『アイ・アム・レジェンド』と『悪魔のいけにえ2』
1月をホラー映画月間と勝手に決め、ゾンビ映画を中心に淡々とホラー映画を観ていた。ジョージ・A・ロメロのゾンビシリーズやそのパロディである『バタリアン』シリーズ、サム・ライミの『死霊のはらわた』シリーズなど、いつか観ようと思っていた映画をここぞとばかりに。おかげで夜に歌舞伎町あたりを歩いていると、ネオンに照らされた人たちがゾンビに見えてくるから困る。
ゾンビ映画を中心に観ようと思ったきっかけは『アイ・アム・レジェンド』。前半は「もしもゾンビだらけの世界に一人になったら」というシチュエーションを面白く思いつつも、後半の唐突な(神視点を借りるたうえでの)英雄語りに違和感を持ったためだ。ゾンビの大群が人間に対し「そちら側にいやがって、お前も平等に苦しめ」と怒りをぶつけるかのような描写や、社会性を保つために「遠くにいる誰か=自分自信」へのメッセージを港で呼びかける描写などはとてもよかったのだけど、最後に強引にヒロイズム的なストーリーに回収する必要があったのだろうかと。
いくつかのゾンビ映画をみつつ、未読ではあるが、原作である『吸血鬼』のあらすじをウィキペディアでみてみると、その違和感がなんとなく言葉に出来た気がする。
1970年代、人間を死に追いやった後に吸血鬼として甦らせる吸血ウイルスが、世界中に蔓延した。人類が滅びる中、ただ一人生き残ったロバート・ネヴィルは、夜な夜な自分の家の周囲に集い、騒ぎ立てる吸血鬼たちと孤独感に苦しみながら、昼間は眠る吸血鬼たちを狩り出して杭を打ち込みながら、生活必需品の確保と吸血鬼退治の方法を研究し続けるのだった。そんなある日、ネヴィルは太陽の下で活動する女性を発見し、自宅に引きずり込む。ルースと名乗る女はやがて自分がスパイであること、そしてネヴィルにこの場所から逃げるように告げて姿を消すが、ネヴィルは結局自宅に留まり続ける。
そしてある夜、暴走族のような集団がネヴィル邸を襲撃し、周囲に集っていた吸血鬼たちを殺戮し、抵抗するネヴィルを痛めつけて連行する。彼らは吸血ウイルスに冒されながらも生き残り、新たなコミュニティを形成する「新人類」であった。そしてネヴィルは、彼らが処刑されようとする自分を見る目に恐怖が宿っていること、そして自分が"人々が寝静まった頃に街を徘徊し、人間を殺戮しまくる異形の怪物"であることに気づく。「俺は、今では、伝説の怪物(Legend)なのだ」
ウィキペディア:『吸血鬼』
価値体系が反転し、ファシズムや共産主義的な世界へと塗り替えられる恐怖を描く原作だったのが、「グラウンドゼロ」を露骨に意識したニューヨークで、襲い掛かる怪物たちを倒してアメリカを救う英雄という映画になっている模様。えー。原作の方がいいじゃん!
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個人的にはゾンビ映画は、「ゾンビ化」がメタファーとして機能するシチュエーションホラーとして徹底されていないなら、むしろ観ていると勝手に元気になる方がいい。特に、ショック演出のタイミングやシナリオがしっかりした映画よりも、『キャプテン・スーパーマーケット』のように、怖がらせることやストーリーの整合性よりも、滑稽な笑いにまで繋がってしまうような映画がすごい。
ようやく観た『悪魔のいけにえ2』もそう。恋するレザーフェイスにチェーンソー二刀流で対抗する保安官。失敗しかしない爺様。無駄な動きだらけでまともな人物が一人もいない。1のラストではレザーフェースが逆光を浴びてチェーンソーを振り回すが、2のラストではヒロインのストレッチが逆光に向けてヒッチハイカーを蹴落とし、舞うというセルフパロディ。爽快にご飯がまずくなる感じがたまらない。
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それにしても、『キャリー』のプロムの描かれ方や、『死霊のはらわた』『悪魔のいけにえ』ほかサマーキャンプの描かれ方などを観るにつけ、ホラー映画はモテに対して何か具体的な恨みがあるのではないかと思ってしまう。ヘビメタやロックを騒音で聴く男女に漏れなく立つ死亡フラグ。闇夜でいちゃつこうとするカップルに迫っていく手ブレカメラ。そのくせお気に入りのヒロインのエロティックな描写。「やーねあの人、今時映画なんて撮ってるわよ」「あんなのは放っておいて行こうぜハニー」と学生時代の若かりし監督に冷笑を浴びせたカップルに対する私怨をフィルムにぶつけているかのような。気のせいか。
おまけ:ビル・モーズリィインタビュー動画があった