「ニコニコ自演騒動」のさなかに垣間見た「ネット街宣」のすごさ

ニコニコ動画での自作自演が話題になっています。

動画にコメントが付けられるサイト「ニコニコ動画」をめぐり、「自作自演動画」が話題になっている。動画の内容をほめるコメントが、実は動画の作者によるものだということがばれてしまうケースが相次いでいるのだ。
(…)これまでは、コメントを誰が書いたか分からない仕組みだったため、コメントを仮に動画の作者自身が書いていた、つまり「自作自演」していたとしても、文脈が明らかに不自然でない限り、ばれにくい仕組みだった。
ところが、データベースには、「誰が書き込んだか」という情報(ID)は記録されており、「プロクスオミトロン」通称「オミトロン」と呼ばれるソフトを使用すると、画面上にIDが表示されるようになることが分かったのだ。その結果、動画投稿者とコメントを書き込んだ人のIDが一致する、つまり「自作自演」の事例が続々と判明したのだ。
http://news.livedoor.com/article/detail/3280633/


ソフトウェアオミトロンを使うと、コメント欄部分にIDが表示されるようになり、その結果“自分の動画を褒めるコメントを大量投稿することでランキングを操作していた人々”の存在が「発覚」。それを受けて他ユーザーらが、操作していた人を例によって過剰に叩くという騒動に発展しました(ニコニコ動画で自演しまくり@ニュー速)。「発覚」と括弧付きで書いたのは、元々運営サイドの人や一部の人は、事情などは把握していたり予測していたはずだけど、裏側(向こう側)が漏れることで、知っている人/知らない人の「区別」が瞬間的に崩れ、一挙に「騒動」へと発展したという要素があると思われるので。


2ちゃんねるの、IDが表示される板などでは、あまりに露骨な自作自演は控えられがちに思うけれど、ニコニコ動画の場合、匿名だという前提の下で多くの行為が行われており、その前提が事後的に(瞬間的に)崩れたことで一連の「祭り」になったのが特徴的。匿名コメント制度の例も、オミトロンの例も、技術は人に行為を欲望させるんだなと思わされる。


ところで、コメントをしていた人のIDが分かるのであれば、自作自演だけでなく「大量に同一趣旨のコメントを書き込んでいる人」の存在も分かるということになります。昨日のエントリを書いている時に目に留まったのですが、2ちゃんねる維新政党・新風スレに、次のような書き込みがありました。

539 :日出づる処の名無し:2007/08/24(金) 10:01:53 id:YjimBM8j
ttp://upsurusuru.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/src/up0825.txt
ここのID:15699
完全に病気


540 :日出づる処の名無し:2007/08/24(金) 10:42:23 id:XVU11GRU
>>539
すげえ・・・完全に狂ってやがる。
ちょっとエクセルでカウントしてみたが1000個のコメントを 68 人が
書き込んでるんだが ID:15699 がたった一人で 694 回書き込んでやがる。
っていうかコメント数上位 4 人だけで 798 回ってwwww

ネウヨって見かけの数は多くても実数はそんなにいないんだな


542 :日出づる処の名無し:2007/08/24(金) 15:08:33 id:nSd6F/Ri
歌ってみた関連のニコ動で
自演叩きがブームだけど
それどころじゃないな


544 :日出づる処の名無し:2007/08/24(金) 16:38:01 id:XVU11GRU
ID:141875 こいつなんかもすげえ

05月02日 01時38分 から 01時52分 までのわずか 14 分で
56 回も書き込みしてやがる。実に 15 秒に一回
チョンを殺しても無罪です とか 在日糞ばっかだな氏ね とか書き込んでやがる。

書き込んでる様子想像したら吐きそうな位気持ち悪いんだが・・・


これは、膨大な量の「ファナティックな政治的書き込み」が、実際はごく一部の人が大量に書き込むことによって作られていたという指摘。上で投下されているテキストファイル(ミラー)のコメント抽出元がどこなのかは少なくとも上スレ上では明らかにされていないので、このソース自体が本物かどうかは現段階では分かりません。ただ、こういうことはありうるだろうとは、容易に想像できます。


例えば、この動画。




この動画は、再生回数が5万回代なのに対して、コメント数は13万回代。この数字のバランスから、「コメント投稿者率が高く、平均2〜3回ずつ書き込みが行われている」と考えるのは難しい。実際にはコメントをせず、最後までみない者も多数いるだろうし。むしろ、大量に書き込みをしている人がいるだろうと予想できる。


実際にオミトロンを使って調べてみたところ、やはり大量の野次を書き込む人と、大量の賛辞を書き込む人がそれぞれ数十人いて、あとはまばらに発言をしているというような感じだった(sample)。プレミアム会員になっていないので過去の分を調べられず、時間をかけていないのでエクセルなどで計算することもしていない。いつかはちゃんとデータを取ってみたいと思っているのだけれど、実際に上コピペと変わらないような状態は存在しうるとは思った。


この中には、冗談で書き込んでいる人もいるだろうし、ガチの人もいるかもしれない。ガチの場合だと、この動画にコメントを書き込むことが発揮する直接的な政治性はゼロに等しいため、批判するのであれ肯定するのであれ、別のことをしたほうがいいはと思う。ただ、個人の動機はいつもながらあんまり興味がなくて、気になるのはやはり“現象”の方。


以前マスコミ学会での講演で、「普通の人」が少量ながらもたまにノリで書きこむ政治的なカキコや差別的な言説が、ネットによって繋げられることで膨大な量となり、そこで構築された言説空間が特定のリアリティを形成するような現象を政治的リアリティのロングテールと表現した。それを運動体が動機に変え、時に政治コミュニケーションに接続させることで、思いもしなかった効果を瞬間的に持つこともある、という話だった。


この言葉について考えていたとき、その逆のこともありうるんだろうなと思っていた。それは、今回のケースが示唆するように、例えば「一部の人」がネットで繋がって連帯し、少数ながらも膨大な量の書き込みを熱心に行うことで、ある特定の分野においては「普通の人の書き込み」の総量を「一部の人の書き込み」が上回ることがあるということだ。こちらはさしあたり、「政治的リアリティのロングヘッド」と呼んでおく。


「ロングヘッド」の場合も「ロングテール」の場合も、偏った世論形成が瞬間的に行われる可能性があるという点で興味深い。ほとんどの場合は瞬間的なもので終わると思うけれど、それが長期的なシステム設計の場などにおいて採用されてしまったりすると、悲劇的な結末にもなりうるだろう。これから、そういう歴史を一度は歩むことがあるのかもしれない。あまりないとは思うけど。


なお、「政治的〜」とは書いたけれど、おそらく政治以外のトライブでもある程度当てはまる現象ではあるため、「部族的リアリティ」と言い換えた方がいいのかもしれない。この辺りの話は結構面白いので、もう少し腰をすえて調べる時間が欲しい。




※この大量のコメントがスクリプトだったら、それはそれですごい。



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