日本にも宗教右派があるって、どれくらい知られてる? 

一昨日、「「新しい歴史教科書を作る会」会長&名誉会長コンビが出した「ジェンダーフリー・バッシング本」の面白さ。」というエントリーを書いたところ、多くの反響をいただきました。ポイントまでいただいて、ありがとうございます。



ところで、「はてなブックマーク」ではid:finalventさんが「ネタにするだけじゃなくて、これの裏をもうちょっと洗うと面白いんだけどね」と仰っています。そして、その後「finalventの日記:あまりずばりとは書かないけどね」というプチエントリーをお書きになりました。えーと、やっぱり触れなきゃアレですかね、この件。ええい、chikiもあまりずばりとは書かないけど、せっかくなのでもう半歩だけ踏み込んでみます。でも、八木先生、西尾先生にインスパイヤされて、ちょっと「陰謀論」っぽい? 



アメリカでは、ブッシュ大統領が進化論に否定的だったり、「純潔教育」(セックスさせない、性知識を一切教えない)を猛プッシュしたりしていて、テレビやネットでもたまに「アメリカは宗教右派が力をもっていてヤバス」というようなことが言われたりします。「カトリーナは同性愛者への天罰だ」なんて記事を見るにつけ、宗教右派的な言説は根深いなぁと唸らされる。それでも「ま、アメリカだし」で済ませる人も多いのではないでしょうか。



でも、日本だって無縁じゃない。最近web上で話題になった「「反進化論」米で台頭 渡辺久義・京大名誉教授に聞く」とか見て「ありえねー」と反応した人も多かったけど、これだって一応「裏」があって。この記事を読んだ人が「《新しい理科教科書を作る会》でも立ち上げればいいのにw」という冗談を書いていたけど、結構キワドイところをついていると思いました。それには以下のような「陰謀論」めいたお話があるから。



「「新しい歴史教科書を作る会」会長&名誉会長コンビが出した「ジェンダーフリー・バッシング本」の面白さ。」では、同性愛者の悪口をいい、純潔教育を支持し、怪しいソースでジェンダーフリーをバッシングするお二人をご紹介しました。「男女共同参画性教育ってそもそも関係ないじゃん」「なんで共同参画、ジェンフリ性教育をいっしょくたにしてんの?」というツッコミは置いておくとして、結構「え?」と思われ方が多かったのが、次の部分。


八木秀次:ここで『南日本新聞』が取材した結果、男女同室着替えの実体がなかったことがわかったとの話はデタラメです。川崎市の県立高校は『南日本新聞』の取材では否定しながら、『世界日報』の取材ではこれを肯定しています。「証拠はない」のではなく、あるのです。

まず、せめて「真実は闇の中」とぼやかすならともかく、どうして確認取材をした地元紙『南日本新聞』を信じないで『世界日報』を信じるのかな、と。あと、「ジェンダーフリー」でググると、スポンサーリンクに『世界日報』のバッシングキャンペーンHPが表示され、検索上位には『世界日報』を引用したバッシングサイトがやたらと大量に出てくるのって関係あるのかな、と。そもそも『世界日報』って、過去の記事は会員じゃないと読めないのに、なぜこれほど引用サイトが多いのか、と。



世界日報』がどういうメディアかご存じない方は「Wikipedia:世界日報」を見ていただければと思いますが、「悪徳商法?マニアックス:ジェンダーフリー・バッシングの真実?」および「電脳遊星Dにタレコミ送ったら無視された」などを見ると、次のように書かれています。


統一協会とその政治部ともいうべき国際勝共連合は、これまでのジェンダーフリー性教育バッシングにも深く関連してきましたし、むしろ原動力としての役割を果たしてきたといえます。(…)その背景と起点となっているのは、統一協会の「新純潔宣言」なるものがあります。その目的は明快につぎのように述べられています。「私たちは、現在すすめられようとしている『性教育』性解放思想に基づく性器・性交・避妊教育には反対します」としたうえで、「その目的は、統一原理に基づいた愛と性に関する真理を提示し、青少年に神の息子・娘としての自覚を持たせることにあります」と書かれています。教祖の指示で結婚も含めてすべてのことが決められる統一協会にとって、結婚に関していえば両性の合意で決める憲法の規定さえじゃま者で、まして性を科学的に学ぶことや性的自己決定能力をはぐくむことは許すことのできない考え方なのです。

あらかじめ言っておくと、chikiは信仰持ちではありませんが、友人に仏教徒創価学会員、クリスチャンもいますし、宗教家をリスペクトしています。また、宗教に関わるデマがとても多いのも知っているので、こういう情報も最大限疑いながら読んではいるのですが、「新純潔宣言」が存在すること、『世界日報』が実際に「純潔教育」キャンペーンを展開していること、「「ジュンケツ!」「ジュンケツ!」(純潔)」とデモ行進したりしているのを見ると、少なくとも純潔教育」のためにジェンダーフリーバッシングをしている人たちがいることは確かなよう。あと、ジェンダーフリー性教育は別なんですが、「男らしさ・女らしさの押し付けからの自由」もアウトみたい。



それから、「教祖の指示で結婚も含めてすべてのことが決められる統一協会」という一文を見て、西尾さんと八木さんが上野千鶴子さんを繰り返し「教祖」という比喩で表現している理由、西尾さんが「お前とお前は一緒になれ」と誰かが命令して結婚させることがすばらしいことのように仰っていた理由が分かるような気もします。つまり、お二人がどういう読者を想定して話していたのか、とか。でも、これは邪推でしょうか。



もちろん思想・信条の自由があるので、「男らしさ・女らしさ」を目指して自己実現することはOK、そういう共同体を作ることも、デモなどで表出するのもOKなんですが、それを押し付けるのはちょっと勘弁してください。特に気になるのは、安倍晋三さん、山谷えり子さんらが八木さんとかの言っていることをコピペして、「行き過ぎたジェンダーフリーは明らかな間違い。彼らは結婚・家族の価値を認めない。これは社会、文化の破壊で看過できない」(参照)とか言ってみたり、「「過激な性教育・ジェンダーフリー教育を考えるシンポジウム」開催」とかしてみたり、「過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクト」とか展開したりしてること。



ちょっと待って、政権を握っている党の政治家が「この本」の内容を真に受けてるんですかい、と。そんなんで本当に「男女共同参画を阻止!」「24条(両性の本質的平等)の廃止を!」とか言っているなら、平等問題への対応も経済構造への対応も遅れて、批准した国際条約にも反するのでそれこそ「国辱」にならないですか? あと、「はてな:統一教会と自民党との関係を詳しく教えて下さい」という質問のやりとりにもあるように、公明党政教分離を批判するなら、レベルが違えども同様にこちらの問題も扱わないと明らかにフェアじゃないと思うんですけれども。



で、id:ti_zujpさんがこれを受けて、「ジェンダーフリー叩きの次は反進化論。そこら辺って繋がりあるのかなぁ…」と仰っていますが、これについてはid:Schwaetzerさんの「メディアリテラシーについて:今こそ産経バッシングをなぜしない」にも書かれていますね。また、「macska dot org」さんのコメント欄には

インテリジェント・デザインを研究する学会」の連絡先を見てみると、「世界平和教授アカデミー内」。で、その「世界平和教授アカデミー」というのは、もちろん統一教会系の団体ですね。


とのこと。うーん、奥が深い。なんで怪しいソースを使いまくってまで、ジェンダーフリー男女共同参画と包括的性教育をごちゃまぜにしてバッシングするのか、分かった気がする。この「記事内容の捻じ曲げ方の件」も、ひどいと思うし。



ただ、こんなエントリー書いておいて言い訳がましいけど、個人的にはこの手の議論に「陰謀論」的に触れることは本当にためらわれる。基本的には「議論で徹底的に事柄を明らかにした方がいい」という立場ですし、この問題に関しても「これは誤解です」「こうしていきましょう」という対話をしていきたいと思っている。「あいつらは左翼だから」「あいつらは宗教だから」というレベルではまともな議論は全然進まないし、このエントリーをそのようなレッテル貼りで終わらせたくない。バッシングの対象が変わるだけでは意味がない。また、中には「作る会は韓国宗教団体が愛国結束を目論むための自作自演説」もあったりして、さすがにこれは勘ぐりすぎではないかと思ってる。



但し、議論が進まなくても政治と時代は進んでいく。少しでも政治現場に携わった人やニュースを見ている人なら、結構「ダーティー」なネゴシエーションが理性的な議論より力を持つ場面が多いことは知っているはず。これだけ、あからさまにデマばっかり流れている状態はまずいし、安倍さんとか次期首相とか一部で言われているのにこの状態はまずいと思うので、どれがデマかということだけでなく、「誰が、何のためにデマを流しているのか」ということは考えておいたほうがいいと思う。現に、自民党は選挙期間中だけ「過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクト」のバナーをはずしていて、選挙終わった日に復活、今は新しいページも公開されてます。こういうデマばかり流していると、票が逃げる、呆れられるということが分かっているんでしょ。だったら、ちゃんと「見張ってるからね」と言っておきたい。安倍さんだけじゃなく、政治家が「見張られてる」と意識することは必要だから。そんなこんなで、組織票に埋もれないようにパブリックコメントはちゃんと出そうと思ってる。その旨をあらためてここで宣言したいと思います。



それと、ジェンダーフリー論者は狂ってるとか柴犬以下とかレッテル貼りをしていたら、いつか多分「韓国から生まれた宗教団体が男女平等に反対している」という部分だけクローズアップされて痛い目にあってしまうからやめたほうがいいと思う。ネットでは、今は「ネット右翼」とか呼ばれてフェミニストや左翼へのバッシングが強いけど、だからといってその人たちは世界日報産経新聞を正義だと思っている右翼思想の持ち主だというわけでは全然ないので、散々煽った後にバッシングのターゲットにされたらどうするの? と思う。特に韓国バッシングがこれだけ盛り上がっているんだから、なおさらだと思います。






長くなりました。最後はやっぱり、この言葉でしめさせていただきます。








以上はインターネットから拾ったものです。





補足:「安倍さん。教育問題を語る前にご自身の国語教育をお願いします」
※10/8補足:このエントリーに「宗教右派(Religious Right)」というトラックバックを頂きました。お読みいただければ分かると思いますが、このエントリーの「宗教右派」という括り、使い方が間違っているだけでなく、無駄なラベリングにもつながるから注意すべきというご批判になっています。深みがありかつ重要なご指摘だと思いますので合わせてお読みください。