マスコミ学会ワークショップレポート予告編

2007年6月10日、熊本学園大学にて開催された「マスコミュニケーション学会」に参加して参りました。ワークショップのパネリストとしては、富山大学の斉藤正美さん(ジェンダーとメディアブログ)、シカゴ大学山口智美さん(ふぇみにすとの雑感)、東京大学北田暁大さん(試行空間)、特別ゲストの今井紀明さん(今井紀明のかけら)と共に行いました。後日改めてその詳細なレポートは、『バックラッシュ!』発売キャンペーンブログの一周年記念コンテンツとして掲載させていただこうと考えておりますが、予告編もかねまして、とりあえず簡単なレポートをさせていただきたいと思います。


まず最初は、chiki による基調講演。ブロガーとしての経歴など簡単な自己紹介を行った後、「バックラッシュ」の既存の定義を見直しつつ、「ジェンダーフリー」や「バックラッシュ」の背景と歴史について簡単に解説。その後、ウェブ上で行われていた批判言説の流行を「祭り系」と「運動系」に分類しながら、ウェブの性質について「サイバーカスケード」などの要素などを元に指摘、いくつかのデータを提示しながら分析を行っていく、という流れです。


分析の部分で指摘したのは、主に次の3つ。ひとつめは、「バックラッシュ」はコミュニケーションを後退させるものではなく、別の機能を持っているということ。ふたつめは、「ネット住民」や「2ちゃんねらー」、「若者」「バックラッシャー」は「右傾化」と呼ばれるような問題ではない、別の構造があるということ。みっつめは、フェミニズムのプレゼンス能力が低下しているということを、ややマーケティング的な視点から語ってみる、というものでした。


※以下、パネリストのコメントをごく簡単に紹介しますが、主観的にまとめている部分がありますので、後に掲載する詳細なレポート、および各パネリストのブログをご覧ください。


続く今井紀明さんは、日本語圏のサイバースペース上では、おそらく最も大きなバッシングを経験した当事者。彼はその立場から、なぜブログが炎上するのか、なぜバッシング現象が起きるのかということを当事者の経験から語りつつ、同じく「サイバーカスケード」というタームを軸に「自作自演説」などを分析。バッシングをしている人たちが、政治的な理由などによってバッシングをしているわけではなく、もっと別のウェブ独特の力学のようなものも関わっているのではないかと示唆した後、サンスティーン『インターネットは民主主義の敵か』の議論にあるように、ウェブ上で理性的な討議はいかにすれば可能なのかという問題提起を行われました。


北田暁大さんは、千人あまりのネットユーザーを対象に調査を行った結果、一部の「論壇」で言われているような「恋愛弱者などがフェミニズム叩きの言説に動員される」のようなことは単純なパラフレーズはできないということ。いくつかのデータを示した後、何か「分かりやすい敵」のイメージ像を作りあげて批判していくといったことに警鐘を鳴らし、様々なデータを丁寧に分析していく必要があると問題提起されました。


山口智美さんは、ウーマンリブの時代から現代にいたるまで、女性運動に対するバッシングは一定以上常に存在していたにも関わらず、どうして「女性学」系の人たちがかくも混乱しつつ、きちんと対応をできていないのかと問題提起。「行政」との結びつきや運動の歴史の非継承など、エスノグラフィックな視線から長年女性運動を研究してきた立場から指摘しつつ、「フェミニストブロガー」として、フェミニストの高齢化問題とネットリテラシーの問題などを指摘されました。


斉藤正美さんは、富山県という「地方」で女性運動に関わってきた立場から、「バックラッシュ」といえば地方の、保守的な政治家や運動家などとのネゴシエーションの積み重ねといったイメージがあるのに、どうして「主流」フェミニズムとはズレがあるのかということを指摘。また、chiki の講演ではインターネットやメディア上での言説の増大が取り上げられていたが、ローカルなコミュニティでのネゴシエーションの歴史などを語る作業も必要であると指摘されました。


一巡して、各パネリストに chiki がレスポンスをした後、休憩を挟んでディスカッションの時間。多くの刺激的な質問や意見が飛び交い、有意義な議論が行われました。続きはまた、詳細なレポをお楽しみに。なお、今回人前で喋る際、性別と最終学歴を明らかにしたりしてますが、それもレポが出るときにあらためて。


ワークショップの最後に、他にも議論したいことは多くあるが、出来れば続きはウェブなどでも展開していきたいと呼びかけさせていただいたので、参加者の方はどうぞお気軽にコメントください。ワークショップ参加者の方々をはじめ、辻大介さんら研究者の方々、広告業界などマスコミ関係の現場で働いている方々、熊本学園大学で障害学を研究されている方々など、多くの出会いがあったのも、想定外の喜びでした。感謝。