再犯率の件、ふたたび(いずれみたび)――「性犯罪の再犯率2割」の間違い。

犯罪白書」が「性犯罪者の再犯状況」について「初めて特集」を組んだとの事で、各記事がいっせいに取り上げましたが、見ての通り、なんかおかしいです。


性犯罪の再犯率2割 犯罪白書
 13歳未満の子どもに対する性犯罪で服役した元受刑者のうち2割以上が、出所後に再び性犯罪を起こしている実態が法務省が7日に発表した「犯罪白書」の調査でわかった。13歳以上に対する性犯罪者とくらべ著しく高い数字だ。奈良県の幼女殺害事件が喚起した幼児に対する性犯罪前科者の再犯問題が改めて浮かび上がった。同省は今年度から性犯罪者に対する再犯防止プログラムに取り組んでいる。
 調査は、法務省法務総合研究所が強姦(ごうかん)、強制わいせつ、わいせつ目的略取・誘拐、強盗強姦の四つの性犯罪で服役し、99年に出所した計672人が04年末までに性犯罪などの再犯で検挙されたかを調べた。
 13歳未満に対する性犯罪で服役した元受刑者99人のうち、22%に当たる22人は再び性犯罪を起こしていた。一方、13歳以上に対する性犯罪者の場合、性犯罪の再犯は9.4%にとどまった。
 また、性犯罪の元受刑者全体を見た場合も、性犯罪の前科がある場合とない場合では、出所後に再び性犯罪を起こす確率に大きな違いが出た。性犯罪の前科があった127人の元受刑者のうち、28.3%に当たる36人が、出所後に再び性犯罪を起こしており、少なくとも3回の性犯罪を重ねたことになる。一方、前科のなかった545人で、出所後に再び性犯罪を起こしたのは7.3%の40人だった。
http://www.asahi.com/national/update/1108/TKY200611070625.html

性犯罪者の2割強が再犯、06年犯罪白書公表
法務省は7日、2006年版「犯罪白書」を公表した。
今年の白書は、性犯罪者の再犯状況などについて初めて特集。性犯罪による受刑者の2割強が再犯者で、13歳未満の年少者を狙った受刑者に限ると、再犯の割合はさらに高く、3人に1人だったことが分かった。
この調査は、法務総合研究所が昨年6月現在、全国の刑事施設に、強姦(ごうかん)や強制わいせつの罪で服役中の性犯罪者を対象に実施したもので、対象者1534人のうち22・4%に性犯罪の前科があった。
中でも、13歳未満に対する性犯罪者の再犯傾向が強く、34・9%に性犯罪の前科があり、未成年時に性犯罪を犯して保護処分を受けたことがある割合も13・3%で、全体の6・9%に比べて高かった。
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20061107it02.htm?from=top

犯罪白書 前科あり再犯率28%
調査では、11年中に刑務所などの刑事施設を出所した性犯罪受刑者672人のうち、13歳未満の児童に対する性犯罪受刑者99人の動向に着目。出所後の再犯も含め、彼らが犯した13歳未満の児童328人を対象とした性犯罪310件について分析した。
(…)また、性犯罪受刑者672人について、16年末までの再犯状況も調査。出所者のうち、受刑以前にも性犯罪の前科があった127人による性犯罪の再犯率は28.3%、前科がなかった545人による再犯率は7.3%で再犯率は約4倍だった。
http://www.sankei.co.jp/news/061107/sha022.htm

性犯罪、3回以上は36人 99年出所の元受刑者
 性犯罪で服役し、1999年の1年間に出所した元受刑者672人のうち約5%に当たる36人は出所後を含めて3回以上、性犯罪を繰り返していたことが、7日の閣議に報告された法務省の2006年版犯罪白書で分かった。

 性犯罪の再犯防止対策の重要性をあらためて示した形。法務省は06年度から各地の刑務所や保護観察所で性犯罪者の再犯防止プログラムを導入、性に対する勝手な思い込みなど認識のゆがみを自覚させ、修正させる「認知行動療法」などを実施している。
 白書によると、調査対象の672人は強姦のほか、強制わいせつ、わいせつ目的略取・誘拐、強盗強姦で服役していた元受刑者。127人はこれ以前に同様の罪の前科があり、服役時点で既に2回以上、性犯罪で有罪の確定判決を受けていた。
 このうち、36人は99年に出所してから04年末までに再び、性犯罪で有罪判決を受け、確定したという。一方、性犯罪の前科がなかった545人のうち、出所後の04年末までに2回目の性犯罪で有罪判決が確定したのは、出所者全体の約6%に当たる40人だった。
 また、05年6月1日時点で、全国の刑務所などで服役していた性犯罪の受刑者1568人についても実態を調査。服役理由が13歳未満の子供に対する強制わいせつだった141人の約40%に当たる57人には、それ以前に性犯罪の前科があった。
http://www.sakigake.jp/p/news/national.jsp?nid=2006110701000096


とりあえず、どの記事も分かりづらい。これだけ見事にバラバラだと、記事をつきつめても全体像に到達するのが難しい。難解パズルかこれは。「少なくともこの中の一人はウソをついています」っていう類の、算数の問題を思い出した。


よく見れば分かるとおり、朝日が「再犯率2割」と言っているものと、読売が「2割強が再犯」と言っているもの、産経が「再犯率28%」と言っているものはそれぞれ内容がバラバラで(対象も「99年に出所した計672人」だったり、「全国の刑事施設に服役中の対象者1534人」だったり)、一番困ったことにいずれも「性犯罪者の再犯率」と一般化して語ることができなかったりするもの。例えば「服役中の性犯罪者を対象に実施した」なら、再犯者の方が多いという数字が出る可能性が高くなるだろうし(「再犯」であるがゆえに長く服役している人が多いという状況を、服役者には再犯が多いと言い換えて一般化するのはある意味マッチポンプ)、「出所した672人」がどのような理由で選ばれたのかも不透明(これで全員ならOK)。それでも多くの人は、これを読んだらベタに「性犯罪者の2割強が再犯」であると思っちゃうんじゃないだろうか。これまでも再入(所)率再犯者率と混ぜたりするケースもあったけど、今回はもっと分かりづらいように思う。


とりあえず記事を見る限り、「出所した672人」のうち「再犯」したのは76人(同一罪種有前科者36人+同一罪種前科なし40人)で、その割合は11.3%。「再犯率」を、そのまま「性犯罪をおかした人が、釈放後にふたたび性犯罪をおかす確率」とするなら、さしあたりこの数字が一番「再犯率」に近いものと言えるだろうか(あるいは「更正できなかった割合」とか)。


で、特に分かりづらいのは、「3回以上」繰り返した性犯罪の扱いと、「13歳未満の子どもに対する性犯罪」の扱い。まず前者。とりあえず、記事によれば「出所した672人」の中で「3回以上」反復するのは「36人」で、その割合は「約5%」。ということは出所者全体の中で3度以上反復しているのは約5%ということになるのだけど、「性犯罪の前科があった127人の元受刑者のうち、28.3%に当たる36人」と書くと、「2回以上再犯している人が出所後また繰り返す可能性」が28.3%ということであり、意味も違えば、伝わるニュアンスも大きく変わってくる(こう書くと、インパクトあるでしょ)。続いて後者。「13歳未満の子どもに対する性犯罪」のサンプルが99人(出所者)というのはちょっと少ないように思うけれど、記事によれば「出所者」は「99人のうち、22%に当たる22人」が、再犯をしているらしい。この22%を朝日は「性犯罪の再犯率2割」と読んでいるんだけど、これは間違い。これはあくまで「13歳未満の子どもに対する性犯罪」に限った場合で、「性犯罪(一般)の再犯率」ではない(ちなみに22人というのは、出所者全体の中では3%にあたる)。


「服務中の1534人」にうち、「22,4%」は性犯罪の前科があるというから、おそらく前科があるのは334人。また、1534人のうち、秋田魁新報の記事によれば、13歳未満に対する性犯罪を犯した人の数は141人、その中で前科があったのは57人。ということは「1534人のうち、前科ありの13歳未満に対する性犯罪者」は約3%。「13歳未満に対する性犯罪者の34.9%に性犯罪の前科」というのと随分ニュアンスが変わる。


とりあえず、細かいことはちゃんと白書読まないと分かりません(白書はまだ読めません)。というわけで今回は、基本的には後日白書を読んでから各記事を再チェックするためにクリップするに留めときます。ただ、以前にも似たようなことを書きましたが、早速「去勢しろ」「監視しろ」という声や、性犯罪の再犯率が他の犯罪よりずば抜けて多い、というような言説も飛び交っているみたいなので、とりあえず白書が普通に読めるのはまだ先ですが、こういうときは過去のデータからヒントになりそうなのを探してみる。



平成15年度警察庁統計参照
平成16年版 犯罪白書 犯罪歴がある成人の犯罪
成人の主要罪名別検挙人員中の有前科者人員・同一罪種有前科者人員(平成15年度)
起訴された人員中の主要罪名別有前科者人員・犯行時の身上別人員(平成15年度)
平成15年版 犯罪白書 犯罪歴がある成人の犯罪
成人の主要罪名別前科者及び同一罪種の前科を有する者の比率(平成14年度)
起訴された者の主要罪名別前科者数・犯行時の身上別人員(平成14年度)





※【成人の主要罪名別検挙人員中の有前科者人員・同一罪種有前科者人員(平成15年度)】



こういうの見る限り、性犯罪の再犯率が他の犯罪と較べて多いというわけではなく、極めて平均的に見えるし、加えてやはり「性犯罪の再犯率2割」とは言えないのではないかと思ってしまう(起訴、検挙、出所後と、いくつかの統計を見る限り、やはり10%前後じゃないかなぁと思うけれど)。はてさて、「再犯率」が数値上高いと、一体誰が得をするんだろう。


既にいくつかの社説で書かれている通り、今後騒がれるポイントになりそうなのは、「13歳未満」のデータ解釈なんだろう(なんで13歳で線引きしたのかも含め)。仮に「13歳未満」を対象にした性犯罪の再犯率が他の数字より高かったとして、「元受刑者99人のうち、22%に当たる22人」のために77人も一括で扱うこととか是か非か、いきなりミーガン法(参照:ミーガン法のまとめ)などの監視ロジックを用いることがその他の社会設計のプラニングに持つ影響力も含めどこまで妥当か(子どもにGPSを持たせるCMのキャッチコピーに「安全」ではなく「安心」というキーワードが使われているのは象徴的だけど、「不安」感はどこまでもスパイラルを繰り返すし、メーガン法は性犯罪の抑止力となったかなどを見ても単に排除のロジックで終わる可能すらある)などは別の議論が必要。これは別に「性犯罪者を庇い立てする」ものではなく、私はmacskaさんの意見にほぼ完全に同意で、他者に寛容な社会であったほうが望ましいと考えたうえで、そのプラニングを吟味するという議論へと進んでいくことを願っている。



しかしこうやってみると、パーセンテージを誇張したりダメージコントロールしたりなんていくらでも出来るということが分かる(参考:私の「統計のウソを見破るカギ」)。どの新聞が、どの程度「騒ぎ癖」があるメディアなのかも分かるし。とりあえず、「初めての特集」でいきなり騒ぎ出さないこと、数字自体のコントロールではなく(仮に数字の細部にこだわるのなら、それは「性犯罪者」を一括で語るという態度と矛盾するんだから、各状況に応じたプログラムや対応の吟味をするのがいいと思う)、数字を解釈するパラダイム自体の検討を行うことがいいのではないかと思います。


※計算の誤りなどに気づいたら適宜訂正します。お気づきの点などありましたら、是非。
追記。重要なデータを発見(http://kangaeru.s59.xrea.com/G-youjyoRape.htm)。我がニッポンが世界に誇るロリコン族が絶滅してしまったのかと心配するほど壊滅的に減っていますというコメントも。