ジェンフリバッシングのために「約3500の実例」とか言っちゃうのは恥ずかしいからやめましょう。

一度気にしだすと、関連情報がどんどんアンテナにひっかかりやすくなっちゃうことってありますよね(汗)。というわけで、しつこくジェンフリネタです。



産経新聞の記事、「「ジェンダーフリー蔓延度」 文科省 初の実態調査通達」によれば、文部科学省都道府県教委と政令市の教育委員会に文書を通知、全国の公立学校と幼稚園の実態調査に乗り出したとのこと。まあ、特定思想を叩く口実であったとしても、そうこうしながら日本の性教育他のレベルが向上するのであれば結果オーライ。こういう「祭」を経ながら、「過激」でない、適切でかつ効果的な性教育他を対案としてしっかり吟味していければいいんじゃないかなとchikiなんかは思ったりもするわけです。



ところで、見出しの「蔓延度」などの表現はおいておくとして、気になったのが記者による背景説明の部分です。「自民党による調査でも全国から約三千五百件の保護者の苦情や告発」「自民党も並行する形で「過激な性教育ジェンダーフリー教育に関する実態調査プロジェクトチーム」が情報提供を呼びかけたところ、学校の性教育や男女の取り扱いに対する保護者らの不平不満が三千五百件にも達していた」って書かれてます。あっはっは。ウソはいけませんよ、産経新聞さん。正確には回答数が3520件なのであって、それら全てが「苦情や告発」「不平不満」じゃないでしょうが。「自民党への苦情」も含まれている、という皮肉なら分かりますが。「実例」「苦情や告発」「不平不満」と「回答数」の違いは説明不要でしょう。


ジェンダーフリー蔓延度」 文科省 初の実態調査通達

 男らしさや女らしさなど性差を否定したり、伝統文化を否定するジェンダーフリー教育が学校に持ち込まれている問題で、文部科学省都道府県教委と政令市の教育委員会に文書を通知、全国の公立学校と幼稚園の実態調査に乗り出した。ジェンダーフリー教育をめぐっては過激な性教育とともに同省が設置した「教育御意見箱」に苦情や通報があり、自民党による調査でも全国から約三千五百件の保護者の苦情や告発が相次いでいる。具体的な「ジェンダーフリー蔓延(まんえん)度」を初めて調べるもので十二月半ばまでの回答を求めている。
 今回の調査対象はすでに行われている性教育の実態調査は含まれておらず、学校における男女の取り扱いが中心。(1)小中高校などの調査項目では静岡や山形、宮城県などで明るみに出た「キャンプや林間学校、修学旅行などのさいの男女同室の宿泊」の実態(2)川崎市の高校で判明した「体育の授業や身体測定のさいの男女同室での着替え」の状況などを全国規模で調べる。
 さらに「運動会や体育祭の騎馬戦や徒競走を男女混合で行っている」「教職員や児童生徒の呼び方を男子も女子も統一的に『さん』としているか」「保護者から苦情があったか」−なども調査項目に取り入れた。
 幼稚園に対しては「桃の節句端午の節句などの行事を男女平等の観点から取りやめているか」などを調査する。
 文部科学省では三月から五月にかけて「教育御意見箱」を設置。手紙や電子メールなどで全国の保護者などからジェンダーフリー教育に関する苦情が数百件に及んだ。
 自民党も並行する形で「過激な性教育ジェンダーフリー教育に関する実態調査プロジェクトチーム」が情報提供を呼びかけたところ、学校の性教育や男女の取り扱いに対する保護者らの不平不満が三千五百件にも達していた。ただし、調査はあくまで今年度以降の現状に関する調査ですでに見直しが施された場合は回答に反映されない。
 同省では「児童生徒の発達段階を無視するなど不適切な事例があれば指導が必要だが、そのためには調査結果を受けてさらに個別に詳しく実態を調べる必要があり、調査には時間がかかる」としている。
産経新聞) - 11月11日2時48分更新


この記事はもしかして、自民党自体が「約3500件の実例」とか言っているから鵜呑みにしたのでしょうか。それともPTが配布した「県別事例集」には目を通したうえで、わざと言っているのでしょうか。どちらにしても、このままだと「御用記者」って批判されちゃいます。



このように懐疑を示すのは根拠ないことではありません。そこで、実際集まった回答ってどんなものだったのか、ソースを用いて検討してみようと思います。ただ、ようやく「県別事例集」をゲットしたのはよいのですが、重すぎてうp出来ません(汗)。紙にして全150ページ、データにして約10M近くあるので、代わりにスクリーンショットで紹介しつつ吟味してみます。但し、ソースを明示する前に断っておくと、仮にこれらのソースが存在しなかったとしても、「3500の回答」を「3500の実例」とか言っちゃうのはどうなのよ? と疑いを持つことは、多少のリテラシーがあれば誰でも可能だと思うのです。ではソースに移りましょう。




まず、前書きのようなもの。




ここでも「約3500の実例」とか言ってますね。続いて、目次。







まず、一番最初の「全国の主な事例」のところには、自民党HPでも紹介されていた、特に強調したい「実例」が紹介されています。で、その後の「県別」の方には、集まった意見を淡々と紹介していますが、そちらの方には、自民党アンケートの目的に反するような声(自民党が批判するような性教育はむしろ必要だ、そんな「実例」は存在しない、云々)がいくつも並んでいます。さて、議員さんはこれら全てに目を通すでしょうか? 最初の「主な事例」を読んで終了、或いは自分の出身地だけ読んで終了、あるいは八木秀次さんの説明を聞いて終了、じゃないですかね。ただ、アンケート自体がバイアスがかっている、最初にジェンフリバッシングの目的ありきな「プロジェクト・チーム」なので、ここまでは想定の範囲内



次に内容を見てみましょう。まず、回答の多くは、同室着替えや同室宿、騎馬戦など、あるいは現場の裁量に委ねられている性教育の改善を求めるもの。これらは改善の検討が必要でしょう。最も、それらをジェンダーフリーのせいにするのはどうかと思いますが。ジェンフリフェミニズムが同室着替えを望むわけないでしょうし、むしろジェンダーフリーフェミニスト男女共同参画の立場から批判を受けるであろう「実例」である点に注意されたし。で、残りの多くは、「ジェンフリ自民党のいうものであるなら反対」「伝統も大事にして欲しい」「性差否定はいか〜ん」的な意見や感想(性差否定じゃないっての)。それらの中には、推測や伝聞の情報が多く混じっているので、実例――広辞苑によると、「実際にあった例」のこと――とは言い難い。これだけでも、「約3500件の実例」、すなわち「実際にこんなケースがあるよ」という回答が約3500件という表現は間違いだと分かる。



では、デイリー自民のように「約3500件の実例」とすることが間違いだとして、産経新聞のいうように、「学校の性教育や男女の取り扱いに対する保護者らの不平不満が三千五百件にも達していた」かどうか。つまり、「回答」の全部が「実例」じゃないとしても、それら全ては「行き過ぎた性教育」や「ジェンダーフリー」への「不平不満」「苦情や告発」であったかどうか。これも間違い。具体的に見ていきましょう。例えば、









など、「そんなのないよ」「特に問題じゃないよ」とする意見や、







「同室着替えって、ジェンダーフリーとかじゃなく設備の問題だよ」とする意見。また、








「今のままでよくない?」「ジェンダーフリー別によくない?」とする意見のほか、










「むしろ、もっと必要じゃない?」「自民党の態度ってどうなの?」という意見もあります。



これら全てを「学校の性教育や男女の取り扱いに対する保護者らの不平不満が三千五百件にも達していた」とひっくるめられるわけないでしょう。ついでに、数えて見ると、3500件に達してないし、「約3500」と言うのも無理があることもわかります。産経新聞さん、ジャーナリズムの仕事は、党の発表をそのままトップダウンすることじゃないでしょうから、ちゃんと調べてください(汗)。というかむしろ、これだけバイアスのかかったアンケートにも関わらず、これだけの「異論」が集まったことに驚くべきじゃないだろうかと。




また、集まった「意見」には以下のようなものもあります。







突如として登場するメディア有害論と規制論。慎重な議論が必要な情報規制の問題を、「並べて欲しくありません」とかふいんき(←なぜか変換できない)で語るだけの投書も「事例」や「実態」に含めるんでしょうか。「いろんなところでみんなが(ゲームが悪いと)言ってるし」とかをゲーム規制の根拠にしている神奈川青少年課と同じことを国家レベルでやらないでくださいね。また、そのほか、






など、「これってまずいのかなぁ」「これは一概にまずいとは言えなくね?」と首をかしげるようなものや、







つくる会会長&名誉会長コンビの煽りを真に受けたのか、とてもアツイもの。それと、
















と腰砕けになるもの。せめて起きて告発してください(笑)。その他、そもそもアンケートと全く関係の無いものもあり、「これらも《実例》にカウントしてるの?」とたいそう疑問。




さて、このように3520の回答の中には色々な意見があるわけで、「約3500件の実例」「不平不満が三千五百件」とネガティブな形で一括して呼ぶことは不可能。というわけで、「さっきの記事」の表現はダウト。今後、同様の表現を見かけたら、「はいはい、ダウトダウト」と自信をもって嗤いましょう。




ちなみに、どのような意見が何割で…という計算をしようかとも思ったけれど、このエントリーは別に数を値切ることが目的じゃあないのでやめました。むしろ、これら様々な意見が集まったにもかかわらず、自らの都合の良いところだけを利用とするその手続きを明らかにしたかったので、とりあえずこれにて終了。どのような「都合」かは、改めて指摘するまでもないでしょう。



それから、数ある「ジェンダーフリー反対」の内実を見ると、むしろ「ジェンダーレス反対」というものがほとんどであることが分かります。というか、ジェンダーフリー(性差によるバイアスからの自由)はジェンダーレス(性差否定)には反対するでしょ。形式的に平等に扱い、均質化しようとすると、ジェンダーによるバイアスを見落とし、むしろ性差別を助長するんだから。「キャンプや林間学校、修学旅行などのさいの男女同室の宿泊」や「体育の授業や身体測定のさいの男女同室での着替え」を、セクハラなどを問題視するフェミニストや、ジェンダーによる弊害を減らそうとするジェンダーフリー論者が求めるわけがない。無論、これらの「声」を有効活用することは、ジェンダーフリーを掲げている方も望むところではないかと思われます。



但し、自民党の実態調査、ならびにこれから行われる予定の文科省の実態調査は、動機はともあれ、試みとしては良い。性教育について大々的に吟味するよい機会ですし、今回アンケートに答えた方の多くが望んでいるのも、党派同士、思想同士の鍔迫り合いではなく、教育の改善でしょうから、集まったデータや意見は吟味に値する。でも、その動機、意見回収の手続き、およびそのデータの解釈にはすんんんんんっごく疑問。最近の「ジェンフリ祭」を受けて、個人がブログ上で「バカフェミ」や「糞サヨ」をバッシングすることは別にいいんですが、国家単位でそれらを行い、しかも集めたデータをそのためだけにしか使わないのはそれこそ税金の無駄。最初にも言ったように、特定思想を叩く口実であったとしても、そういう「祭」を経ながら日本の性教育他のレベルが向上するのであれば結果オーライ、という方向にせめて流していってほしいな、と思います。



【続き的なエントリー】
http://d.hatena.ne.jp/seijotcp/20060305