井上孝司さんへのレスポンスといくつかの補足。

「「福島瑞穂の迷言」という都市伝説について(事務所コメント付)」というエントリーを最初に書いた際、「意外な兵器輸出国 (2005/9/19) 」というエントリーにリンクを貼って批判させていただきました。後にリンク先を荒らす人が出てきたので*1、しばらくリンクをはずしておくことにしたのですが、その間にリンク先のサイト主、井上孝司さんという方から「Opinion : 続・意外な兵器輸出国 (2006/6/12) 」というエントリーでいくつかの批判をいただきました。内容についてレスポンスする前に、リンクをつけたり削除したりしたことで、不快な思いをさせたことをお詫びします。但し、井上さんには本件に関していくつか不当な批判を受けているので、いくつか反論しておきます。



まず、私が井上さんのサイトに対して行った批判は次のようなものでした。


「虚像」や「イメージ」で語ることが、「ピントのずれた批判につながる危険性をはらんでいる」ことを指摘するはずのエントリー自体が、ソースが曖昧な発言を批判したうえで「批判するならするで、まずは現状をちゃんと確認しましょうね」と呼びかけているケースも。

この批判は今でも変わりません。で、井上さんからのコメントには、まず次のように書かれています。


福島瑞穂党首の迷言」について取り上げたサイトや blog はゴマンとあるのに、その中からわざわざ、この話題を冒頭のつかみに利用しただけの記事に噛み付いたのだから御苦労な話。その理由はひょっとすると、「中立国が兵器輸出をガンガンやっている」という事実が気に入らなかったから、かもしれない*2

これは大いなる誤解です。私は「中立国」に対して思い入れは一切ありませんし、「中立国が兵器輸出をガンガンやっている」のが仮に事実でも特に驚きはないです。井上さんのサイトに言及した理由は別のところにあります。以下にその理由をご説明しますが、「鬼の首でも取ったように」「喧嘩を売ってきた」「揚げ足をとる」などのレトリックと同様、この「〜かもしれない」という部分がただ単に論争を優位に進めるためのイメージ付けのために使われたフレーズであるのならマジレスしてすみません。



私が井上さんのサイトに言及したのは、エントリー執筆当時「日本はスイスのような平和中立国を目指すべきなんですぅ」で検索すると一番上に表示されるサイトであることが一番の理由で、そこでは本を多く出版されている社会的信頼のある発言者と見受けられる方が(しかもインターネットに関する本の制作に携わっておられるようですが)、現状では裏の取れていないコピペを前フリとしながら、「イメージで物事を語るのも、ピントのずれた批判につながる危険性をはらんでいる」「批判するならするで、まずは現状をちゃんと確認しましょうね」と指摘するというアイロニカルな構図に陥っているように見受けられたからです。軍事ネタとしては勉強になるのでしょうが、それとは別に、自身が検証せずにコピペを鵜呑みにしてイメージ付けに加担していることはまずいのではないかという虚偽の表明を行ったんですね。



井上さんからはこの点に対する説明はいただいないどころか、レスポンスでいただいた「相手が相手だけに、仮に件の発言が存在していても否定しそうな気もするが、それはともかく」という部分などもこれまたイメージで語っておられて、さらに疑問を深めました。後出しじゃんけん防止も兼ねて議論のレイヤーの確認をしておくと、この批判は、仮に事後的に動画や該当発言が見つけられたとしても変わらずそのテクストに向けられる類の批判です。井上さんからいただいた返事は「私自身はイメージで語っていたのではなく、ソースをもっていたのだ」というものではなく、井上さん自身ソースを未確認だったようですから。


ところが、上記の回答をもって、鬼の首でも取ったように「そのような事実はないという返事だった」という結論だけが一人歩きする結果となっている。


という点などなどですが、私のいただいたメールやエントリーに虚偽を示すのは重要ですし、検証も当然行われるべきです*3。また、公開されたあのやりとりのみでは、テレビ朝日などの検証作業自体が不透明だという意見も理解できます*4。ただ、2ちゃんねるでも1週間ほど検証が続けられましたがこれまで動画や資料が出てきておらず、発言の真偽はともかく、これまでコピペのソースなしにコミュニケーションが継続されていたことは明らかになっています。かようにソース不明のコピペが一人歩きしていたことが明らかとなった状態*5では、懐疑をむける順序が逆かと思われます。それと細かいようですが、「2ちゃんねらーによる検証作業」などをみる限り、そういった「結論だけが一人歩きするような結果」には少なくともパフォーマンスの面で機能してはいないようですので、現状の認識がズレているようにも思います。


そもそも、当事者に問い合わせて「発言していない」という返事が来た、というだけでは客観性に疑義がある。「ホリエモンに訊いたら、違法行為はしていないという返事だったので、彼は無罪です」といっているに等しい。それに、これでは被疑者に証拠集めをさせているようなものではないか。法曹の世界で、何のために裁判という制度があると思っておるのか。
つまり、問題の「福島コピペ」について「ソースがない」といって揚げ足をとることが、結果として「ソースがない、と否定することのソースの信憑性」にブーメランのように跳ね返ってくるということを認識すべきではなかろうか。

「ソースがない」という指摘をただの揚げ足取りだと認識されるとちょっと困ります。井上さんがコピペを前フリに使って繰り広げたエントリーは、コピペの発言に対してソースを明示しつつ通俗的なイメージを批判し、イメージだけで議論をすることへの牽制を行うものであったはず。軍事ネタがメインのコラムに対し、本筋とは関係のない前フリのようなところを突っ込まれたくはなかったというのは分かりますし、仮に前フリが間違っているから専門的な啓蒙も間違っているのだとする暴力的な主張を私が行っていたのであれば、それは揚げ足取りやいちゃもんになるかと思いますが、私はそのような種類の批判を行っていませんし、私のエントリーが揚げ足取りなら、コピペにマジレスしている井上さんのエントリーも同様に揚げ足取りです。



それから、念のために事実確認ですが、私が「ソースがない」と主張したのは「当事者に問い合わせて「発言していない」という返事が来た、というだけ」ではありませんよね。エントリーをお読みになればお分かりのとおり、私は検証プロセスのほとんどを公開しており、その過程は誰もが再検討可能な状態にしてあります*6。私一人でも動画を探してみたが該当部分は見当たらず、アーカイブの確認を要求したところ*7、公開した回答をいただいたということです。というか、今回の件に関して、井上さん自らがソースなしで言及したことに対して反省するコメントや訂正*8、釈明もなしに「ソースがない、と否定することのソースの信憑性」を提示するというのは、単に不誠実なだけでなく、どうも議論のレベルを整理できていないのではないかと思います。この点についてご説明します。



まずソースの真偽確認をする際は、「あった」の証明は、動画ソースや発言の回が特定できる資料があればことたります。しかし「なかった」の証明は、「朝生」(+サンプロ)の福島出演の回の過去動画をすべてチェックしたことを、その経過とともに提示しなくてはならない。私はできる限りの経過は提示しておりますが、それでも完璧ではないため、「ガセビアと確定してよさそう」というフレーズを「今のところソースないから、コピペコミュニケーションは危ういかもよ」に訂正したわけですね。そして可能であればこれからもひとつひとつ検証しようと思っています。



つまり、論理的に考えてガセと確定することはできない。但し、ソースが確認されていない現状ではそれはあくまで「ソースなしのコピペ」であり、一連の検証作業でソースが出てこないばかりか時期も確定することができなかったことや、テレ朝や福島事務所からいただいた回答などを鑑みると、コピペが事実であることは証明できていないが、存在が疑わしいという疑問符はいくつか提示されている。だから、発言があるかないかという真偽のレイヤーで議論したい人は、存在すると証明するための動画、および放送日などの資料を提示する必要があるわけですよね。



で、井上さんの場合はちょっと議論が異なります。「ソースの重要さを説くそのエントリー自体ソースの確認を怠ってるじゃん」という指摘を受けたわけですから、かような真偽のレイヤーとは異なり、「自分はソースを確認して主張していたよ」と、自らのエントリーの正当性を証明しなくてはならなかったわけです。それをせずに色々と言葉を並べるのは、自分の間違いを値切っているようにしか見えません。それから細かいようですが、


「成城〜」、一連の逆襲に対してダンマリを決め込む   ←今ここ


催促のメールやトラックバックをいただいているわけでもないのに、2、3日返事しないだけで「ダンマリを決め込む」と決め付けるのはどうかと思います。web上の論争ではついつい数日で決着をつけようとしてしまいがちなのは分かりますが、「中の人」はネットに24時間張り付いているわけじゃないんですから。それと、これまでみてきたように、「逆襲」と呼べるほどたいしたお返事は井上さんからいただいていませんでしたし。いただいたのは、論争相手(chiki)を批判することで自分への攻撃を軽減する弁明のみです。以上で井上さんへの応答は一旦終了しますが、また言及があればそれ相応のレスポンスをさせていただきます。



最後に少しだけ、今回の件についていくつかの整理をしておきます。「ice9さんのエントリー」でお書きいただいているように、chiki自身は実は「真偽」のレイヤーのみでこのネタを使われるのは好ましく思っていません*9。私がメインの問題にしたいと思っていたのは、ソースがあるかないか、あるいは発言が真か偽かという問題ではなく、コピペのソースが求められないままに言説が一人歩きしている言説空間への虚偽が示された時に明らかになるネットコミュニケーションの基盤についてです*10。この点は機会を改めて議論できればなと思っていますので、またいずれ。

*1:当初はブログを2つ、HPを1つ紹介しており、2ちゃんねるに貼られだした頃からblogのコメント欄に突撃する人が出てきた。

*2:他のところでは「ひょっとして、成城トランスカレッジの中の人は、2005/9/19 付の Opinion が真っ向から否定してみせた「中立国 = 軍備も兵器もない平和的国家 という虚像」を維持したかったんだろうか。皮肉なもんで、「成城」がうちの記事にリンクしたせいで、「中立国が兵器輸出を盛大にやっている」という事実を目にする人が増えている。福島発言の取り扱いを足がかりにして記事全体の信用を下げるつもりだったのかもしれないけれど、そいつはリンク先やその他のソースを当たれば嘘がばれる。そういう意味では、「成城」は墓穴を掘ったかも」とも書いている。

*3:但し、あまり「大手メディアと政治家事務所がコメントの掲載を許可する、というパフォーマンスが持つ発言的な重み」のようなところに視点がいっていないのは不思議です。

*4:「テレ朝が検証した」ということをブログで書いていいというお返事をいただくまでに10日間かかりましたので、それなりにしっかりと調べたとは思いますし、社会的責任の多い機関が回答の掲載を許可したということはそれだけ検証作業に自信があるのだろうとは思います。

*5:あるいは2ちゃんねらーの検証以前にコピペ自体に疑いがかけられていた状態

*6:事実、不十分なところは批判を受けつつも、さらなる検証の手がかりとして利用していただいています。

*7:最初は自分にも見せてくれと要求しましたが

*8:あのエントリー自体の趣旨を考えると、導入部分にコピペなど使わなくても、「中立諸国といえば軍を持たない平和というようなイメージがあるけど〜」みたいに変更しても十分有意義な文章になると思うのですが。最初の部分を「裏を取れてないから変更します」とかいって訂正するのって、そんなに大変なことですか?

*9:但し、今回は私がそもそものネタ自体の火付け役になったため、真偽のコミュニケーションにもお付き合いする責任が生じます。なお、真偽の議論の枠組みでの立場を明らかにしておきますが、私自身は「発言がなかった状態にしたい」わけでは一切なく、むしろもしソースが出てくれば、それはそれで事柄を明らかにし、議論を前進させるのでよしと考えておりますし、「発言があったのになかったことにした」という方向に加担してしまうのは一番嫌なので、検証自体は重要であると考えています。

*10:いくつかのトラックバックなどでも誤解があったのでここで明記しておくと、私は「ソースが明らかになっていない発言はしてはいけない」という主張はしていませんし、これからもしません。