘマを何度もやらかしていることから(例えばwinnyの件)、年々力を入れつつあるという部分がある。「検挙数」「相談件数」を論拠に、突然と法改正の問題にしてしまうのは尚早。


■先日公表された「有害情報に関する特別世論調査」について
質問があまりに誘導的(あらかじめ否定的情報のみを与えている/"法令"では規制の対象となっていないけど、各自治体条例レベルでは規制の対象になっていることなどを指摘してない)で、結論ありきの調査としか思えない。調査結果を丁寧に見ると、現状の対策内容やフィルタリング技術についてよく知らない人が「もっと規制するべき」と主張していることが分かる。気分だけで法の議論をしてはいけない。


また、フィッシング詐欺振り込め詐欺などの明らかな犯罪と、表現による快/不快の問題は同列に語れないはず。「有害サイトを規制するべきか」という議論の場において、このデータは無意味であるばかりでなく、これを論拠に何かを主張することも難しい。せいぜい「内閣が必死に世論誘導して法制化しようとしている」という証拠程度にしかならない。


ネット上で批判の声が数多くあがっている。単に自分たちの利害を主張するというのではなく、特にネットにも政治にも詳しい層からの批判も多い。匿名のものではなく、専門家や企業家などからも。彼らは「ネットの世界をよく分かっている」からこそ、この方向性がやりすぎ、過剰反応だと主張している。ネットの前提を知らないのであれば、突然規制をするのではなく実態を知り、共有する努力から始める必要がある。


■有害サイト規制は必要かどうかについて
私は、通常の犯罪に対する対応と同程度に必要だと考えている。規制も必要になると思う。ウェブだからといって、放任も、過剰反応もまずい。ただ、何を持って「有害サイト」とするのか、どのタイプにはどういう規制が必要で、どのタイプには不要なのかについては、慎重に議論が必要。ネット詐欺と、学校裏サイト、出会い系サイト、同人誌などのサイトを同列に語ることは出来ない。そういうサイトを全然見ず、「ウワサに聴いた」「友人の友人に聞いた」レベルで規制などをするなどもってのほか。表現の自由侵害にならないよう、最大限の配慮、歯止めが必要。


詐欺サイトなどには、「まとめサイト」がすごく活躍している。警察のサイトはほとんどお題目を書いているのみ。警察のサイトに注意書きを掲載するだけで、誰が読むのか。多少の予算と企画権限をあれば、もっと効果的な対策キャンペーンを設計できるはず(なんならやりますよ)。


■出会い系の抜け道について
サイト自体の「書き込み」をどうこうしようという発想だけでは無意味。出会い系サイトでは、今でも「SOS」「助けてくれる人探してます」「私のサポーターになってくれる人」「相談したいな」「(3)で会える人〜」「意味わかる人」などの書き込みは沢山あふれている。年齢はいくらでも偽れる。出会い系サイトも、数日張り付いていれば分かるが、常連が何度も書き込んでいる。複数のサイトで、同じ人が必死に書き込んでいたり。書き込みの数=人数や件数ではない。


重要なのは、ケータイが生まれる前から「親の目元で完全に管理」することなど不可能だったこと。それをこれからいきなりやろうとしても無理だし不健全。仮に出会い系がダメでも、テレクラ他へ行く(テレクラは今プロばかり)。「出会い系サイト」自体が問題なのではない。インターネットが誘発しているというよりは、「そういう人が、そこに来る」仕組み。どうやって「そこ」を特定するか、「そういう人」にどうするかは、これまで同様慎重であるべき。


学校裏サイトの抜け道について
学校裏サイトの規制は端的に不可能。小中学生がサイトを作れば、そこが必然的に学校裏サイト的な機能を持ちうる。子どもにはサイトを作る権利を与えない、というのもありえない(アーキテクチャによって可能にはなるが)。また、特定の話題に関するウェブ上での発言権を与えない、というのもありえない。子ども+新しいメディア(今回はケータイ)=残虐性の発揮、という思い込みがいつの世の中にもある。


アンケートを読む限り、フィルタリングが認知されていない。そこは啓発していくことが必要。そのためには教育する側が、まずは実態を知らなくてはならない。にもかかわらず、実態を知る前から、一部のネガティブな情報の先走りだけを間に受けて、変な法律を作ることこそ「教育的」にまずい。誇張ばかりして耳を傾けさせようとするのもまずい。


サイト経由の大人からの犯罪誘致の問題は、インターネットメディアの問題と区別が必要。ネットいじめもそう。書き込みを見る限り、内容自体に大きな差は実はない。爆発的に増えているかのような印象を与える報道も有るが、そんなことはない。書き込みの多くは普通の会話で構成されている。独特の文化も生まれている。「教育」という観点だけを、一部の人が極端な、あるいはゆがんだ形で強調することで、他の議論をブルドーザーのようになぎ倒してしまうことは、日本のソフトパワーにとっても大きな損害。もちろん「教育」とっても損害であるはず。


■ゲームやアニメの所持も規制すること
ありえない。まず、何かを欲望すること自体を禁止する法を作ることは憲法違反。特定の表現自体が文脈抜きに禁制となるのも同様。例えば同人誌、自分の好きなものを書き、欲しい人に頒布する時、どういう問題が有るのかを明らかにする必要がある。「誘発の可能性」や「恐れ」なら、何に対しても指摘できる。かつては野球有害論というのもあったほど。


「怖れ」という言葉が振りかざされる一方で、戦後数十年、強姦事件などは減ってきている(『戦前の少年犯罪』参照)。同人誌と強引に関連付けるなら、オタクの社会的地位が向上するにつれ、性犯罪は減っているとすらいえる。もちろんこれもレトリックにすぎない。但し、ゲーム、アニメ、インターネットなどのなかった時代に比べて、実は治安がよくなっているという統計的事実はどう解釈されるのか。もし関連性が高いのであれば、同人誌を購入するための世界最大規模の祭りであり、多くの外国人もやってくるコミケにおいて、性犯罪や暴行事件などが頻繁に話題になっていないとおかしい(数回起きたとしても、それくらい普通)。極端なケースを元に「オタク」へのネガティブイメージが固まってきたという歴史があるが、徐々に解けつつある。


同人誌を児童ポルノとして規制する場合、誰が「被害者」にあたるのか。「猥褻物」とは別の議論。誰の「人権」を守るためなのか。表現自体が禁制になるのか。例えば、15歳の頃のヌードを、20歳を越えた成人になってから自ら譲渡するというようなケースでは、単純に表現そのものを禁止するという議論は成り立たない。これまでも、新しいメディアを恐れて流言飛語が飛び交った歴史がある。歴史に学ぶ必要がある。


■フィルタリング強化について
詐欺サイトなどは規制する必要もあるが、表現について「不快/快」の問題であれば、基本的にはゾーニングで解決するべき。私たちは、オフラインの社会、ウェブ以前の社会でもこれまでそうしてきた。例えば「最初は規制がかかっていて、しかしはずすことが出来る」「最初は規制がはずれていて、タイプをカスタマイズ出来る」どちらでもいいが、アクセサビリティは確保されていることが重要。もちろん不快な情報に遭遇してしまうことはこれまでもあった。可能性をゼロにすることは無理。

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その数日後、松浦議員が「参議院会議録情報 第168回国会 法務委員会 第3号」にて、「有害サイト規制」「学校裏サイト」について質問をしていらっしゃいます。私の情報提供だけでなく、慎重に情報収集をしたうえで質問を行っている様子が伺えます。

(…)
松浦大悟 自殺サイトですとか学校裏サイトといいますと、マスコミでは負の側面だけが強調されるわけでございますが、しかし別の側面もあるだろうというふうに考えます。
 例えば、自殺サイトでいうと、自殺サイトへアクセスすることによって自殺をする人の数と、そこへアクセスする人の数を比べてみてもらいたいんですね。そうすると、そこのサイトにアクセスしたことによって自殺をした方の数よりも、圧倒的多数の方たちがアクセスをしただけということが分かるんですね。つまり、自殺念慮を抱えている方たちが自殺サイトにアクセスすることによってガスが抜けているという現状があるだろうというふうに思います。自殺念慮を持っている方たちが孤独に陥らないような、そういうコミュニケーションの場でもあるわけです。
 また、学校裏サイトについて言えば、学校裏サイトではいじめの温床になったサイトだけがピックアップされるわけでございますが、それだけの機能ではなくて、普通の学校での日常生活の会話なども行われているわけでございます。一見いじめのように見えるようなそういう書き込みであっても、いじめっ子が書いているのか、あるいはいじめられっ子がその書き込みを行っているのかで文脈は変わってくるわけですよね。いじめられっ子が学校での憂さを晴らすために書き込みをしている、ガスを抜いているというケースもあるわけでございまして、一くくりにできるものではないというふうに思います。小中学生がサイトを作れば、必ずそこは学校裏サイト的なニュアンスを帯びてくるわけなので、これを規制するというのはどうなんでしょうか。子供たちの表現の場を大人が奪うようなことがあるべきではないというふうに私は考えます。
 今後も規制すべきではないというふうに考えますが、御見解をお聞かせください。
政府参考人(武内信博君) 総務省といたしましても、インターネット上の違法・有害情報の対策は非常に重要な課題であるというふうに考えておりますが、他方、今先生の御指摘もありましたように、この課題の取組につきましては、表現の自由というふうな観点から慎重な検討も必要だというふうに認識をしております。このような観点から、プロバイダーやあるいは電子掲示板の管理者等によります違法・有害情報の自主的な削除の取組の支援ですとか、あるいはフィルタリングというものの普及などに努めているところでございます。
 総務省といたしましても、引き続き、こういう表現の自由等についての議論にも十分配慮した上で、ガイドライン等の運用ですとかあるいは周知の支援、あるいはフィルタリングサービスの一層の普及というものにつきまして、業界ですとかあるいは関係機関との連携を引き続きやってまいりまして、今後とも違法・有害情報の問題に総合的に対応してまいりたいというふうに考えております。
松浦大悟 次に、児童買春、児童ポルノ禁止法について伺います。
 これは議員立法で成立したものでありますが、法務省として改正する意図というのはあるんでしょうか。もしあるのであればどういう内容なのかを教えていただきたいと思います。
 私は、写真やビデオと違って、被害者のいない漫画やアニメ、それからゲームに対する規制の強化が行われるのではないかというふうに危惧をしています。法律を改正するならば、改正するに見合った立法根拠が必要だと思っておりますが、このような有害と言われるメディアが犯罪を増やしたという調査結果はあるのかないのか、お聞かせください。
政府参考人(大野恒太郎君) ただいま有害メディアが具体的な犯罪を増やしたという統計があるかどうかということでございますけれども、済みません、私が今知る限りにおいてはそのようなものは承知しておりません。
 それから、児童買春、児童ポルノ禁止法の見直しの関係でございます。
 先ほど委員御指摘のとおり、十六年の改正で三年後の検討ということが求められております。したがいまして、当局といたしましても、社会意識の状況等を見まして、また、今後におきます国会における議論等にも注目させていただきまして、その上で検討を進めてまいりたいというふうに考えておりますけれども、ただ、その中で議論が出てまいりますのは、例えば、実在しない児童のわいせつ画像を取り扱ったアニメやゲームについても、これは青少年の育成上問題があり、あるいは児童を性の対象とする風潮を助長するんじゃないかというような御議論がございます。
 この辺りは、この法律の立法の目的が児童の権利擁護ということでありまして、描写の対象になった児童の人権を守るということでありますので、実在しない児童のわいせつ画像、アニメ、ゲーム等につきましては、直ちにこれに当たってこないし、また、表現の自由ですね、表現の自由との関係がございますので、慎重な考慮を要するのではないかと、このように考えております。
松浦大悟 御答弁にありましたとおり、メディアの悪影響論についてはアメリカの社会学者のクラッパーが実証的に否定をしております。しかし、そうした中においてアニメの悪影響論が語られているという現状があるわけでございます。
 大臣、児童のアニメといっても、写真の被写体と違いまして、アニメのキャラクターに戸籍など年齢確認することはできないんですね。にもかかわらず、そうすると、これは児童ポルノだ、これは違うという形で、すべて警察、検察の恣意的な運用に任せられるということになってしまいます。特に日本のアニメというのは成人と児童との区別が付かない、そういう表現が行われているわけでございます。特徴的なわけでございます。なので、恣意的な運用が懸念をされるわけなんですね。
 過度なわいせつ物などはわいせつ物頒布罪などの現行の法体系で取り締まることが可能ですから、立法根拠のない法改正はすべきではないと私は思います。特にアニメやゲームというのは日本のコンテンツ産業の軸でもありますから、こうした産業育成の面からも、それから表現の自由の面からも、できる限り守られるべきであろうというふうに思います。
 ローゼン閣下とも呼ばれ、アキバの皆さんにも大変人気がある麻生太郎自民党幹事長と盟友であられる鳩山大臣に、前段で質問した有害サイト規制なども含めまして御見解をお聞きしたいと思います。お願いいたします。
委員長(遠山清彦君) 鳩山法務大臣、簡潔に御答弁いただきたいと思います。
国務大臣鳩山邦夫君) 私は麻生太郎さんの選対本部長だったんですが、麻生さんのようにそういうことに詳しくはないんです。ですから、今の松浦委員のお話をずっと承っておりまして私なりに勉強しました。表現の自由の問題、我が国における、それは児童ポルノを処罰するという法律があるけれども、それを余り振りかざされると我が国独特の文化にも影響があるというようなことが御主張だと思いますし、まして実在をしない漫画的ポルノというんでしょうか、そういうものをどう考えるかということについても委員のお話をこれから参考にしていきたいと思っております。
 ただ、私はインターネット社会が来るなんて全く思っておりませんで、この間まで自民党選挙制度調査会長をやっておりまして、インターネットを選挙運動に使っていいというふうにすると何が起きるかと。これは、なりすましだとか、要するに選挙妨害みたいなものがわっと押し寄せてきて何の規制もできないと。国内で規制しても外国へ行って飛んでくると。だから、恐ろしい時代になったなということを考えておりますので、すべて慎重に判断しなければならないと思いますし、松浦委員のお考えはよく分かりましたので参考にいたします。
参議院会議録情報 第168回国会 法務委員会 第3号

概ね慎重な返答が行われたという印象ですが、鳩山邦夫国務大臣の「恐ろしい時代になった」というのはかなりひっかかります(汗)。まだまだ議論が必要です。