毎日新聞の「ダム底セシウム」記事について、いち委員としての意見

9月25日の毎日新聞朝刊にて、「ダム底 高濃度セシウム 福島第1周辺 10カ所8000ベクレル超」と題された記事が掲載されました。この記事の中に、多くの誤りが含まれていると、ウェブ上で複数の方々が指摘していました。
http://togetter.com/li/1029155


毎日新聞は何度か小さな訂正記事を掲載しましたが、対応が不十分だったことから、「開かれた新聞委員会」で紙面審査を行うことになりました。「開かれた新聞委員会」は、紙面上に何かしらの問題があると議題化された際、それに対して「意見」を述べる組織です。


開かれた新聞委員会とは
http://www.mainichi.co.jp/corporate/hirakareta.html


「開かれた新聞委員会」で審査の対象になるということは、毎日新聞がこれまでの訂正では不十分であり、再発防止に努めるべき案件と認めていることが前提です。こうした対応をとるに至ったということは、読者の方からの「外からの指摘」も、記事を問題視した記者ら「内からの指摘」も、相応の機能を持ったということです。審査の結果、改めての訂正趣旨説明と、各委員のコメントが、本日・11月17日の紙面上に掲載されました。以下がそのURLです。


委員会から 「ダム底にセシウム」の訂正 専門記事、チェック徹底を
http://mainichi.jp/articles/20161117/ddm/012/070/134000c


記事上には、各委員のコメントが一部だけ紹介されていますが、具体的にどのようなコメントだったのかの全文は紹介されていません(編集権は毎日新聞にあるので、それは構いません)。そこで、私個人が毎日新聞社に寄せたコメントの全体を以下に掲載します。

***

原発事故以降、多くの人が、放射性物質や被曝を巡る議論に大きな関心を寄せています。そして多くの市民が、被曝をめぐるに状況認識をめぐって、大きく分断されるという状況が生まれています。そうした中、メディアに期待されているのは、確かな根拠に基づく記事を配信することです。
今回、毎日新聞は、一面トップおよび解説コーナー等において、複数の誤報を行いました。ウェブ上では、記事についてすぐさま多くの反応がありました。専門家を含む多くの読者が、記事の問題点を指摘していたのです。それらの指摘は、Twitterアカウントを持つ毎日新聞記者の元にも届いており、専門知を持つ記者個人がそれに対して説明する場面もありました。
そうした中、訂正コメントが複数回にわたって出されました。しかしそれらは、ウェブ上のタイムリーさに反し、とても遅い対応でした。また、いずれのコメントも、その訂正によって記事の趣旨がどう変わるのかという説明がなされておらず、わかりづらいものとなっていました。数字を誤って伝えた結果、実際以上に不安を煽る内容(センセーショナリズム)になっていたにも関わらず、訂正によって文脈や趣旨がどう変わるのかという説明がなされていないためです。さらに、一面トップなどででかでかと紹介された記事のインパクトに比して、訂正コメントそのものが目立たず届きにくいという問題点もありました。加えて、外部から指摘された疑問に対して、応えきれていないという問題も残ります。
今回、開かれた新聞委員会あてに、毎日新聞より、この問題を社内検証した報告書が提示されました。私からは、まずはこの報告書を元に、読者に経緯の説明をしっかり提示すること、特にウェブメディアを通じて丹念な報告を行うことを求めます。その際には、さらなる疑問点が読者から寄せられることを想定されますので、それにも応答することを求めます。
但しこの報告書では、再発防止については書かれているものの、本件に関する信頼回復について触れられていません。今回の検証、および開かれた新聞委員会からの応答がその一環として期待されているのは承知していますが、例えば「毎日メディアカフェ」のような場所で、記者と専門家・読者とがオープンな議論を行い、その模様を中継・レポートするといった、より開かれた試みも模索してほしいと思います。
今回は、SNSなど、開かれたメディアからの指摘によって、不十分ながらも訂正が行われるという経緯がありました。そうした集合知の役割は重要ですが、さらに自主努力により開かれた場所を設けていくことで、本件に関心を寄せ、意見をくれた読者の方々の信頼を得る試みが重要であると思います。今回の「誤報」をたたき台として、記者と読者が放射性物質や被曝に関する基礎知識・現状を改めて学び直す機会を設けたり、それを記事化するなども重要でしょう。
もうひとつ、報告書で触れられていない論点について指摘しておきます。記事中に「専門家」のコメントもありました。いかなる「専門家」を選ぶのかという段階からして、そのメディアの特色が出ますし、記事の方向性にも大きな影響が出ます。また、コメントをとる際、「専門家」に、記者がいかなる情報を与えるのかによっても、コメントの質が変化します。さらには「専門家」が一時間レクチャーしても、記事になるのは数行であり、内容の事前確認がされないというケースもあるため、専門家の意図、専門知に基づくポイントが適切に反映されないこともしばしばありえます。日々の紙面づくりの中で、記者たちが時間に追われるあまり、「本人に原稿チェックをしてもらう」という文化が、新聞ではおろそかにされがちです。私自身、しばしば取材を受ける立場ということもあって、その点も、今後の課題としてもらいたいと思います。

***

記事上では私の「意見」が引用・紹介されていはいますが、いくつかの具体的提案に対しては応えられてはいません。委員には、これらの提案を強制する権限は与えられていませんが、今後も議論を通じて、より「開かれた」対応を行うよう求めていきたいと思います。

相模原障害者施設殺傷事件をめぐる報道について

相模原障害者殺傷事件を受け、厚労省が再発防止のための検討チームを設けました。検討チームにはぜひ、冷静かつ有意義な議論を期待します。個人的雑感を兼ねて、7月29日の東京新聞「紙つぶて」に寄稿した原稿をアップします。



相模原でおきた障害者大量殺傷事件。とても恐ろしい事件です。背景には謎も多く残りますが、報道に触れる際には、注意しなくてはならないことがあります。
今回の容疑者は、「障害者なんていなくなればいい」と語っていたと報じられています。こうした発言は、典型的な優生思想に分類されます。優生思想とは、命を選別し、「劣った」とみなされた命は淘汰して構わないとする考え方です。容疑者がどうしてこうした差別意識に「感染」したのか。差別的言説に「感染」しやすい環境がなかったか。問い直す必要があります。
こうした事件が起きると、容疑者の心理状態や過去の略歴などに焦点が当たりがちです。なかでも、容疑者が特定の疾病を患っていたこと、措置入院の経験があることに注目が集まっています。福祉の議論は重要ですが、現段階で安易に疾病等と結びつけるべきではありません。特に、「なぜそんな危険人物を野放しにしたのか」といったような反応は危険です。そうしたことを口にした段階で、特定の疾患を持つ人は、あらかじめ隔離すべきという優生思想を肯定することになるからです。
容疑者の声明文を淡々と紹介する報道にも違和感があります。言うなれば、悪質なプロパガンダを注釈なく放送し続けるようなものだからです。間違ってもセンセーショナルに取り上げるべきではありません。その声明に誤って賛同する人がでないよう、丁寧な批判を加えることが不可欠です。冷静な報道を求めます。
7月29日の東京新聞「紙つぶて」より


以下、補足です。


まず前提として、今回のような事件は、戦後犯罪史のなかでもかなり特異なケースです。他方、この事件および事件についての語りが、結果として浮き彫りにした課題もあります。そうした中、犯罪報道の多くは、「その段階で分かっている材料」のうち、それらしいテーマをピックアップして、「原因探し」をします。今回はその結果として、「措置入院」等がクローズアップされることになりました。その論点化がまったく無意味だとは言いません。ですが、その集中報道の結果として、「精神疾患=危険」というイメージを拡散することになっているように思えます。


かつて、池田小学校児童殺傷事件の際にも、特定の疾患と結びつける報道が行われたことで、多くの当事者が報道に傷ついたという調査結果(PDF)もあります。今回も、報道をみた当事者が、恐怖を覚えたり、自尊心を傷つけるようなことがないよう、報道の際には注意が必要な事件です。にもかかわらず、そのような声は、今回の報道にあまり生かされていないように思います。一例として産経新聞は、社説において、池田小事件と結びつけ、措置入院の見直しを強調しました。ここまで露骨でなくとも、類似構図の報道は他メディアでもみられました。報道面の課題も、もっと議論されてほしいと思います。


この事件についてはラジオでも大きく取り上げました。シノドスにも、NPO日本自立生活センター自立支援事業所の渡邉琢さんにご寄稿いただきました。長文ですが力作ですので、ぜひご高覧ください。

「亡くなられた方々は、なぜ地域社会で生きることができなかったのか?――相模原障害者殺傷事件における社会の責任と課題」
http://synodos.jp/welfare/17696


また、EテレハートネットTVはウェブサイト上で、各当事者団体の声明を紹介しています。多くの団体が、報道機関への要望を記していることの重みをしっかりと受け止める必要があります。

http://www.nhk.or.jp/hearttv-blog/3400/249882.html

熊本地震に関する流言等のまとめ・その3

熊本地震に関する流言のまとめ、簡易版熊本地震に関する流言のまとめ・その2の続きです。

  • 画像付き犯罪流言

他県ナンバーで白 軽トラ
解体した家から沢山の物を窃盗しています!
携帯ではなくiPodで撮ったため画質が悪いです(T_T)
許せません!拡散して下さい!
場所は熊本 益城町です。


なぜ警察に通報するのではなく「拡散して下さい」なのか。それに応じて拡散してしまう人が大勢いるのか。多くの疑問を抱くべきツイートです。ここで紹介されている画像は、全く異なる時期の動画のキャプチャでした。なお、元の動画でさえ、それが「窃盗」であるかどうかの裏は取れていません。別動画からあえてキャプチャをとることから、意図的な流言化であると思われます。

  • 熊本県災害情報」を名乗る悪質デマアカウント

【悪質】「熊/本/県/災/害/情/報」を名乗るデマアカウントがデマ垂れ流し中。潰すべし!(スパブロ手順添付有り)
大津波警報が発令されている」といった流言の他、「先ほど入った情報によりますと北朝鮮からミサイルが発射された模様です」「中国人が略奪を繰り返しているぞ!」といった投稿に加え、煽りや差別的言動を繰り返していました。現在はアカウントが凍結されています。

  • 地元で拡散された流言

4月27日の読売新聞朝刊では、地元で拡散された流言として、「2時間以内に大きな地震がまた来る」「国道の代替ルートが開通した」「某物資集積場に行けば何でももらい放題」といった内容のものが取り上げられていました。発災時、地域によって拡散される流言の種類が異なることは東日本大震災時でもそうでした。例えば佐賀新聞は、「ネットのデマ拡散防止」という記事で、「佐賀でも震度7地震が起こる」という流言が拡散したことを取り上げていました。その地域の人々にとって、より重要なテーマの流言が拡散されるという現象は、東日本大震災でも確認された現象です(拙著『夜の経済学』参照)。今はその拡散に、SNSやメール、メッセンジャーアプリなどが利用されやすいという変化も加わっているわけです。

  • 「福島から熊本へ送られた畳が利用されていない」?

福島県畳工業組合が、多くの畳を支援物資として被災地に送ったというニュースがありました。このニュースについて、「福島から熊本に送られた畳が誰も利用していない」といった趣旨のツイートをする方が登場。それに対し、実際に使われていると証言する人が現れました。元ツイートは現在、読めなくなっています(別のまとめに対するはてなブックマークの反応)。


  • その他のtogetterで検証

中央構造線と活断層と川内原発:仰天地図を検証する
「震度を示す九州の地図から、鹿児島県だけを消し去って地震情報を伝えていた」と本気で思い込んだのなら潮時だ。言論人をやめたほうがよい。
川内原発の危険性を強調するための地図が拡散された件と、「川内原発の立地している地域の地震情報が隠されていた」と拡散されていた件のまとめです。



※5月17日 21:42 一部、追加取材のため記事内容を修正しました。

熊本地震に関する流言まとめ・その2

熊本地震に関する流言のまとめ、簡易版の続きです。

  • 犯罪流言について熊本県警が注意呼びかけ




犯罪増加流言等について、熊本県警が注意を呼び掛けています。犯罪に注意するにこしたことはありません。しかし、注意喚起のために、不確かな流言を利用する必要はありません。


参考として、「東日本大震災における助け合いと犯罪」(『大災害と犯罪』、2103)によれば、東日本大震災の際には、2010年1月〜6月と、2011年1月〜6月とを比較した場合、岩手・宮城・福島では、重要犯罪・窃盗犯・強姦などは減少します。侵入盗は、福島で増加、宮城・岩手では減少しています。外国人犯罪については全国データしかありませんが、こちらも減少しています。


大災害と犯罪

大災害と犯罪


流言によって、県警に対する問い合わせが発生しているという記事もあります。

不安あおるデマ情報、冷静対応を 県警呼び掛け2016年04月22日
熊本地震の発生直後から短文投稿サイト「ツイッター」などのインターネット上で、不安をあおるデマ情報が飛び交っている。県警は21日までにこうしたネット情報約40件の相談や通報を受け、パニックに陥らないよう注意を呼び掛けている。
県警によると、地震直後から「熊本市動植物園のライオンが逃げた」「大型商業施設が燃えている」「川内原子力発電所が爆発した」といった捏造[ねつぞう]情報が広がった。
消防団になりすまして強盗をしている」「女性への乱暴が相次いでいる」などの犯罪情報の書き込みもあるが、県警は具体的な被害を確認しておらず、デマ情報とみている。震災義援金を福岡県の会社名義の口座に振り込ませようとする例もあった。
被害が甚大な南阿蘇村の男性職員(41)は「多くの被災者がつらい避難生活を強いられる中、不安をあおるだけの情報を流すのは許せない」と憤る。
県警サイバー犯罪対策課は「不確かな情報をうのみにせず、報道や行政からの情報で確認し、冷静に対応してほしい」としている。(藤山裕作)
https://kumanichi.com/news/local/main/20160422008.xhtml

熊本地震熊本県警に「デマ通報」問い合わせ40件 「確認に時間が割かれる」と困惑
同県警には21日午後5時までに、地震関連で110番通報や警察署への電話など「デマに関する問い合わせ等」が約40件あった。「事実と異なる通報でも、真偽を確認する作業に時間を割かれることになる。拡散する前に、必要な情報は信頼できる情報から確認を取るなどした上で判断してほしい」と要請している。
一方で、車の中に誘い込まれそうになったり、不審者につきまとわれたりする事件も発生しており、同県警は注意を呼びかけている。
http://www.huffingtonpost.jp/2016/04/22/kumamoto-police_n_9755466.html?ncid=tweetlnkjphpmg00000001


以下のチラシは、熊本県警が実際に行っている注意喚起です。



災害時には、義援金詐欺やリフォーム詐欺等、便乗型の犯罪発生もあるので、「増加」という表現については、こちらのほうを注意喚起するのが望ましいでしょう。また、性犯罪など、相談がしにくく暗数が不透明なものもありますが、「増加」というフレーズを用いて煽るよりも、適切な相談先をアナウンスするなどの対応がいいでしょう。

  • 焼肉騒動

「4月20日西原小学校にて朝11時より肉100キロ焼きます」という書き込みが、一時ネット上で拡散されました。



これに対し、西原小学校が否定する注意喚起を行いました。

2016/4/19(火)9:11:33
【注意】SNSの情報にご注意を!
2016/4/19(金) 昨夜からSNS等で「4月20日西原小学校にて朝11時より肉100キロ焼きます」という内容の投稿が拡散されていますがそのような事実は一切ございません。またその件についてのお問い合わせが昨夜から多数あっており、学校・避難所としての本来の業務に支障を来しています。もしもご友人間等でこの件が話題になりましたら「事実ではない」ということをお伝えいただきますようお願いいたします。



この件について、投稿主とされる方はその後、「学校側の方に相談をせずにフェイスブックにて焼肉のことを広報してしまいました(…)この私の独断による広報によって、避難所である小学校の電話は問い合わせてパンクするほどになり、その電話の対応のために避難所として必要な活動が妨げられ、深夜に及んで対応してくださった先生方やボランティアの方にはなんとお詫びをしてよいのかわからないくらいのこととなっております。また、焼肉のことを聞き、楽しみにしていただいてた方々に対しましても、結果としてこの情報がデマとなってしまいましたこと、まことに申し訳ございません」と書き込みしています。


http://togetter.com/li/964043

「ただいまヤマト運輸株式会社では、九州地方を中心とする震災発生に伴い支援物資輸送協力隊を結成いたしました。支援物資の輸送等の依頼は当アカウントのDM投稿から並びに不明な点の質問にもお答えしております。今こそ1つの輪を築き上げましょう!負けるな九州!」


そもそも文章が変であったり、支援物資の依頼をツイッターでのDMで受け付ける点など、おかしな点だらけでした。4月17日時点でヤマトは、「熊本県内での宅急便の集配状況について」として、以下の文章を掲載していました。

いつもヤマト運輸をご利用いただきまして、ありがとうございます。
熊本県を中心に発生している「平成28年熊本地震」に伴い、熊本県と宮崎県の一部地域に向けたすべての荷物(宅急便・クロネコDM便など)の荷受けを一時的に中止させていただいておりましたが、本日4月17日13:00より宮崎県の一部地域(西臼杵郡全域、東臼杵郡 椎葉村)への荷受けを再開いたしましたので、お知らせいたします。
なお、熊本県向けの荷物の荷受けおよび、熊本県全域での集荷と店頭での荷受けについては引き続き中止しております。
お客様にはご迷惑をお掛けいたしますが、何とぞご了承いただきますようお願い申し上げます。
また、熊本県全域以外の九州地方を発着する荷物のお届けにつきましては、一部地域で遅れが生じております。
お届け遅延の詳細につきましては、弊社ホームページの「お荷物のお届け遅延状況について」(http://www.kuronekoyamato.co.jp/chien/chien_hp.html)をご覧ください。


なりすましアカウントは、現在はクローズドアカウントになっています。


  • 政府はオスプレイの宣伝のため、チヌークを使わなかった

『オスプレイのために自衛隊のヘリは一日遅れさせられた』というデマを流したくて仕方がない人たち
オスプレイ批判のために拡散したものですが、実際にはCH-47チヌークは活用されているという検証結果がまとめられています。


災害対策本部の資料(http://www.kantei.go.jp/jp/headline/pdf/20160417/giji7.pdf)でも、CH-47に関する記載があります。



九州電力の知人からの情報」という、流言に定番の枕詞がついていますが、ソースは一切ありません。

  • 中国でも地震懸念流言

中国地震台ネットワークセンターの潘懐文主任らが18日、記者会見し、九州で相次ぐ地震の影響について「統計的に判断して、短期間に中国で強い地震が起きる明確な状況にはない」とし、中国でも地震が起きる可能性が高くなっているとの見方を否定した。
中国社会では今回の地震で中国大陸の活断層が刺激を受け、強い地震が誘発されるのではとのうわさが広がっていた。記者会見には不安やデマを抑える狙いがある。
http://www.sankei.com/world/news/160418/wor1604180033-n1.html


※適宜更新するかもです

熊本地震に関する流言のまとめ、簡易版

熊本地震の発災以降、多くの流言がネット上に拡散されました。それらを網羅的に収集するつもりはありませんが、代表的なものを簡単に整理しつつ、改めて注意喚起をさせていただきたいと思います。

  • 被害を誇張する流言

災害時には、非日常的な環境変化によって気分が高揚するためか、被害を誇張するタイプの流言を拡散する人が後を絶ちません。熊本地震では現在のところ、「動物園からライオンが逃げ出した」「川内原発で火災が発生」「ショッピングモールで火災が発生した」といった流言が確認されています。最初のツイートを行った人たちは、まったく無関係の画像を貼りつけていることから、本人の投稿意図としては「ネタ」のつもりなのかもしれません。しかし、無用な問い合わせの電話等を増加させるなどすれば、様々な支援現場の足を引っ張ることにもなりかねず、悪質です。



熊本地震のデマ、ネットで出回る 安易な拡散には注意を
デマツイートにご注意を!「ライオンが逃亡」…ご丁寧にニセ写真付き 「朝鮮人が井戸に毒を投げ込んだ」など悪質
ライオン脱走、井戸に毒……。地震関連デマ。「業務妨害罪になりうる」と弁護士
「ライオンが逃げ出した」「川内原発で火事」Twitterでデマ拡散【熊本地震】
熊本地震のデマ、大手メディアも報道 イオン火災、ライオン逃走…
地震でイオンモール熊本クレアが火災!?

  • 災害再来流言

既に報じられているように、これからも大きな揺れが継続する可能性が高いため、警戒が必要です。しかし、「○月○日により大きな地震が来ます」といった、根拠のない予言で煽る流言には注意が必要です。東日本大震災の際にも、「【拡散希望】阪神淡路大震災は二時間から三時間後に最大の揺れがきたので、気を緩めないでください」といった流言が拡散されたり、地震予知で周囲を煽る人が存在していました。現代の科学では、そのように正確な地震予知はできません。災害に備えるのに、流言は不要です。

  • 外国人憎悪を煽る流言

外国人犯罪流言」とも似ているのですが、熊本地震では、「朝鮮人が井戸に毒を入れた」等といったツイートをする者が複数人、確認されています関東大震災時に拡散した流言をコピペしたもので、投稿した人は「冗談」のつもりかもしれませんが、流言の拡散であり、ヘイトスピーチにほかなりません。こういう書き込みを「冗談」で投稿できてしまう人が多数いることは、平時からのこの社会の問題とも言えます。

  • 政治的対立を煽る流言

東日本大震災の際には、「民主党議員が講演の場で、地震が起きてラッキーと発言した」といった流言などが発生しました。今回も、左右の政治的対立を煽る流言が発生しています。例えば熊本地震では、炊き出しをする自衛隊員の横で、自衛隊反対派が抗議をしている、という旨のツイートが行われていました。



しかしそこで紹介された画像は、2012年9月2日に行われた防災訓練への抗議の模様でした。元々の抗議そのものの賛否は色々あるでしょうが、時期が異なる画像を並べることによって、誤った印象を与えるツイートは、流言に他なりません。


この他、以前から流言であると確認されてきた、「辻元清美議員が、阪神淡路大震災時、自衛隊活動を妨害したという趣旨の書き込みが再拡散していました。



この流言については、既に下記のエントリで検証済みです。


東日本大震災時に拡散された「辻元清美が阪神淡路大震災時に反政府ビラを配っていた」という流言について
東日本大震災時に産経新聞が拡散した政治流言の再検証

  • 「支援呼びかけ流言」に注意するために

東日本大震災の際には、「【拡散希望】○○町で支援物資が不足しています、すぐに●●を送ってください」といった仕方で、誤った支援情報が拡散してしまうことがありました。正しい支援について考えるのは難しいですが、不確かな情報の拡散により、「善意の無駄遣い」をしてしまうのは避けなければなりません。そこで、少しでも何かのヒントになればと思い、3月に発売した拙著『災害支援手帖』(木楽舎)を、以下のURLで無料で全文公開しました。


http://books.kirakusha.com/saigaishien/


また、「かつてどんな流言が拡がったのか」を知ることは、これから発生する流言に対して身構えやすくなるためにも有効だと思います。当ブログの[流言飛語]タグでは、災害に関する様々な流言も紹介していますので、参考にしていただければと思います。震災関連の流言は、下記の本にもまとまっています。


検証 東日本大震災の流言・デマ (光文社新書)

検証 東日本大震災の流言・デマ (光文社新書)


※続きです
http://d.hatena.ne.jp/seijotcp/20160423/p1

「外国人留学生のせいで避難所が閉鎖」流言の再検証

※予めお断りしておきますと、このエントリは特定個人を非難することが目的ではありません。「次の災害」の際などに流言が再拡散し、排外的な動きを助長したり、現場の共生を疎外することがないようにするため、改めて検証結果を掲載しておくことが重要だと思い、エントリを立てた次第です。


さて、東日本発災後から数日後、「避難所用救援物資を根こそぎ、近隣の外国人留学生(中国韓国で七割強)が運び出してしまい、避難所の機能停止により閉鎖」という流言が拡散しました。それから5年経った3月11日、一部でこれを「デマではなかった」と主張する動きがありました。そこでは、マナーの悪い外国人避難者や留学生が存在したことや、コミュニケーション上のトラブルがあったことを指摘するレポートが根拠として挙げられています。レポートには、確かに次のような言葉が引用されています。

「外国人避難者についての課題は,(1)避難所に持ち込んだ寝具や食器,自転車等を置きっ放しで避難所を後にしたこと,(2)言葉が通じない,という2点があげられる。(1)については一か月半過ぎたところ処分し,(2)については,避難所での炊き出しや注意事項を周知することが難しかった。しかし,学生ボランティアが通訳を申し出てくれたことや,拡声器や大声で避難者に呼びかけることで日本語でもどうにか伝わることも実感した。」
「体育館に避難していた 30 代とみられる夫婦から,外国人避難者が食べものを散らかしているという苦情があった。確かに,食べ残しのある食器などを避難所の床に置きっ放しにしている様子などが見られた。また,外国人避難者が避難所内のストーブのまわりを占拠している様子なども見られた」
「三条中ではトイレの使用法が滅茶苦茶で,使用法の表示をしたり呼びかけをしたりしても改善されませんでした。避難所を閉鎖した後のトイレ掃除は本当に大変でした。また,外国人が避難所に毛布,自転車,バイク等を置いたままにして引き取りに来ないので,その処理にも苦労しました」
伊藤芳郎・朝間康子『外国人避難者と災害時多文化共生』


但し、「外国人避難者との共生に課題があった」「外国人のマナーの悪さを指摘する人がいた」ことをもって、「避難所が閉鎖した」「略奪があった」等との書き込みが「デマではなかった」とはなりません。こうした正当化は、前に別エントリで、「"部分的な正解"へのこだわり」と分類したものに当たると思います。要は「当たってる部分もあるから流言ではない」というメソッドです。しかし、重要な部分が真実でなく根拠不確かなのであれば、「(断片な事実を元に構成された)流言」という評価が妥当となります。

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2015年も、大変お世話になりました

もう2015年も終わりですね。ありがたいことで、今年も様々なお仕事をさせていただく機会を得ました。普段はあまりメディア露出告知などをしないため、自分でもどんな仕事をしたのか網羅的に振り返ることなどできないのですが、いくつか印象的なものをピックアップしたいと思います。

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